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2012年11月6日火曜日

Colors


Colors

例年になく長い残暑が過ぎ、気がつけば突然晩秋となっていた。東北の山も遅い紅葉の時季を迎え、絢爛とした色彩が森を覆い、遠くの山頂に冠雪を望むことができた。ジョージ・ウィンストンのピアノ曲「Colors」が頭の中に響いた。
奥羽山脈を越える時は摂氏5度の気温であったが、花巻に下ると10度ほどの暖かさであった。宮澤賢治がイーハートーブと呼んだ山あいの土地である。田園風景がのどかで美しい。紅葉の赤や黄色がとても濃く、背景の緑との対比が鮮烈だった。昼夜の大きな温度差が、美しい木々の色づきをもたらすのだという。午後4時頃には急に日が傾き、気温が下がるのを感じた。
翌朝早く宿を出て、ぴりっと冷えた夜明けの空気を吸って、小川沿いに裏山の小道を登ると、森の中は色彩の交響曲だった。朝日の中を進むと、やがて岩の中から水が沸き出すような形をした滝にたどり着いた。川の水が山肌の色彩を写して美しい。むかし賢治の見た同じ光景だという。苔むした橋を渡って、落葉に覆われた道を踏みしめ山を下りた。
花巻を後にして、伸びやかな北上川の流れを遠くに見ながら、平泉を訪れた。中尊寺あたりに近づくと、突然のように人と車が多く雰囲気が変わった。しかし周囲の自然と境内は本当に美しく別世界であった。奥州藤原氏の遺産である金色堂の極楽浄土の色彩が目の奥に焼き付いた。かつて松尾芭蕉がこの地を訪れた時に感じたであろうように、東北と日本、そして世界の平安を祈りながら旅を終えた。

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