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2015年4月28日火曜日

神奈川県内科医学会定時総会事業報告 肝炎対策委員会 2015年5月16日









2015年4月14日火曜日

高血圧治療ガイドラインJSH2014の特徴と変更点  札幌医科大学 学長 島本和明 先生 日本臨床内科医会総会特別講演2 2015年4月12日 京都ホテルオークラにて

高血圧治療ガイドラインJSH2014の特徴と変更点  札幌医科大学 学長 島本和明 先生

 「人間ドック学会の基準値147/94に惑わされることなく、自信をもって正しい診療にあたってください」高血圧治療ガイドラインJSH2014作成委員長である演者は確信をもって、こう語りかけた。日本人間ドック学会が血圧の基準範囲とした95%信頼区間は、赤血球・白血球・ALT・AST等、現在病気があるかないかの指標には用いられるが、将来の合併症発症の観点から診断基準を決める高血圧・糖尿病・LDLコレステロール等には使用されるべきものではない。単に今現在健康な人の実態を示したに過ぎないもので、逆は真ではないのである。今回の血圧の基準範囲は、ドック学会も診断に使うものでないと自ら認めているにもかかわらず、ダブルスタンダードとして「基準範囲」という言葉を残そうとしていることが混乱の根本的原因である。さらに話題性に乗じたメディアの無責任な情報の垂れ流しによって、適切な治療の機会を失った多くの患者がいまだに存在することは極めて残念なことである。国民の健康を侵害するこのような行いは断じて許すことはできない。
 2014年に公表されたJSH2014の特徴は日本人患者を対象とし、実地医家のためのエビデンスに基づき、合意も取り入れたevidence based consensus guidelineを目指したことである。あくまでも標準的治療法を示すもので、医師の処方裁量権を侵すものではない。また日本医療機能評価機構Mindsの方針に沿って作成した。ガイドライン(GL)はできるだけエビデンスに基づき作成するが、それのみで作成するのは困難なため、エビデンスを補完するものとして作成委員による合意形成を用いるのが現実的である。合意形成にあたって、権威ある委員の影響(ハロー効果)や群集心理(バンドワゴン効果)のバイアスを除くため、Delphi法(個人で考え、全体討論し、また個人で考える)を用い、作成委員個々の意見を重視して初案を作成し、多くの討論・会議・パブリックコメント・公聴会を経て最終案とした。臨床GL評価法としてMindsの推奨する国際的なAGREEⅡ評価を改善に用いたのは完成度を高めるのに有用だった。
 JSH2014には46の変更点があるが以下の8つが重要である。1)家庭血圧測定方法を1機会2回測定の平均とし、診察・治療には家庭血圧評価を優先させた。2)第一選択薬からβ遮断薬を除いた。ただしβ遮断薬がふさわしい症例では使用すべきである。3)リスク層別化から正常高値を除き単純化した。4)若年・中年者(非高齢者)の降圧目標を140/90未満、75歳以上の高齢者では150/90未満と緩和した。5)我が国は脳卒中が多いため、糖尿病合併高血圧の降圧目標は欧米と異なり130/80未満を維持した。6)CKD合併高血圧で尿蛋白(+)では130/80未満を降圧目標とし、ARB・ACE阻害薬を推奨した。7)妊娠高血圧の降圧薬選択にラベタロールとニフェジピン(20週未満)を追加した。8)授乳期に使用可能な降圧薬を提示した。
 今回初めて一般人向けの高血圧GL解説冊子「高血圧の話」も刊行した。患者からのよくある質問に答えるスタイルでまとめられており、高血圧とは何か、どうして怖いのか、予防と治療について必要な知識などをわかりやすく解説している。高血圧診療にあたる医師もぜひ一度目を通しておいていただきたい。
 次回の課題としては、1)ジェネリック医薬品の位置づけ。2)PWV・CAVIの危険因子としての位置づけ。3)周術期のβ遮断薬の位置づけについて再検討する。4)より厳格なシステマティックレビューの方法を検討する。5)エビデンスレベルの低い項目のエビデンスづくり。6)高血圧患者が妊娠した場合の降圧治療についての検討。7)白衣高血圧を治療不要と診断するにあたり、1日2回測定では不十分で、できるだけ多く測定すべき。またABPM実施の意義の検討。8)腎交感神経アブレーション治療の治験が停止している状況にあって今後の進展を注視していく。9)血圧の変動性の大きさが脳卒中イベントに及ぼす影響をどう評価するか。10)認知症合併高血圧のエビデンス集積といった点であろう。
 国際的なGLである欧州のESH/ESC、米国のJNCともに改訂にあたって作成方針を変えエビデンスに厳格なGLとした。ESH/ESCは原則として第一選択薬の記載をやめ、すべての降圧薬を用いて140/90未満とする1990年代のGLに戻ることとなり、JNC8では高血圧の定義すらはっきりしない状態で、エビデンスに拠りすぎるとGLにならないことが露呈した。特に米国では2013年11月から3つのGLが発表され、内容がいずれも異なるという混乱ぶりである。これに対して我が国のJSH2014はESH/ESCやJNCに対して独立した立場で作成されている点も重要な特徴であり、世界に誇れる内容のGLではないだろうか。
 高血圧の治療は大きな進歩を遂げ、ほぼコントロール可能な疾患となってきた。しかし現状では高血圧はいまだに世界中で最も多い病気で、日本人の約4300万人が罹患しており、その大部分の人々が高血圧の真の恐ろしさを知らないでいる。高血圧は心血管病の主要な危険因子であり、特に脳卒中の最も重要な危険因子である。超高齢社会に生きる患者さんの健康で幸せな生活を守るためにJSH2014を役立て、さらに良いものにしていきたいと思う。