2011年12月5日月曜日

学会の動き(神奈川県内科医学会)

「学会の動き(神奈川県内科医学会)」学術1部長 岡 正直
【第36回臨床医学研修講座報告】
 第36回臨床医学研修講座が2011年9月10日(土)に平塚プレジールにて東海大学担当で開催されました。当講座は大学の進んだ医療を開業医が学ぶ機会を作る目的で始まったものです。今回も4人の演者より最新の知識を学ぶことができました。
1)「COPD(慢性閉塞性肺疾患)の現状と今後の対策」呼吸器内科 阿部 直先生
 COPDは可逆性の少ない進行性の気流制限を特徴とし、予防と治療が可能な疾患である。日本のCOPDの死亡率はこの30年間に約3倍に増加し、死因では第10位となった。米国ではすでに死亡率が第4位となり、全世界では2020年に社会的経済的負担の面でCOPDが第5位の疾患となることが予想されている。日本におけるCOPDの有病率は70歳以上では17.4%と非常に高く、その90%が診断されていない。画像上は、胸部単純X線および胸部CTで気腫性病変が有意に認められる気腫型COPD(肺気腫病変有意型)と気腫性病変がないか微細に留まる非気腫型COPD(末梢気道病変有意型)に分けられる。治療と管理は、重度に応じて、危険因子の除去、複数の気管支拡張薬、ステロイドの吸入、在宅酸素療法が主体となる。COPDの発症、重症化の防止のためには、個人の禁煙のみでなく、社会全体のたばこ消費量を低減することが重要である。
2)「骨髄異形成症候群の診断と治療 最近の進歩」血液内科 安藤 潔先生
 骨髄異形成症候群(MDS)は汎血球減少を3系統の骨髄血液細胞の形態異常を主徴とする疾患で、高齢者で発生頻度が増加する。我が国でも国民の高齢化とともに増加傾向にある。日常診療の中でも高齢者の原因不明の貧血では、MDSを鑑別疾患として考慮することが重要である。一方、MDSに対する治療法は確立されたものがなく、依然として輸血などの保存的療法が中心であり、有効な治療法の開発が望まれている。最近国内でも使用することができるようになった5-アザシチジンは世界で初めて第Ⅲ相臨床試験で治療効果の認められた薬剤であり、今後MDSの治療薬として期待されている。さらに、レナリドマイドはMDSの一部の症例に有用性が認められている。
3)「パーキンソン病の新治療ガイドラインをめぐって」神経内科 吉井 文均先生
 パーキンソン病治療ガイドラインは2002年に初版が発表された。その後9年が経ち、この間にドパミンアゴニストとしてプラミペキソールとロピニロールが、カテコールー0ーメチル基転移酵素(COMT)阻害薬としてエンタカポンが、新しい抗パーキンソン病治療薬としてゾニサミドの使用が可能になった。一方、ドパミンアゴニストの副作用として心臓弁膜症や突発的睡眠が注目され、その使用法については日本神経学会から「使用上の注意」も出された。近年、深部脳刺激療法(Deep Brain Stimulation:DBS)の長期的な効果も報告され、その有効性が広く認識されるようになってきた。また、睡眠・覚醒障害、うつ、アパシー、疲労、幻覚・妄想、認知症、自律神経症状などの非運動症状に対する治療の必要性も論議されるようになった。このような状況のなか、今年4月に9年ぶりに治療ガイドラインが改訂された。
4)「C型慢性肝炎の最新診断・治療」消化器内科 峯 徹哉先生
 C型慢性肝炎からの肝癌の撲滅にはインターフェロン治療が必須である。現在の世界的標準治療であるリバビリンとペグインターフェロン併用療法によりC型慢性肝炎の治癒率は飛躍的に向上した。最近ではIL28Bやcore遺伝子の変異を調べインターフェロン治療の効きやすさを治療前に予測することができる。今後まもなく導入される治療法にはプロテアーゼインヒビターとリバビリン、ペグインターフェロンの3者併用療法があり、その治療効果はさらにめざましいが、副作用について注意する点がある。これからの数年の間に、画期的な新薬が次々と登場することで、C型慢性肝炎はほぼ完治可能な疾患となることが期待されている。
【平成23年秋季学術大会報告】
 平成23年秋季学術大会が2011年11月19日(土)16時より18時30分まで、京浜急行横須賀中央駅前の横須賀セントラルホテル4階「ダイヤモンド」にて開催されました。
 秋季学術大会は高齢者医療に関する話題で企画されています。以前この会は横浜市内で開催されておりましたが、横浜以外の県内各地域で開催したいとの声を受けて、2010年より持ち回りで県内各地で開催することになりました。昨年(2010年11月20日)は藤沢市内科医会主管で「高齢者の脳と心臓をどう守るか」というテーマのもと多くの先生方の参加をいただきました。
 今回は横須賀内科医会の主管で「動脈硬化進展阻止を目指した高血圧・糖尿病治療戦略」のテーマのもと、神奈川県内科医学会副会長の沼田裕一先生が座長をされる講演1「最先端の降圧療法ー新ガイドラインに向けてー」を、愛媛大学大学院病態情報内科学教授 檜垣實男先生にご講演いただきました。引き続き横須賀内科医会幹事の工藤澄彦先生が座長をされる講演2「2型糖尿病の外来診療最前線」を、順天堂大学大学院(文部科学省事業)スポートロジーセンターセンター長 河盛隆造先生にご講演いただきました。以下に講演の簡単な内容を記します。
 講演1「最先端の降圧療法ー新ガイドラインに向けてー」
 わが国の高血圧患者は増加しており、4000万人を超えていると推定される。これは肥満者の増加と重なっており、日本の高血圧は主として肥満により発症していると考えられる。その多くは病識がなく、治療されていない患者が多い。近年男性と高年女性の肥満傾向が目立つが、若年女性のやせ傾向や喫煙率の上昇も問題である。低栄養状態や喫煙する妊婦の胎児にはepigeneticな遺伝子変化がおこり、飢餓に適応できるよう、小さな心筋、小さな膵臓、小さな腎臓などをもって生まれ、これは生涯変わることはないため、飽食や高食塩食などの環境の中では容易に高血圧や糖尿病を発症することになるのである。肥満に加えて食塩の過剰摂取も重大な問題である。日本人は世界一の食塩摂取量(11g/日)であり、推奨される6g/日未満を大きく上回っている。減塩を達成するためには個人の努力も必要だが、社会全体での取り組みがなされる必要がある。高血圧の治療においてARB(アンギオテンシン受容体阻害薬)がCCB(カルシウムチャネル阻害薬)よりも選ばれるのは、降圧効果以外の代謝改善や臓器保護作用があるからである。しかし単剤では降圧が不十分となることが多く、CCBや利尿薬との併用が必要となる。その際、薬の数が増えると服薬アドヒアランスが低下するため、配合錠の使用による工夫も有用である。現在の高血圧治療ガイドラインにおける課題をいくつか指摘し、次の新しいガイドラインに盛り込まれるであろう内容を予想した。最後に新しい高血圧の治療法として、腎動脈アブレーションの紹介を行った。
 講演2「2型糖尿病の外来診療最前線」
 2型糖尿病の治療目標は脳卒中や心筋梗塞の発症予防にある。脳卒中や急性冠症候群で治療を受けた人の内、正常血糖応答の人は20%に過ぎず、背景には耐糖能異常による動脈硬化が大きく関与している。頸動脈IMT(内膜中膜複合体肥厚:intimal plus medial complex thickness)は動脈硬化の状態を簡便に知りうるよい検査方法である。糖尿病の人はIMTの肥厚が、そうでない人の3-4倍の速さで進行する。糖尿病以前の高インスリン血症(インスリン抵抗性)の人も同様な速さで動脈硬化が進行するので、早い段階での治療介入が重要である。現在の段階的な治療アプローチでは、脳卒中や心筋梗塞の発症予防を達成するのは困難である。高血糖が続くことによる酸化ストレスが膵β細胞の機能低下をおこし、その結果としてのインスリン分泌低下が、膵α細胞のインスリンレセプタを介するグルカゴン分泌不全をきたすため、糖尿病においては高血糖と同時に低血糖も起こしやすくなる。また過剰なインスリン分泌が膵α細胞のインスリンレセプタ異常をきたす。糖尿病においてはインスリンのみならずグルカゴンの分泌異常も伴っており、この二つのホルモン異常の相関が糖尿病の病態の理解には重要である。食後における肝臓の糖取り込みは大きな意味をもつ。食後に肝臓が糖を取り込まないことにより、食後高血糖がおこり、これが膵β細胞機能低下をおこし、そのため肝臓の糖取り込みが低下するという悪循環となり糖尿病が進行する。よって糖尿病の治療のためには、食後に門脈を介してブドウ糖とともにインスリンとグルカゴンがしっかり肝臓に流れ込むようにすることである。DPP4は悪玉脂肪細胞から分泌される悪玉アディポサイトカインであることが最近わかってきた。DPP4阻害薬の登場は糖尿病治療に新しい道を開いた。若い患者にDPP4阻害薬を使うことによって膵β細胞が復活する可能性があるが、高年齢ではあまり期待できない。よって早い段階から多くの薬剤を併用しながら治療を開始することが重要である。近年いくつもの糖尿病治療薬が登場したが、αGIは肝臓へのブドウ糖の流入を減らす効果があり、グリニドやDPP4阻害薬は門脈を介する肝臓への素早いインスリン供給を、メトホルミンやピオグリタゾンやDPP4阻害薬は肝臓でのインスリンの働きを高める効果がある。αGIとDPP4阻害薬の併用は好ましい組み合わせである。最近ヨーロッパでピオグリタゾンの膀胱癌発症のリスクが話題となったが、そもそも糖尿病であることが多くの癌の発癌リスクを高めており、あまり問題とすべきではないと思われる。
 当日は非常な悪天候にもかかわらず、多くの参加者による熱心な討議が行われ、明日からの臨床にとても役立つ講演会だったと思います。
【平成24年新年学術大会予告】
 平成24年新年学術大会が、2012年1月19日(木)18時45分から21時まで、横浜駅西口前の横浜ベイシェラトン&タワーズ5階「日輪」にて開催されます。テーマは「喘息死ゼロへの挑戦」です。
 呼吸器疾患対策委員会副委員長の小野容明先生が座長をされる基調講演「患者吸入指導のコツと吸入デバイス操作法のピットホール」は、東濃中央クリニック院長 大林浩幸先生にお話しいただく予定です。また、呼吸器疾患対策委員会委員長の西川正憲先生が座長をされる特別講演「喘息治療のup to date」は、杏林大学呼吸器内科主任教授 滝澤始先生にお話しいただく予定です。終了後、情報交換会の場を設けております。なお本講演会は日本医師会生涯教育講座に指定されております。
 新年学術大会は2つの講演が互いに関係する分野の話となるよう企画され、テーマの内容について深く掘り下げた理解が得られるまたとない絶好のチャンスです。
【第75回集談会予告】
 第75回集談会が2012年2月18日(土)15時から18時まで小田急本線本厚木駅北口より徒歩5分のレンブラントホテル厚木(もとロワジールホテル)にて厚木内科医会の主管で開催される予定です。多くの演題の発表と活発なディスカッションが期待されます。17時からの特別講演は「腎障害を伴う高血圧治療」を埼玉医科大学腎臓内科教授の鈴木洋道先生にお話しいただく予定です。一般演題と特別講演の進行と並行して、別室にて頸動脈エコー、血圧脈波検査、骨塩定量を希望者に行う予定です。休憩室ではコーヒーやスナックの準備もございます。
 厚木はハーモニカの聖地と言われています。18時からの懇親会ではハーモニカの演奏と、厚木内科医会幹事の今岡千栄美先生によるオペラ歌唱のご披露も頂戴する予定です。是非多くの先生方のご参加をお願い申し上げます。
【第82回定時総会時学術講演会予告】
 第82回定時総会が、平成24年5月19日(土)午後に、神奈川県総合医療会館にて開催され、引き続き定時総会時学術講演会が行われる予定です。
 従来、定時総会においては各事業委員会の活動報告や2月の集談会での優秀演題2題の発表を行い、その後の学術講演会では最新の医療に関する特別講演を拝聴することになっておりました。その内容が極めて充実しているがゆえに、長時間の拘束時間が参加者の負担となっていたことも事実です。
 来る第82回の定時総会および定時総会時学術講演会からは、2つの大きな変更が行われることになりました。
 第1点は、今期より学術Ⅱの部会の事業委員会から「禁煙分煙推進委員会」と「ジェネリック問題対策委員会」を新設の社会公益部会の事業委員会として分離させたことに伴い、社会公益部会の事業委員会の活動報告を秋季学術大会に移動し、また集談会の優秀演題の発表も秋季学術大会に移動することにより、全体の時間の短縮を図ることにしました。
 第2点は、総会および総会時講演会の企画運営に共催メーカーの関与をなくし、100パーセント神奈川県内科医学会による開催としたことです。これによって、共催メーカーの利害に配慮する必要もなく、会員の皆様が本当に聞きたいと思う講演テーマを自由に企画できるというメリットが生まれました。これからは今まで以上に多くの先生方の声をお聴きして、魅力的なテーマを企画できるものと期待しています。現在、「医事紛争問題」をテーマに企画を進行中です。