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2012年4月18日水曜日

平成24年度診療報酬改定について

第29回日本臨床内科医会総会
 2012年4月15日 国立京都国際会館にて
特別講演1 「平成24年度診療報酬改定について」
 中央社会保険医療協議会 委員 安達秀樹 先生
 今回の全体改定率はプラス0.004%である。前回の改定で財務省により医科4800億円の財源の使いみちにも枠をはめられたのは、厚労省保険局医療課および医療従事者側にとっては屈辱的なことであった。今回はエビデンスに基づいた中医協の審議の在り方によって、財務省の圧力を抑え込むことができた。直近の総請求額に占める技術料の割合によって、医科・歯科・調剤の配分は1対1.1対0.3となったため、医科の財源は前回とほぼ同等の4700億円となった。この4700億円の割り振りは「救急など病院勤務医の負担軽減」に1200億円、「医療と介護の連携、在宅」に1500億円、「がん、認知症、医療技術の進歩促進」に2000億円となった。
 現在の医療崩壊は病院崩壊によるところが大きいが、財務省内には病院より診療所に配分が多すぎるという根強い認識があるため、おおもとの財源を増やすことなく、診療所への配分をカットして病院へ回せばよいと考えている。きびしい財政状況のため、この誤った認識を財務省はあえて改めようとはしない。今回の配分は入院に3300億円、入院外に1400億円である。
 今回の改定の特徴の一つめは、いままで続いてきた「大病院の救済」に一定の終止符を打って新たな方向へ進みだしたことと、二つめは「社会保障と税一体改革」において、2025年の姿として描かれた病院病床機能の分化強化と連携、在宅医療の充実、重点化効率化等の推進への方向性が示されたことである。
 今回の改定のメッセージは以下の3つになる。紙面の制限により項目のみ列挙する。
(1)病院体制の再編と明確化:7対1入院基本料の算定要件見直し、DPC制度(急性期入院医療の定額報酬算定)の見直し、慢性期入院医療の適切な評価、救急・周産期医療の推進、亜急性期入院医療管理料の見直し、外来緩和ケアチームの評価、薬剤師の病棟における業務に対する評価、病院医療従事者の勤務体制の改善、病院勤務医の負担を軽減する体制、小児救急医療の評価、医療提供しているが医療資源の少ない地域に配慮した評価、救急外来や外来診療の機能分化の推進、認知症対策の推進など。
(2)在宅医療の強化:医療機関間連携等による在宅医療の機能強化と看取りの充実、在宅緩和ケアの充実など。
(3)社会から求められる役割:院内トリアージ、診療所の再診料、地域医療貢献加算の見直し、有床診療所の柔軟な病床運用など。
 今回はメッセージ性が高く試行性に富む改定になっているので、改定時に意図したような結果にならない可能性もある。中医協としては改定による変更の結果の検証が重要と考える。基本診療料の評価方法、とくに再診料をどういう基準に則って評価すべきなのかを考え直さなければならない。日本の診療所は診断・治療において世界に類をみないほど高機能であることが、病院の勤務医の負担の軽減に役立っていることを忘れてはならない。もし診療所の機能の低下があれば、勤務医の負担軽減どころではない事態となろう。認知症対策も重要である。高度先進医療や高度先進医療品の費用対効果の見極めも行わなければ、いずれ行き詰まってしまうことは明らかである。また、医療財源の出所が薬価の引き下げ分からしかないのも異常と思われる。在宅医療が推進されているが、もし在宅において介護病棟と同等のサービスを行うとすれば世帯の負担は非常に大きくなり、可処分所得の減少を招くことの是正も課題である。病棟での医療クラークや薬剤師や看護補助員の配置が進められる中で、依然として看護師の数だけで入院基本料を決めるやり方が適正といえるのだろうか。
 望ましい医療供給体制の実現にあたり診療報酬をめぐる問題は山積していると感じた。