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2012年11月14日水曜日

学会の動き(神奈川県内科医学会の動向)神内医ニュース69号


学会の動き(神奈川県内科医学会の動向)神内医ニュース69号 学術1部会部会長 岡 正直

 神奈川県内科医学会学術1部会が企画担当している講演会は、定時総会時学術講演会、臨床医学研修講座、秋季学術大会、新年学術大会そして集談会の5つです。

【第37回臨床医学研修講座報告】
  第37回臨床医学研修講座が2012年10月20日(土)14:10-18:10に横浜市立大学医学部市民総合医療センター(横浜市営地下鉄坂東橋駅最寄)本館6階会議室にて横浜市立大学と横浜内科学会の主管で開催されました。講演に先立って13:30より高度救命センターと心臓血管センターの院内見学が数名の希望者に対して行われました。横浜内科学会会長でもある宮川政昭副会長による開会の辞、中佳一会長による開会の挨拶のあと、2部に分かれた講演会が横浜市立大学医学部市民総合医療センター総合診療科の長谷川修先生の総合司会の下に開始されました。「市民医療向上への取り組み」のテーマに沿って行われた6つの講演について簡単に内容を紹介します。
 講演1「横浜市、神奈川県における広域の視点からみた小児医療の展開」横浜市立大学 医学部長 横田俊平先生(座長 横浜内科学会幹事 松浦秀光先生)
 約10年前、横浜の小児医療は崩壊の淵にあり、小児科医は疲弊していた。そこで横浜地域全体で小児医療を推進することとし、7つの小児拠点病院体制と15名の小児科医で救急医療をまかない、周産期医療を受け入れるまでに成長した。小児医療の集約化とネットワーク化は、2009年の新型インフルエンザ流行時にも威力を発揮し、災害医療においても効果的であることがわかった。社会の超高齢化が進む現在、小児科だけでなく、高齢者の介護・医療についても地域医療と拠点病院の連携を進め、推進役となる総合診療医の研修制度を整えることが課題である。
 講演2「胸痛の心電図診断 コツと落とし穴」横浜市立大学付属市民総合医療センター心臓血管センター 小菅雅美先生(座長 横浜内科学会幹事 悦田浩邦先生)
 ST上昇型急性心筋梗塞は発症早期に心事故を起こしうるため、早期に診断し、治療開始が必要である。再灌流療法のよい適応である急性期には心筋障害の生化学的マーカーが上昇していないことも多く、採血結果を待たず、症状と心電図所見から診断することが重要である。初回心電図で明らかでない場合でも、以前の心電図と見比べたり、時間が少し経ってから心電図を取り直して比較したりすることは有効である。具体的な症例とともに、心電図の読み方のコツと陥りやすい落とし穴について言及した。
 講演3「糖尿病の基礎知識と診療の実際」横浜市立大学内分泌・糖尿病内科 寺内康夫先生(座長 横浜内科学会幹事 織田美雪先生)
 近年わが国で2型糖尿病が急増しているのは、遺伝的にインスリン分泌能が低い日本人が高脂肪食や身体活動低下により、軽度の肥満であっても耐糖能異常をきたしやすいからであり、内臓肥満や脂肪肝にもなりやすいことがわかってきた。その病態としてインスリン抵抗性とインスリン分泌低下の両者が重要である。抵抗性は発症前から徐々に増悪し、発症後は横ばいであるのに対し、分泌低下は境界型の段階から進行し、発症後も経時的に低下するという病態に応じた経口血糖降下薬治療を行うことである。また糖尿病合併症として、様々な癌の発生が増加することも分かってきている。
 講演4「肺の生活習慣病、COPDの早期診断に向けて」横浜市立大学付属市民総合医療センター呼吸器病センター 金子猛先生(座長 横浜内科学会幹事 岩間博士先生)
 COPDはタバコの長期吸入による肺の炎症性疾患つまり肺の生活習慣病である。日本でも40歳以上の8.6%(約530万人)が罹患している可能性があるが、診断されているのは約1割に過ぎない。発症していても病識が乏しく、かなり進行しないと医療機関を受診しない。高血圧や脂質異常症や糖尿病などで通院中の患者の中にも未診断のCOPDが潜んでいるかもしれない。またCOPDは肺に限局した疾患でなく、炎症の波及により体重・筋力低下、心血管疾患、骨粗しょう症、抑うつなどもおこす全身性疾患であるため「40歳以上喫煙歴20年以上」を目安に呼吸機能検査を広く実施し、早く診断し禁煙・薬物治療を行うことが重要である。
 講演5「クリニックにおける急変対応と救急蘇生」横浜市立大学付属市民総合医療センター高度救命救急センター 中村京太先生(座長 横浜内科学会幹事 松丸克彦先生)
 クリニックでの急変は多くはないが、発生すると時に致死的であり、組織的リスク管理が必要である。起こりうる事故を「予測」し、緊急時対応を人(スタッフィング、指揮体制)物(防護と処置の資材)場所(処置スペース)通信(院内スタッフ、119、病院)処置(手順)につき予め策定しておく。さまざまな背景の市民があらゆる傷病者に対応できる1次救命処置(BLS)でアプローチをする。無反応無呼吸の傷病者には、まず胸骨圧迫から心肺蘇生(CPR)を開始し、2次救命処置(ALS)においても質の高い胸骨圧迫が重要である。また除細動の遅れも生存率が低下するので、早期にAEDを行い、AEDとCPRを並行すること。横浜市消防局のデータにより、クリニックからの転院搬送の現状と課題についても言及した。
 講演6「増える、腸の現代病!炎症性腸疾患の基礎知識から最新治療まで」横浜市立大学付属市民総合医療センターIBDセンター 国崎玲子先生(座長 横浜内科学会幹事 笹沼俊文先生)
 潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患が近年若年者を中心に世界的に急増している。神奈川県はとくに患者数が多く、2007年に内科・外科が協力して専門診療に当たる炎症性腸疾患(IBD)センターが設立された。原因不明だが発症には何らかの免疫異常が関与するものと推測される。下痢、腹痛、血便などの症状を繰り返し生涯にわたり治療を要する。皮膚や関節症状など腸管外症状で複数科を受診することもある。治療は抗炎症剤、免疫調整薬、食事療法、血球成分除去療法、内視鏡的治療から手術まであり、患者の病状などに合わせ、適切に判断し組み合わせて行う必要がある。
 82名の参加者が熱心に聴講し、活発な質疑応答がなされました。会の終わりに横浜市立大学医学部市民総合医療センター地域連携担当の山岡富美香係長の挨拶、宮川政昭副会長の閉会の辞をいただきました。講演終了後、病院向かいの浦舟複合施設12階アーク横浜にて意見交換会を行い、盛会のうちに終了しました。

【平成24年度秋季学術大会報告】
  平成24年度神奈川県内科医学会秋季学術大会が、平成24年11月17日(土)14時30分より川崎日航ホテル8階にて、第2地区川崎内科医会の主管(大会長 鶴谷孝先生)で開催されました。
  神奈川県内科医学会社会公益部会事業委員会より、「神奈川禁煙分煙推進委員会」長谷 章委員長、「ジェネリック問題対策委員会」北田 守委員長、「在宅医療委員会」久保田 毅委員長の活動報告のあと、第75回集談会優秀演題の表彰と講演が行われました。今回は、林医院の林正博先生「脂質異常症におけるイコサペント酸/アラキドン酸(EPA/AA)の検討-頚動脈エコーへの影響-」と、内科クリニックこばやしの小林一雄先生「SU薬高用量でコントロール不良な糖尿病患者における、DPPⅣ阻害薬併用前後のグルカゴン・インスリン値についての検討」が選出されました。簡単に講演内容をご紹介します。
 「脂質異常症におけるイコサペント酸/アラキドン酸(EPA/AA)の検討-頚動脈エコーへの影響-」
 血管内プラークは一度発生するとスタチンを投与しても容易に退縮せず、むしろ年々増加することが多いとされる。今回EPA1800mg1年間の内服による血管内膜肥厚の変化について検討した。MaxIMTとTotal plaque scoreとも軽度改善例が11例中4例と、ともに悪化例2例より多かったのはEPAの動脈硬化進展抑制を示していると思われる。悪化例ではスタチン投与のためLDLはむしろ低く、動脈硬化高度、腎機能低下の傾向を認めた。
 「SU薬高用量でコントロール不良な糖尿病患者における、DPPⅣ阻害薬併用前後のグルカゴン・インスリン値についての検討」
 SU薬にDPP4阻害薬を併用した場合の過度な血糖降下の原因は明らかでない。今回高用量SU薬(グリメピリド3mg以上)内服症例にて、DPP4阻害薬(ビルダグリプチン)併用前後でのグルカゴン、インスリン、血糖値、SU薬併用量につき比較検討した。カロリーメイト400kcal負荷後のデータをとり、その後SU薬減量とDPP4阻害薬併用して同様の負荷と測定を行った。DPP4阻害薬併用により血糖値低下、インスリン増加、グルカゴン低下傾向と、SU薬投与量減少を認めた。一部の症例でDPP4阻害薬投与にて、食後抑制されなかったグルカゴンが抑制される現象が確認された。
  最後に記念講演として「認知症疾患への対応について、診療および病診連携の立場から」を東海大学医学部付属大磯病院病院長 吉井文均先生にご講演いただきました。

【平成25年新年学術大会予告】
  平成25新年学術大会が平成25年1月17日木曜日に横浜ベイシェラトンホテル&タワーズにて開催の予定です。今回は肝炎対策委員会の宮本京委員長の企画により、「B型肝炎の今を知る」のテーマのもと2つの講演を予定しています。de novo B型肝炎やgenotype A急性B型肝炎などの話題で「わが国のB型肝炎:最近の動向と特徴」を慶応義塾大学薬学部教授 齋藤英胤先生に、また、核酸アナログ製剤の功罪などの話題で「B型肝炎ウイルスと炎症と発癌~治療戦略は如何に~」を東海大学医学部教授 峯徹哉先生にご講演いただく予定です。新年学術大会は2つの講演が互いに関係する分野の話となるよう企画され、テーマの内容について深く掘り下げた理解が得られるまたとない絶好のチャンスです。

【第76回集談会予告】
 第76回集談会が平成25年2月9日土曜日15:30より横浜崎陽軒(横浜駅東口)6階会議場にて
開催されます。発表形式はすべてポスター形式とし、各演題発表は座長のもと進行する形となる予定です。17:00より同じ横浜崎陽軒4階ダイナスティーにて骨粗しょう症についての特別講演を虎ノ門病院内分泌代謝科部長竹内靖博先生にお話いただいたあと、18:00より同じ横浜崎陽軒5階マンダリンにて意見交換会が行われます。ジャズバンド演奏も予定されています。多くの先生方のご参加を期待しています。

【平成25年度定時総会時学術講演会予告】
  平成25年度定時総会および定時総会時学術講演会が、平成25年5月25日(土)午後に神奈川県総合医療会館にて開催される予定です。
  従来、定時総会で各事業委員会の活動報告や集談会の優秀演題発表を行い、学術講演会で最新の医療に関する特別講演を行っていました。その内容が多く、長時間の拘束時間が参加者の負担となっていたため、平成24年度の定時総会および定時総会時学術講演会からは、2つの変更が行われました。
  第1点は、平成24年度より学術Ⅱ部会の事業委員会から「禁煙分煙推進委員会」と「ジェネリック問題対策委員会」を社会公益部会に移し、社会公益部会の活動報告と集談会の優秀演題発表を秋季学術大会に移行し、全体の時間を短縮しました。
  第2点は、総会および総会時講演会の企画運営に共催メーカーの関与によるテーマの偏りをなくし、原則的に神奈川県内科医学会単独による開催としたことです。これにより、会員が本当に聞きたい講演テーマを自由に企画できるメリットが生まれました。平成24年度は「医事紛争に立ち向かう」をテーマに行われました。来年度も、今まで以上に多くの先生方の声をお聴きして、魅力的な講演会を企画していきたいと思います。ご提案をいただければ幸いです。

【おわりに】
  学術Ⅰ委員会は平成22年度まで部会長をされた伊藤正吾先生の後を引き継ぎ、平成23年度より新たな体制で活動を開始いたしました。平成24年度も中佳一会長のご指導のもと、今までの長い歴史のある講演会に新たな変更や発展を加えながら、5つの基本講演会を開催することができたと思います。今後とも、神奈川県内科医学会本体事業である学術1部会の講演会開催にご協力とご参加をお願い申し上げます。

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