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2019年5月25日土曜日

定時総会時学術講演会 講演2 2019.05.18


渋滞のサイエンス~渋滞学とは何か~
東京大学先端科学技術研究センター教授 西成活裕

 来年2020年は東京オリンピックで人の混雑が予想され、目下いかに人を誘導するか検討中である。ネットショッピングの普及に伴い、物流が危機的な状態となっており、その効率化は待ったなしである。また、近年体内の蛋白質の渋滞が癌や神経変性疾患などの発症に関与していることが分かってきた。
 渋滞の研究は100年前の電話交換の渋滞に端を発した「待ち行列理論」によるものが主流であったが、近年排除体積効果を考慮した「セルオートマトン(CA)」を応用することにより新たな展開が開けてきた。CAとは、格子状のセルと単純な規則による離散的計算モデルである。非常に単純化されたモデルであるが、生命現象、結晶の成長、乱流といった複雑な自然現象をよく説明することができる。
 「渋滞」を科学的に定義するために必要な要素は流量と速度と密度の3つである。密度は「密度=流量÷速度」によって求められる。高速道路上の自動車を例に、道路に設置されたセンサーより得られたデータをもとに流量を縦軸に密度を横軸にグラフを描くと(図1)のようになる。密度が低いうちは、密度が増すにつれ流量が増えていくが、ある臨界点を境に密度が増すにつれ流量が減っていくことが分かる。流量が頭打ちになり減少に転じたあとの状態が「渋滞」であり、「渋滞」の定義である。液体である水が、臨界点の摂氏零度を下回ると固体の氷に変わるように「相転移」が起こったと考えられる。高速道路上の自動車の場合、臨界点となる密度は「1000メートル内に25台」となる。人間の雑踏の場合は「1平方メートル内に2人」で混雑となる。
 興味深いことに、昆虫のアリの行列には渋滞が存在しないことが知られている。進化の過程の中で、渋滞を起こす非効率なアリは淘汰され絶滅したのではないだろうか。アリの行列を観察すると、渋滞の臨界点となる密度の距離以内に詰めようとする個体がいないことが分かる。このことから渋滞を解消するためのヒントが得られるという。自動車の場合、渋滞の起こり始めた車列の途中に、あえて十分な車間距離を維持し続ける「渋滞吸収車」を何台か混ぜて走らせることにより、初期の渋滞であれば消してしまえることが、大規模な実験により証明できた。しかし、愚かな人間は車間距離が空くとすぐ間に割り込もうとするため、なかなかうまくいかないことが多いが、近い将来自動運転が一般化すれば渋滞の発生は無くなる可能性が高いと思われる。
 その他、混乱しない自動車や人の合流の仕方、結果的に早く行ける車線の選び方、非常口からの最も早い全員の脱出を可能にする設計、行列の混雑を消す音楽のテンポ、空港の入国審査を早く終わらせるための行列の設計など話題は尽きないが、最後に真核生物の細胞内で物質を運搬するモーター蛋白であるキネシンに関する

研究を紹介したい。(図2)キネシンは主にATPを加水分解しながら微小管に沿って運動する性質を持ち、細胞分裂や細胞内物質輸送に重要な働きをしていることが分かってきた。微小管を高速道路に、キネシンを自動車に当てはめて考えれば、ATP濃度が高い場合やキネシンの量が多い場合、キネシンの渋滞が発生することが予想される。この渋滞している部分と自由に運動している部分との境界を、実験により実際に観察することができた。キネシンの渋滞を解消することにより、多くの難病の治療につなげていきたいと考えている。

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naloearly さんのコメント...

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