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2014年5月30日金曜日

学会の動き(神奈川県内科医学会の動向)神内医ニュース72号

学会の動き(神奈川県内科医学会の動向)神内医ニュース72号 学術1部会部会長 岡 正直

 神奈川県内科医学会学術1部会が企画担当している講演会は、定時総会時学術講演会、臨床医学研修講座、新春学術講演会そして集談会の4つです。

【平成26年新春学術講演会報告】
 平成26年新春学術講演会が平成26年1月16日木曜日に横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ5階「日輪」にて午後6時45分より開催されました。今回は高血圧・腎疾患対策委員会の佐藤和義委員長の企画により、「神奈川県高血圧治療の実態」のテーマのもと、2つの講演が行われました。
 まず高血圧腎疾患対策委員会で3回行ったアンケート調査をまとめて昨年の高血圧フォーラムで発表し優秀演題賞を得た内容の報告である特別講演1「神奈川高血圧臨床実態断面調査2008-2011年」を小林病院院長羽鳥信郎先生よりご講演いただきました。講演内容の概略を以下に記します。
 2008年、2009年、2011年の3回、神奈川県内科医学会会員にアンケート調査を行った。降圧治療中の患者を無作為に抽出し回収した調査票を解析した。2008年は675名、2009年は332名、2011年は1076名の登録で、平均年齢は70歳前後、男女比はほぼ同等、BMIは24、合併症は脳血管障害・DM・CKD・OMIなどであった。降圧目標別に(1)ハイリスク群、(2)脳血管障害群、(3)65歳以上群、(4)65歳未満群に分けて解析をおこなった。降圧目標達成率は年度ごとに向上し(1)30%(2)60-75%(3)70-80%(4)20-40%、特に(4)の達成率向上がよく、全体として54-57%であり全国平均を上回っていた。平均外来血圧は133/76程度、年度ごとに外来収縮期血圧は低下していた。降圧薬は2-3剤の使用で年度ごとに増加傾向ありCCBとARBの使用が多かった。目標血圧が達成できていない要因については「この程度でよいのではないか」と考えている医師側の要因が大きかった。[終]
 次に特別講演2「CKDにおける集学的治療の意義と背景」を聖マリアンナ医科大学腎臓・高血圧内科教授木村健二郎先生よりご講演いただきました。講演内容の概略を以下に記します。
 慢性腎臓病(Chronic kidney disease:CKD)とは3ヶ月以上、蛋白尿または微量アルブミン尿、eGFR60未満が続くものをいう。末期腎不全(End-stage kidney disease:ESKD)のみならず心血管疾患(Cardiovascular disease:CVD)の原因となる。尿蛋白が多いほどESKDのリスクとともにCVDのリスクが増えるので尿蛋白の意義は大きい。このたびCKD診療ガイドを改訂し、eGFRと尿蛋白の組み合わせで重症度を分類することにした。
 全国にCKDは1330万人いると考えられている。このたび神奈川慢性腎臓病対策協議会(K-CKDI)で、神奈川県内科医学会会員の外来を何らかの慢性疾患で1年以上通院中の非糖尿病患者を対象に、アルブミン・クレアチニン比を測定できる尿試験紙(aution screen)を用いて調査を行った結果、CKDの頻度は43.4%に達していた。
 CKDとCVDに共通する増悪因子である高血圧や糖尿病などがCKDを進行させ、CKDの進行自体もCVDの増悪因子となる。また高血圧とCKDは互いに悪循環を形成することによってESKDやCVDの発症リスクを高めるのでCKD症例における高血圧は130/80未満に厳格に管理すべきである。腎保護効果を期待しACEI、ARBが第一選択となる。糖尿病の合併あるなしにかかわらず、尿蛋白があればRA系降圧薬がよい。ただし高齢者では110未満の過降圧に注意し脱水時には降圧薬を中止する必要がある。
 糖尿病合併CKDに対しては、血糖の正常化や130/80未満の降圧など、多くの医療職種が関わって集学的に治療を行う必要があるが、様々な臨床試験を通覧しても定型的な治療指針は見出せず、個々の患者の状況を考慮して個別的に管理することとなる。
 CKDをモニタリングするためのバイオマーカーとして、近位尿細管上皮細胞内にある脂肪酸の輸送蛋白である肝臓型脂肪酸結合蛋白(L type fatty acid binding protein:L-FABP)の尿中での測定方法を確立し、2011年8月に保険収載された。尿中L-FABPを尿中アルブミンやNAGと比較検討すると、尿中L-FABPの変動が治療のアウトカムを最もよく反映していたので、今後CKDの予後判定や治療選択の参考になるものと思われる。[終]
 新春学術講演会は2つの講演が互いに関係する分野の話となるよう企画され、テーマの内容について深く掘り下げた理解が得られるまたとない絶好のチャンスです。

【第77回集談会報告】
 第77回神奈川県内科医学会集談会が平成26年2月15日(土)に武蔵小杉のホテル精養軒にて川崎市内科医会の担当にて開催されました。午後3時から中会長と川崎市内科医会の羽鳥会長の挨拶の後、28演題を2会場に分かれて、すべて口演形式にて発表されました。5時30分頃より基調講演「ATTEST-K中間報告」を章平クリニック院長湯浅章平先生にご講演いただきました。講演内容の概略を以下に記します。
 糖尿病対策委員会による1000人を対象にしたASSET-Kを先行研究として、このたび高血圧腎疾患対策委員会が循環器医師を中心に500人を対象としたATTEST-K(実地医家が診療する2型糖尿病を対象にしたシタグリプチンの有効性安全性に関する調査研究)を行っているところである。その中間報告を行う。シタグリプチン投与開始後3ヶ月め、6ヶ月め、9ヶ月め、12ヶ月めの血圧、体重、HbA1c、血糖、脂質などの変化量を見た。背景としては肥満者が多い傾向があった。合併症としては高血圧が多かった。併用薬剤はグリメピリドやメトホルミンが多かった。血糖値は低下が見られたが、体重に変化は見られなかった。血圧は3ヶ月以降低下傾向がみられた。インクレチンによる降圧作用は、血管拡張とナトリウム排泄による利尿作用による。脂質も低下傾向みられた。有害事象としては低血糖、便秘などが少数みられた。今後も解析を続け今秋にも最終報告を行いたい。[終]
 5時40分ごろより特別講演「超高齢社会の糖尿病と認知症」を千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学横手幸太郎教授にご講演いただきました。講演内容の概略を以下に記します。
 高齢者が自立できなる疾患の上位は、脳血管障害、衰弱、認知症、骨折・転倒などが占めており、糖尿病が原因となるものが多い。よって糖尿病の予防が高齢者の健康寿命を延ばすことにつながる。糖尿病性細小血管障害とともに大血管障害を予防するために強化治療行うと、インスリン分泌が多くなるため肥満がおこる難点がある。米国では肥満の外科治療が多く行われるが、体重が減少する前にすでに血糖の改善が見られる。その機序は不明である。まもなく登場するSGLT2(sodium-glucose transporter 2)阻害薬は、近位尿細管からのブドウ糖再吸収をブロックすることで血糖を低下させる。効き目はDPP4Iと同じぐらいか少し強い程度であり、若年の糖尿病患者に一定期間使うとよい。HbA1cは1%低下、体重減少、比較的低血糖を起こしにくいのがメリットだが、浸透圧利尿による脱水傾向、性器感染症、尿路感染症、SU剤との併用による低血糖、非肥満者での栄養不良やサルコペニアなどがデメリットである。
 糖尿病では癌や認知症が増えることがわかってきたが、血糖を下げれば発症を防げるかは不明である。低血糖により認知症が増えるが、一方認知症になると服薬の乱れや低血糖症状が判りにくいことなどから、低血糖が増えるということもあり、悪循環を形成しがちである。高血糖が認められるにもかかわらずHbA1c値が良い症例には注意が必要である。また低血糖は転倒の原因ともなる。高齢者糖尿病診療における問題点は、大血管障害により心肺機能やADLが低下している、身体的・精神的・家族関係などの社会的条件の個人差が大きい、高血糖に伴う脱水による口渇の自覚が乏しい、動悸・冷汗など低血糖症状が表れにくいことなどであり、高齢者の血糖コントロールはHbA1cでおおむね7以下とすべきであろう。血糖値の変動が大きいと認知症になりやすいので平均血糖変動幅(mean amplitude of glucose excursion:MAGE)に配慮した血糖管理が望ましい。
 2型糖尿病の病期に応じた治療を提案したい。食後だけ血糖上昇の見られる初期では、食後高血糖を抑えられるどんな薬剤でもかまわないが、高容量のSU剤は低血糖や肥満を起こすので注意する。インスリン基礎分泌が不足し空腹時血糖も上がっている進行期では、持効型インスリンを使用する。4-6単位程度の持効型インスリンは安全に使うことができる。さらに内服を追加しBOT(Basal-supported oral therapy)とするのもよい。低血糖リスクが小さいDPP4Iの使用は高齢者には良いと思う。
 常染色体劣性の遺伝性疾患であるWerner症候群は、思春期以降様々な老化徴候が出現する代表的な早老症候群であり、我が国での発症頻度は100万人に1~3名で日本人に多い。アキレス腱付着部の特徴的な石灰化像や両側白内障とともに、メタボ型2型糖尿病と同様の内臓脂肪の蓄積が起こることに注目し、糖尿病と同様の治療を行うことで本疾患の寿命を延ばすことに成功している。また、脂肪細胞にインスリンをつくる遺伝子を導入して、これを移植する治療も開発している。服薬や注射が困難な高齢者糖尿病の治療方法として期待される。健康長寿を実現するためには、高齢者における生活習慣病の包括的管理が重要であることを強調したい。[終]
 次期開催地区の横須賀内科医会の沼田裕一会長の閉会の挨拶の後、意見交換会が行われ盛況のうちに閉会いたしました。

【日本臨床内科医会総会報告】
 第31回日本臨床内科医会総会が平成26年4月13日(日)に東京商工会議所にて、神奈川県内科医学会の主管にて開催されました。10時から11時30分に総会が行われた後、ランチョンセミナー(11:45-12:45)の1「糖尿病の臨床研究と実地医家の役割」を横浜市大の寺内康夫教授に、2「慢性腎臓病診療と実地医家の役割」を聖マリアンナ医大の木村健二郎教授にお話いただきました。特製減塩ヘルシー弁当が振舞われました。その後、特別講演1(13:00-14:00)「平成26年診療報酬改定の核心と課題」を中央社会保険医療協議会委員 安達秀樹先生に、特別講演2(14:00-15:00)「新専門医制度について-総合診療専門医の新設-」を日本専門医制評価・認定機構理事長 早稲田大学理工学術院教授 池田康夫先生にお話いただきました。その後8階東商スカイルームにて懇親会が行われ、おいしいお料理とグランドピアノ演奏に心いやされました。

【平成26年度定時総会時学術講演会報告】
 平成26年度定時総会は、平成26年5月17日(土)神奈川県総合医療会館7階講堂にて開催され、引き続き学術講演会が行われました。宮川政昭副会長の開会の挨拶のあと、東海大学医学部専門診療学系産婦人科学教授であり東海大学医学部付属病院遺伝子診療科科長でもある和泉俊一郎先生をお招きし、中佳一会長が座長を務め特別講演「これからは遺伝子医療の時代:知っておきたいこと」をお話しいただきました。ご講演の内容を簡単に紹介します。
 実際に保険収載されている遺伝子検査は神経疾患に関するものが多い。遺伝子検査の目的は確定診断と発症前診断と保因者診断と出生前診断である。全国的には遺伝専門医の数はまだ少ない。近年、遺伝子診断についてはしっかりとしたガイドラインができており、個人情報に留意しながらきちんとしたカウンセリングを行うことが期待されている。陰性のときは問題ないが陽性のときは、保因者診断の場合はその人の子孫において、発症前診断の場合はその人の将来において発病への危惧を与えることになるため、検査結果への対応を事前に考えておかなければならない。よって一般臨床医でも最低限の遺伝カウンセリング能力を身に着ける必要があると思われる。
 「ゲノム」とはその人が持つすべての遺伝情報のことである。2003年にヒトの全ゲノムが解明されたが、遺伝子については未知のことが多く残されている。飢餓や塩分不足の環境を有利に生き抜くために祖先から引き継いだ遺伝子が、現代人にとっては糖尿病や高血圧を引き起こす原因になっていることは皮肉なことである。これらの病気は遺伝因子と環境因子の複合によって発症する多因子遺伝病である。純粋に遺伝因子による病気は単一遺伝病であり、一方純粋に環境因子によるのは事故や感染症などである。
 遺伝性の病気の因子を保有している人は意外に多い。遺伝子とその表現型について、優勢・劣勢の遺伝形式での因子の受け継がれ方と表現型の出現頻度についてわかりやすく説明した。まれな遺伝性の疾患であっても近親婚の場合は発症する確率が高くなるので要注意である。
 2003年のゲノムプロジェクトの時代に較べると、次世代シークエンサーの登場により今日ではゲノム解析はきわめて早く安く簡単に行えるようになった。ゲノム医療の時代は現実のものとなりつつある。近未来の日本を舞台にしたアニメーション「ゲノムカード」を供覧した。このアニメにおいて、近未来の医療では各人の遺伝子の個人差に基づいて診断治療が行われるようになること、健康は遺伝子だけでは決まらないこと、究極の個人情報であるゲノム情報を保護することの重要性などが示された。ヒトとチンパンジーのゲノムの違いは1.2%、ヒトとヒトの間のゲノムの違いは0.1%に過ぎない。このわずかな違いにより治療の有効性や副作用の現れ方が人によって異なるのである。将来オーダーメイド医療を実現するためには、遺伝子と治療とにかかわる非常に多くの知見をデーターベース化していかなければならない。
 遺伝子がまったく同じである一卵性双胎であっても、その後の表現型が異なってくるのはゲノムの修飾(メチル化)が起こるからである。これが環境の影響による遺伝子のエピジェノミック変化であり、がん化するかしないかにも大きくかかわる点である。家族性に乳がんや卵巣がんが多発する疾患にHBOC(Hereditary Breast and Ovarian Cancer:遺伝性乳がん卵巣がん症候群)がある。この疾患では乳腺の細胞のDNA損傷をを修復するBRCA遺伝子に変異がみられ、男性の乳がんや前立腺がんの発症にも強く関与している。しかし発がん遺伝子についてはまだ不明な点が多い。
 最近話題になっているNIPT(NonInvasive Prenatal genetic Testing:無侵襲的出生前遺伝学検査)は母親からの20mlの採血で胎児の遺伝子異常を知ることができ、感度・特異度も高い検査である。ダウン症は母親の年齢が上がるにつれ発症が多くなることが知られているが、20-29歳においても1000分の1の確率でダウン症が発生する。35歳以上で発症が急に増えるので、羊水穿刺により胎児の遺伝子異常を確認することが多くなるが。一方、羊水穿刺による流産リスクも200人に1人ある。NIPTにより羊水穿刺による流産リスクを回避することができるのは福音だが、NIPT陽性でも若い母親ほど遺伝子異常がない場合も多いため正常の胎児を堕してしまう恐れがある。そこでNIPTが陽性であっても羊水穿刺が必要となれば、羊水穿刺による流産のリスクの問題に再び突き当たることになる。また、そもそもダウン症児には人として生きる資格がないのかという根源的な問いかけに答えることができるのだろうか?[終]
 講演終了後、梶原光令副会長の閉会の挨拶のあと、総合医療会館1階にて演者を交えて情報交換会が持たれ、盛況のうちに終了いたしました。

【第39回臨床医学研修講座予告】
 第39回臨床医学研修講座は、平成26年11月1日(土)14時-15時頃より北里大学病院にて第5地区相模原市内科医会の協力、北里大学医学部の主管にて開催されます。新病院の見学会のあと講義室にていくつかのご講演をお聴きしたあと、新病院食堂にて懇親会がもたれる予定です。

【おわりに】
  学術Ⅰ委員会は平成22年度まで部会長をされた伊藤正吾先生の後を引き継ぎ、平成23年度より新たな体制で活動を開始いたしました。平成26年度も中佳一会長のご指導のもと、今までの長い歴史のある講演会に新たな変更や発展を加えながら、4つの基本講演会を開催していきたいと思います。今後とも、神奈川県内科医学会本体事業である学術1部会の講演会開催にご協力とご参加をお願い申し上げます。

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