ページ

2010年8月31日火曜日

2

「生命とは何か」という問いに対して、古来より様々な考えが示されてきた。宗教的・哲学的な考察の例は枚挙にいとまがないが、筆者は分子生物学者であり、現代科学のcutting edgeの先に浮かび上がる新しい生命観を伝えようとしている。近代科学において生物とは「自己複製を行って増殖しうる」ものとして定義されてきたが、核酸の断片にすぎないウイルスという病原体の発見により、生物の定義についての考え方の揺らぎが生じてきた。ウイルスは結晶化することも可能なきわめて物質的な特性をもつが、細胞に「寄生」(というより遺伝情報の注入)という方法で「自己複製」し「増殖」することも可能だ。筆者の考えではウイルスを生物とみることはできないという。そこには筆者が生命の特徴ととらえる「動的平衡」がみられないからである。本書の目的は、この「動的平衡」がどういうものであるかを語ることにある。

0 件のコメント: