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2010年8月25日水曜日

ミドルメディアの時代

 新聞やテレビに代表されるマスメディアの存在基盤が大きく揺らいでいる。米国では新聞社の倒産が相次いでいるし、日本でも新聞の発行部数の低下と広告料収入の減少により経営の存続が難しい状況だ。世界同時不況の影響だけでなく、背景には大きな構造的な変化が起こっている。それはミドルメディアの拡大である。
 マスメディアとは数百万から数千万人に発信される情報で、世論の形成や趣味・芸能における人々の共通の話題づくりにかかわってきた。一方、同人誌や自費出版、周囲の友人しか読まない身辺雑記のブログやツイッターなど少人数で共有される情報をパーソナルメディアという。以前はこのふたつが主たるメディアであったが、近年特定の業界・分野・趣味の数千人から数十万人に発信されるミドルメディアの比重が極めて大きくなってきた。これは社会が複雑化するにつれ、細分化専門化された知識・情報への要求が強くなったことと同時に、インターネットに代表されるIT革命のおかげで、世界的な広さで迅速かつ極めて低コストで情報の発信と受容が可能になってきたことも大きい。日本臨床内科医会の会員数も1万6千人余なので、この日臨内ニュースもまさにミドルメディアに属すると言える。
 マスメディアの衰退の原因はその業界内部に由来するものも大きい。かつての一億総中流時代は1990年代に終わり、格差社会は進み、都会と地方の文化も大きな隔たりが出来てしまった。ひとりひとりの趣味や関心も多彩かつ拡散し、かつての最大公約数的な読者はもうどこにもいないにもかかわらず、多様化したニーズを反映することに失敗した結果、マスメディアにお金を払ってまで読みたい記事が無く、一方ミドルメディア上では読みたい情報に多くは無料でアクセスできる状況になってしまった。
 また、マスメディアに従事している新聞記者をはじめとするジャーナリストはもちろんその道のプロなので取材力や文章力は高く、伝えるべき内容の分析や評価をどこかの組織や企業のインサイダーとしてではなく、第三者的な公平な立場で行える点は非ジャーナリストの手になるメディアに対して大きな利点であるはずだが、今の新聞記者は残念ながら良質な記事作成に必要とされる専門性に乏しいように思われる。決して記者たちが不勉強というわけではないが、組織の中における人事異動の間隔が短く専門性を高めるための時間的余裕がないのだという。そのため医療分野においても見当違いな記事の掲載という不幸な事例が散見される。
 今後のマスメディアの生き残りのためには、「マス」であることを棄てて、貴重な人材である記者の専門性をじっくりと高めながら、良質な記事を提供するミドルメディアとしての方向性を模索するべきときが来ているように思う。
(日臨内ニュース「万華鏡」2010年10月)

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