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2018年4月23日月曜日

「C型肝炎治療の最前線」野ツ俣和夫「B型肝炎治療におけるかかりつけ医と肝臓専門医の病診連携の必要性」藤山重俊

日本臨床内科医学会総会 ランチョンセミナー2 2018.04.15 京都ホテルオークラ
「C型肝炎治療の最前線」
    福井県済生会病院 肝疾患センター長 野ツ俣 和夫 先生
「B型肝炎治療におけるかかりつけ医と肝臓専門医の病診連携の必要性」
    くまもと森都総合病院 理事長・院長 藤山 重俊 先生


 直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antivirals : DAAs)の登場により、肝硬変・肝がんの主な原因となるC型慢性肝炎は、ほぼ100%治癒しうる時代となった。今ではおよそ30万人がDAA治療を受けたと考えられるが、いまだに100万人から150万人がC型肝炎ウイルス(HCV)の感染を知りながら治療を受けていないと考えられている。患者への啓発も大事だが医療者側の認識不足は大きな問題である。特に院内でのHCV陽性者の放置は決して許されることではない。
 そこで演者が院内でHCV抗体陽性でありながらHCV-RNAの検査をしていない患者の拾い上げをしたところ、眼科、整形外科、脳外科に多いことが判明した。HCV感染者と判りながら肝機能(AST,ALT等)が正常のため放置されている患者でも、7割には線維化の進行があり、ひたすら発がんへの道を進んでいるのである。DAA治療は8~12週の内服薬のみで、さしたる副作用もなく、ALT値の高低に関わらずHCV-RNA陽性であれば、肝がん合併例や進行した肝硬変(非代償性肝硬変)例を除いた全ての患者が対象となる。まずはHCV抗体をチェックし、陽性者からHCV-RNAが検出されたら、速やかに肝臓専門医に紹介することである。
 有効な治療法が確立した現在、HCV感染者の放置は訴訟問題に発展し、敗訴により高額の賠償金を背負うリスクがある。またHCV感染は肝臓以外の病変を引き起こすことが分かってきた。癌、糖尿病、循環器疾患、呼吸器疾患、腎疾患など全身のあらゆる疾患に関係しているという。興味深いことに、HCVは脳細胞にも直接感染してこれを障害し、初老期のアルツハイマー病に類似した症状を呈するそうである。決して肝臓病だけの問題ではないという認識を新たにした。
 現状を打破するために、患者と医療者との橋渡しをする役目を担う「肝炎コーディネータ」の養成を厚生労働省が推進している。養成講座を受ければ誰でも肝炎コーディネータの資格を得ることができる。医院のスタッフを肝炎コーディネータにすることにより、医師の説明業務の軽減や職員のモチベーション向上などのメリットが期待される。
 一方、国内に130万人から150万人存在するとみられるB型肝炎ウイルス(HBV)感染者に対する決定的な治療法はまだないが、従来からのインターフェロン治療に加えて、核酸アナログ製剤の登場により、B型慢性肝炎の病勢のコントロールは大きく改善した。一度HBVに感染すると、HBVの遺伝子がcccDNAという形で感染者の肝細胞の核内に組み込まれるため、これを排除することは極めて困難である。しかしながら、核酸アナログ製剤の内服により、排除できないまでもウイルスの増殖を強力に抑制することが可能となった。インターフェロン治療に伴うような副作用や治療効果の不確実性も核酸アナログ製剤の場合はほとんどみられない。ただし効果を持続するためには長期間にわたって服用を続ける必要がある。主流のエンテカビル、テノホビルジソプロキシル(TDF)に続いて、効果は同等でありながら副作用が極めて少ないテノホビルアラフェナミド(TAF)が使用可能となり、長期間服用時の副作用リスクを大きく低下させることが可能となっている。
 かつて言われていたseroconversion(HBe抗原陰性化、HBe抗体陽性化)は臨床的治癒であるという認識は正しくなく、HBV-DNA高値例やHBs抗原高値例では発癌リスクが高いことが分かってきた。HBV感染者はHCV感染者と異なり、進行した肝硬変の段階を経ずして突然発癌することもありうる。また、HBV感染既往者(HBc抗体陽性またはHBs抗体陽性)でHBs抗原陰性の症例に、抗がん剤や免疫抑制剤による治療を行った際に劇症肝炎を発症し、「de novo B型肝炎」として知られるようになった病態にも格別の注意を払って診療にあたる必要がある。
 このように複雑な病態と難しい治療選択と長期にわたる経過観察が必要とされるHBV感染者に適切な診療を行うためには、肝臓専門医との継続的な連携が不可欠であることを再度強く認識した。
 HBVの感染ルートとして重視されてきた「母子感染」については、厚生労働省の長年の取り組みが功を奏して減少してきているが、その一方で性感染症としてのHBVの「水平感染」の拡大が大きな問題となってきている。おそらく性感染症として都市部で近年増加傾向の続く欧米型のゲノタイプAのHBV感染は、成人であっても急性肝炎発症後に慢性化しやすいことが分かってきた。
 一度感染すると治癒が困難をきわめるHBV感染症に対する根治的な治療法は、現在研究開発中の段階である。ただしHCVと違って、HBVに対しては感染予防のためのワクチンが以前から存在する。HBワクチンは世界180か国以上で国民全員が接種を受けるワクチン(ユニバーサルワクチン)になっている。遅まきながら日本でも2016年10月から0歳児を対象とした定期接種が始まった。HBV感染者を増やさないためにも、一人でも多くの人がHBワクチンを公費で接種できるようになることが望まれる。
 神奈川県内科医学会では「肝臓病を考える病診連携の会」講演会を平成16年より概ね年2回、神奈川県内各地を回りながら開催し、肝臓病非専門の実地医家に対する啓発と専門医との連携の機会の創出を図ってきた。また進歩のスピードの速い肝炎診療のエッセンスをわかりやすくまとめた小冊子を2年に一度発刊し、日常診療の参考に供するようにしてきた。演者のお二人がご講演の中で強調されていたように、有効な治療法の確立された現在、治療対象となる肝炎患者の拾い上げは極めて重要な課題である。この数年、横浜内科学会を中心として、より多くの肝疾患患者の拾い上げを進めるための「肝疾患管理病診連携ガイド」の普及を進めている。この活動については来る平成30年9月開催の第32回日本臨床内科医学会(パシフィコ横浜)で詳細な内容について発表される予定である。
(記 岡 正直)

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