ページ

2015年5月26日火曜日

健康最前線「C型慢性肝炎の最新治療」

健康最前線「C型慢性肝炎の最新治療」 岡内科クリニック院長 岡 正直

1-1}慢性肝炎は肝臓の炎症が長びき、肝臓の細胞が壊れ続ける病気です。日本では慢性肝炎の約70%がC型肝炎ウイルスの感染によるものです。治療をせずにこのウイルスに感染した状態を放置すると肝臓の多くの細胞が壊れて失われ、肝臓の中に線維が増加して硬くなり、10年から30年という長い年月をかけて肝硬変や肝がんになる可能性が高まります。日本では肝がんで年に3万人の方が亡くなっていますが、その70%ほどはC型肝炎ウイルス感染によるものです。日本にはC型肝炎ウイルスに感染している人が200万人ほどいると考えられています。この内検診を受けず自身の感染を知らずにいる人が4割近い78万人もいると推定されます。しかも検査で感染が分かっていても病院にいかず治療をしていない方が全体の3割もいるという報告もあります。検査を受けたことを忘れていた、検査結果をおぼえてない、今は症状がないから、重大な病気と思わなかった、感染症なので自然に治ると思った、などが主な理由ですが肝臓は沈黙の臓器といわれ、ウイルスに感染してもすぐに症状はあらわれません。治療を先延ばしにすると病気が進行して肝不全や肝がんとなり、手遅れになる恐れがありますので早めの受診が必要なのです。なお肝炎ウイルス検査は保健所や自治体が委託する医療機関で、原則無料で受けることができます。一般の健診や人間ドックには含まれていないことがあります。肝炎ウイルスに感染していても肝機能検査に異常がない場合もありますので、自分は大丈夫という思い込みはせずに肝炎ウイルス検査を受けることが大切です。こちらに示した項目に一つでも当てはまるものがあればC型肝炎ウイルスに感染している可能性があります。40歳以上でC型肝炎ウイルス検査を一度も受けたことがない。1992年以前に輸血を受けたことがある。大きな手術を受けたことがある。フィブリノゲン製剤を投与されたことがある。長期に血液透析を受けている。臓器移植を受けたことがある。薬物濫用者である。刺青をしている。ボディピアスをしている。過去に健診などで肝機能検査の異常を指摘されているにも関わらず、その後肝炎の検査を受けていない。などです。

1-2} C型慢性肝炎の治療には、C型肝炎ウイルスを体内から排除する抗ウイルス療法と、肝臓の炎症を抑えて肝硬変や肝がんへの進行を遅らせる肝庇護療法などがあります。次々とよい薬が開発され、現在治療の中心は抗ウイルス療法となっています。1992年にウイルス一般の増殖を抑えるインターフェロン注射による治療が始まりましたが、当初は治癒率は10%に達しないものでした。2003年には効果の持続と副作用の低下を可能にしたペグインターフェロンも使われるようになり、2001年に登場した新しい抗ウイルス薬リバビリンとの併用により、治癒率は50%に向上しました。そして、2011年にはC型肝炎ウイルスに直接作用するプロテアーゼ阻害薬という抗ウイルス薬が登場し、これと先に述べたペグインターフェロンとリバビリンの3剤を24週間投与する3剤併用療法が主流となりました。治癒率は90%を超えるまでに改善しています。第一世代のプロテアーゼ阻害薬は皮膚障害をはじめ副作用が多い傾向がありましたが、2013年以降に登場した第二世代のプロテアーゼ阻害薬は副作用も非常に少なくなりました。そして2014年にはついにインターフェロン注射を使わない飲み薬のみによる画期的な治療法が登場したのです。

2-1}我が国の慢性肝炎患者さんは年を経るにしたがって高齢者の占める割合が多くなり、残念なことに、肝臓の線維化が進んで肝硬変になっている人も増えています。高齢化や線維化の進展は肝臓がんになる危険性を高めるため一刻も早く有効な治療を開始することが必要です。その一方で今までのインターフェロン治療は高齢者や肝硬変の人には効果が低かったり副作用が出やすかったりするため使いにくいものでした。またうつ病や貧血の人にもインターフェロンは使いにくく、初期のインターフェロン治療でよく見られた、発熱・インフルエンザ様症状・だるさ・脱毛・食欲不振などのつらい副作用により治療を中断せざるを得なかった患者さんが多くいたことも事実です。2014年に登場したインターフェロンを使わない2種類の飲み薬だけによる画期的な治療法は、インターフェロン特有の副作用もなく、高齢者であっても肝臓の線維化があっても効果が落ちることもなく、以前受けたインターフェロンを含む治療がうまくいかなかった人にも効果が期待でき、また一部の比較的状態のよい肝硬変の患者さんにも使うことができるため、これまで治療の対象とならなかった方にも治療の機会が広がってきています。ただし、この薬が効きにくいC型肝炎ウイルスに感染している人もいるので治療前にしっかり調べておくことが大事です。場合によっては、従来のペグインターフェロン3剤併用療法の方がよい場合もあるため、肝臓の専門医の診察を受けていただくのがよいと思います。


2-2}実際の治療を受けるに当たっては、新しい肝炎の治療法に詳しい医師に相談するのがよいでしょう。インターネットで日本肝臓学会肝臓専門医を検索してお住まいの地域の医療機関を受診することをお勧めします。インターネットが使えない場合は、各都道府県の肝炎拠点病院の電話窓口で相談することもできます。神奈川県においては肝疾患医療センターが北里大学東病院、聖マリアンナ医科大学病院、東海大学医学部付属病院、横浜市立大学附属市民総合医療センターに設けられています。新しい肝炎治療薬は値段が高く、決まった期間毎日しっかり服用する必要があるため、高額な医療費負担が生じることが問題でしたが、最近では各都道府県において患者さんの医療費負担を軽減するために、C型肝炎ウイルスを排除するための治療に対して医療費助成制度が設けられています。この医療費助成を受けると肝炎治療について患者さんの負担する医療費の金額が世帯所得に応じて月額1万円もしくは2万円までとなります。お住いの地域の保健所で手続きを行いますので、慢性肝炎の治療を受ける予定の医療機関の医師にご相談の上、医療費助成制度を正しく活用されることをお勧めします。過去にC型慢性肝炎の治療を受けてうまくいかなかった人も、治療をうけるのをためらっていた人も、治療が大きく進歩し、医療費の助成制度も整ってきた今こそ医師に相談する絶好のチャンスです。残念ながら日本にはいまだに非常に多くのC型肝炎ウイルスの感染に気づいていない方がいらっしゃいます。早期発見、早期治療に結びつけるためにも、すべての人が一生に一度は、採血だけでできる無料の肝炎ウイルス検診をうけてC型肝炎ウイルスに感染していないか是非確かめるようにしてほしいと思います。

0 件のコメント: