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2013年2月19日火曜日

B型肝炎ウイルス(HBV):炎症と発癌 東海大学内科学系消化器内科学教授 峯徹哉先生


 B型肝炎の母子感染(垂直感染)は減少してきたが、父子感染が注目されている。体液を介して3歳までに感染するとHBVキャリアとなる。世界人口60億人のうち20億人はHBV既感染であるといわれる。我が国でもHBV感染者は120-140万人いるが、そのうち受診者は6万2千人にすぎない。C型肝炎と異なり、肝硬変以前の段階から発癌がありうることを強調したい。HBV無症候性キャリア1万人に2人の割合で発癌すると考えられている。毎年5000から6000人がB型肝炎由来の肝癌で死亡している。seroconversionは決して治療のゴールではなく、そのあとでも再活性化や発癌のリスクは続くのである。一度HBVに感染すると、肝細胞の中にcccDNAの形でウイルス遺伝子が残存するためである。現在このcccDNAを破壊する治療を開発中である。
 成人になってからHBVに感染しても慢性化しないと言われていたが、海外から侵入したHBV遺伝子型Aの増加に伴い、従来の遺伝子型BとCと異なり遺伝子型Aの感染者の10%は慢性化すると考えられるようになった。インターフェロンは遺伝子型AとBでは44-47%効くが、遺伝子型Cではあまり効かない。また遺伝子型Cは肝硬変や癌になりやすいという違いがある。
 HBVにいったん感染するとHBc抗体はずっと陽性である。免疫抑制療法を行う際には、HBs抗原とHBc抗体をはかることである。seroconversion後にも33%の症例でALTの再上昇がみられる。
HBs抗原が陰性になった場合でもcccDNAが残存しているためである。またHBs抗原の測定の感度が良くなり、いままで陰性とされていたものが実は陽性だったということもある。感染の既往という意味でのHBc抗体の意義は重要である。IgM-HBc抗体陽性は最近のHBV感染を示す。HBc抗体陰性でHBs抗体陽性はワクチン接種によって獲得された免疫である。HBe抗原陰性のB型肝炎は突然変異ウイルスによるものである(プレコア変異慢性B型肝炎)。この場合はHBV-DNAを測定すること。
 HBs抗原陰性、HBc抗体陽性の患者に免疫抑制療法を行う際に発症するde novoB型肝炎は、劇症化し死に至ることもある。免疫抑制開始後3ヶ月間に肝機能が少しずつ上昇し、突然劇症化するので、最初のうちの肝機能の変化を見逃さないことである。
 B型慢性肝炎の治療に近年よく用いられる核酸アナログは、耐性化を起こしにくいことから、エンテカビルがよく使われる。ラミブジン耐性の際併用されるアデフォビルは腎障害に注意すること。ラミブジンは3年間で5割ウイルスが耐性化する。HBVは増殖の際に逆転写酵素が関与するので変異がおこりやすく耐性化によりbreakthrough hepatitisをおこす恐れがある。
 HBV-DNAを低く保てば発癌リスクを低く抑えることが出来るが、核酸アナログでは完全に発癌を抑制できないこともわかってきた。HBs抗原量とHBV-DNA量とは独立した発癌ファクターである。同じHBV-DNA量であってもHBs抗原量が高いと発癌が多い。発癌リスクはHBV-DNAが4Log未満ならHBs抗原量で差があり、4Log以上ならHBs抗原量で差がない。発癌リスクを評価するためには、HBs抗原量とHBV-DNA量の両方をチェックすることが必要である。またAFPが10を超えていると発癌が多い傾向がある。
 今後医療訴訟に巻き込まれないためにも、最新の知見を踏まえて日々の肝炎診療にあたることが必要である。

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