ページ

2013年2月17日日曜日

我が国のB型肝炎:最近の動向と特徴 慶応義塾大学医学部兼担教授 齋藤英胤先生

 B肝炎ウイルスは肝炎ウイルスのなかで唯一のDNA(不完全2重鎖DNA)ウイルスでありC型肝炎ウイルスとともに慢性肝炎を引き起こす原因となる。遺伝子型によりAからHまで亜型がある。血中ではHBc抗原はHBs抗原に囲まれて存在する。ウイルスが盛んに増殖するときには、HBe抗原が肝細胞から分泌される。HBV-DNAを伴わない感染性のないHBs抗原が多く血清中にある場合もある。
 B型急性肝炎は現在では多くの場合性行為により感染する。潜伏期間は半月から6ヶ月で、不顕性感染も70%ある。成人の初感染はほとんどの場合急性肝炎で終息する(HBs抗体ができて治る)が、海外より侵入した遺伝子型Aは慢性化が起こりやすい。もともと日本は遺伝子型Cが多かったが関東・東海・近畿圏では遺伝子型Aが約半分を占めるに至っている。急性肝炎を発症すると最初にIgM-HBc抗体ができ、引き続きIgG-HBc抗体が出現する。最後に半年から1年でHBs抗体ができて臨床的治癒となる。性感染によるB型劇症肝炎を肝移植により救命しえた症例を提示した。劇症肝炎やLOHF(Late Onset Hepatic Failure)の原因としてB型肝炎ウイルスによるものが多い。
 B型慢性肝炎は、日本においては母子感染あるいは幼児期における水平感染が主な感染経路であった。特に昭和23年から63年の間に行われた予防接種による集団感染に対して国が補償することになったことは記憶に新しい。アジアはB型肝炎が蔓延している。世界の人口の3分の1がB型肝炎ウイルスに感染した形跡があり、その4分の3がアジアにいるとも言われている。日本ではHBキャリアーは150万人いると推定され、1986年より母子感染防止事業が始まった。キャリアから生まれる赤ちゃんに免疫グロブリンとワクチン接種を行いキャリア率を低下させることに成功している。特に20歳以下ではキャリア率は非常に低くなっている。
 このような垂直・水平感染後9割は持続感染状態に移行し、HBe抗原陽性キャリアとなり次第にHBe抗体陽性のキャリアに移行する(seroconversion)。これらの過程で一部の人に癌が発生するが、この肝炎期の間にHBV-DNA、HBs抗原が減少し、40から50年経ってHBs抗体が出現してくる。血中からウイルスが消失しても、肝細胞の中にはcccDNA(covalently-closed circular DNA)の形でウイルスのDNAが残存しており、宿主のDNAに組み込まれることも起る。HBs抗原陰性・HBc抗体陽性の人からB型肝炎が発症することがあるのはこのためである。
 B型慢性肝炎の治療は、1972年のステロイド離脱療法に始まり、1987年にインターフェロン療法、2000年から核酸アナログ製剤のラミブジンが使用されるようになり進歩を遂げた。ラミブジンは耐性を生じやすいため、現在ではエンテカビルやテノホビルを使用するべきである。ラミブジン耐性時に併用するアデフォビルは腎障害が出やすいので、腎障害時には一日おきに投与するとよい。エンテカビルは空腹時に服用すること。核酸アナログは投与中止すると肝炎の再燃が起るため投与中止の時期が難しい。また耐性ウイルスの出現による劇症肝炎にも注意が必要である。一方インターフェロンは投与中止後も効果が持続し、投与中止が容易で耐性ウイルスがないという利点がある。新たなマーカーであるコア関連抗原量やHBs抗原量はcccDNA量を反映するので、これらの値が低ければ、核酸アナログ中止後の再燃が少ない。また核酸アナログによりウイルスを完全に押さえ込んでから、インターフェロンを半年から1年間投与するSequential治療も試みられている。
 リンパ腫の治療の際などに用いる免疫抑制剤によるB型肝炎の再活性化についても言及した。HBs抗原陰性でもHBc抗体陽性の場合は十分な注意が必要である。またHIVとの重複感染は肝臓の線維化がはやく死亡率も高い。HIV感染を見落として核酸アナログを使用すると、HIVが治療薬に耐性化しHIVの治療が困難になることがあるため注意すること。

0 件のコメント: