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2011年11月20日日曜日

「2型糖尿病の外来診療最前線」 順天堂大学大学院(文部科学省事業)スポートロジーセンターセンター長 河盛隆造

講演2「2型糖尿病の外来診療最前線」
 2型糖尿病の治療目標は脳卒中や心筋梗塞の発症予防にある。脳卒中や急性冠症候群で治療を受けた人の内、正常血糖応答の人は20%に過ぎず、背景には耐糖能異常による動脈硬化が大きく関与している。頸動脈IMT(内膜中膜複合体肥厚:intimal plus medial complex thickness)は動脈硬化の状態を簡便に知りうるよい検査方法である。糖尿病の人はIMTの肥厚が、そうでない人の3-4倍の速さで進行する。糖尿病以前の高インスリン血症(インスリン抵抗性)の人も同様な速さで動脈硬化が進行するので、早い段階での治療介入が重要である。現在の段階的な治療アプローチでは、脳卒中や心筋梗塞の発症予防を達成するのは困難である。高血糖が続くことによる酸化ストレスが膵β細胞の機能低下をおこし、その結果としてのインスリン分泌低下が、膵α細胞のインスリンレセプタを介するグルカゴン分泌不全をきたすため、糖尿病においては高血糖と同時に低血糖も起こしやすくなる。また過剰なインスリン分泌が膵α細胞のインスリンレセプタ異常をきたす。糖尿病においてはインスリンのみならずグルカゴンの分泌異常も伴っており、この二つのホルモン異常の相関が糖尿病の病態の理解には重要である。食後における肝臓の糖取り込みは大きな意味をもつ。食後に肝臓が糖を取り込まないことにより、食後高血糖がおこり、これが膵β細胞機能低下をおこし、そのため肝臓の糖取り込みが低下するという悪循環となり糖尿病が進行する。よって糖尿病の治療のためには、食後に門脈を介してブドウ糖とともにインスリンとグルカゴンがしっかり肝臓に流れ込むようにすることである。DPP4は悪玉脂肪細胞から分泌される悪玉アディポサイトカインであることが最近わかってきた。DPP4阻害薬の登場は糖尿病治療に新しい道を開いた。若い患者にDPP4阻害薬を使うことによって膵β細胞が復活する可能性があるが、高年齢ではあまり期待できない。よって早い段階から多くの薬剤を併用しながら治療を開始することが重要である。近年いくつもの糖尿病治療薬が登場したが、αGIは肝臓へのブドウ糖の流入を減らす効果があり、グリニドやDPP4阻害薬は門脈を介する肝臓への素早いインスリン供給を、メトホルミンやピオグリタゾンやDPP4阻害薬は肝臓でのインスリンの働きを高める効果がある。αGIとDPP4阻害薬の併用は好ましい組み合わせである。最近ヨーロッパでピオグリタゾンの膀胱癌発症のリスクが話題となったが、そもそも糖尿病であることが多くの癌の発癌リスクを高めており、あまり問題とすべきではないと思われる。

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