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2017年3月22日水曜日

神奈川県内科医学会第80回集談会報告2017.02.18

【第80回集談会報告】
 第80回集談会は平成29年2月18日(土)15時より、オークラフロンティアホテル海老名3階ラ・ローズにて、第5地区(海老名内科医会 濱田芳郎会長)の担当で開催された。海老名内科医会大澤正享副会長の開会の辞に続いて、神奈川県内科医学会宮川政昭会長、海老名市医師会高橋裕一郎会長、海老名内科医会濱田芳郎会長の挨拶の後、一般演題21題の講演があった。特別講演「腸内細菌と免疫」を慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室教授本田賢也先生よりいただいた。ご講演の内容を簡単に紹介する。

 ヒトのゲノムは2~3万個程度であるのに対して、ヒトの腸内細菌は約1000種類でそのゲノムは50万~100万個に及んでおり、まさに人体最大の臓器とも言える。近年、次世代シークエンサーの進歩により腸内細菌についての研究が急速に進展している。人類は腸内細菌により大きく3つのタイプ(enterotype)に分類できることが分かった。蛋白質や脂肪分を多く摂る欧米人や中国人に多くみられるバクテロイデス属が多いタイプ、炭水化物や食物繊維の摂取が多いアジア中南米やアフリカの人に多くみられるプレボテラ属が多いタイプ、前2者の中間的な食事をしている日本人やスウェーデン人に多くみられるルミノコッカス属が多いタイプの3つである。疾患との関連において腸内細菌種の多様性が失われる構成異常(dysbiosis)がみられることが分かってきた。dysbiosisの原因としては(1)食事(高脂肪食、低繊維食、低栄養、単一食)や(2)長期入院・高齢者(同じものばかり、繊維少)や(3)抗生剤や(4)炎症がある。これらの内で最も悪影響を及ぼすのが炎症である。体内に炎症が起こると、炎症産物が腸管内に分泌される。健常時に多数を占めるバクテロイデスやファーミキューテスはこの炎症産物を利用できないが、一方プロテオバクテリアは利用することができるため優勢となる。これによってdysbiosisが生じ、免疫異常や腸管粘膜バリアの破壊がおこり、慢性炎症がさらに悪化するという悪循環に陥ることとなる。以前より乳酸菌・ビフィズス菌に代表されるprobioticsが利用されてきたが、これらの単独投与では腸内細菌の多様性を取り戻すことは難しく、臨床効果は乏しかった。近年便移植(fecal microbiota transplantation:FMT)がある種の疾患に劇的な効果を発揮したが、ドナーの便の状態によって臨床効果が左右されるため不確実性も大きい。やはり細菌種の機能を一つ一つ解析していくことが必要である。わが国は嫌気性菌の培養や後述のノトバイオート技術に秀でているため、世界をリードする研究環境に恵まれている。「ノトバイオート」とは、それがもっている微生物を完全に把握できている動物のことで、無菌動物に興味ある菌のみを投与することによって作られる。ノトバイオートを用いることによって、宿主の免疫系を活性化する菌種をいくつも発見することができた。この講演では制御性T細胞(Treg)について述べたいと思う。Foxp3遺伝子陽性のTregは炎症を抑制する働きを持っている。Foxp3遺伝子変異という疾患では、全身に炎症が多発し死に至る。また、Foxp3遺伝子陽性のTregは小腸や大腸に恒常的に多数存在しており、無菌動物ではTregが減ってしまうことからも腸内細菌によってTregが増やされていることがわかる。どの腸内細菌がTregを誘導しているのかを探るため、クロロホルム処理と2万倍希釈などの手法を用いて探求した結果、芽胞形成菌であるクロストリジウムの17菌株がTregを誘導する力が強いことが判明した。クロストリジウムは酪酸産生菌であり、酪酸自体にもFoxp3遺伝子陽性のTreg誘導作用が認められている。幼少時の抗生剤の使用が多いほど、dysbiosisを起こしやすいことも知られており、腸内細菌叢に悪影響を与えない抗生剤の開発や、抗生剤の使い方の見直しも重要と思われる。

 神奈川県内科医学会金森晃副会長の閉会の辞の後、別室にて意見交換会が持たれた。次期開催地区の第1地区横浜内科学会の小野容明会長の挨拶もあり、終始和やかな雰囲気のうちに終了した。

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