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2017年3月23日木曜日

神奈川県内科医学会定時総会資料 総務企画部会事業報告 2017 05 20

事業報告
総務企画部会(部会長 岡 正直)
(1)総務企画部会開催(7月11日、10月3日、11月7日、2月6日、4月10日)
 隔月に幹事会の概ね前週に開催され、幹事会の議案について検討、県内科医学会事業の運営について、担当部会との調整を図った。年間行事の計画立案と日程調整、議事内容等の運営を担当した。

(2)幹事会・会長会開催( 6月16日、7月21日、9月15日、10月20日、11月17日、12月3日、1月19日、2月16日、3月16日、4月20日)
 基幹会議の運営・進行を担当し、円滑な会務が遂行出来るよう会場設置、スポンサーの確保、出欠の把握、議事録の作成を行った。

(3)評議委員会・定時総会・学術講演会(5月21日、横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ)
 議案は総務企画部会で検討された後、幹事会で承認を受け、評議委員会・定時総会で議論され承認された。平成27年度事業報告、平成28年度の事業計画、平成27年度決算報告、平成28年度予算案等の議案が議論され承認を受けた。東海大学・小田原内科医会/足柄上内科医会に感謝状が贈呈され、各地区からの推薦者に表彰状が贈呈された。第79回集談会の優秀演題「過去6年間に当院で経験したツツガムシ病14例」の発表者の鈴木医院 鈴木哲先生と「拡張期僧房弁逆流をきっかけに早期手術を施行し心機能改善を得た、感染性心内膜炎による急性期大動脈弁逆流の一例」の発表者の小田原市立病院 柿崎良太先生に表彰状が贈呈された。11の事業委員会の報告は質疑のみの受付とし、定時総会を終了した。
  引き続き定時総会時学術講演会(共催MSD株式会社)が行われた。小野容明副会長が座長を務めた講演1の内容を簡単に紹介する。

  1.「高齢者の認知症とうつ病の正しい理解と適切なケア~転倒を起こさない不眠症治療への対応も含めて~」香川大学医学部精神神経医学講座教授 中村 祐 先生
  高齢者のうつ病の診断が難しいのは、一般的なうつの特徴が、加齢や疾病による活動の低下や高齢者特有の生活パターンと重なることが多いためである。高齢者にうつが多い原因として、経済力の低下や再婚率が低い(独居が多い)といった社会的な問題も見逃せない点である。高齢者うつと間違え易いのは、老化現象、不定愁訴、身体疾患(がん、心不全、COPD)、薬物、認知症、脳梗塞、脳腫瘍などである。症状としては不安焦燥、身体症状、不眠、食欲不振、体重減少が表れやすい。高齢者うつと認知症または無関心(apathy)との鑑別も重要である。認知症患者は不安が強いため、少量の抗うつ剤の併用も効果的である。
  高齢者の睡眠は浅く、リズムが乱れやすいため熟眠感が乏しい。原因として昼間の不活発、昼寝、夜間頻尿、身体疾患や内服薬による影響などが考えられる。ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系を問わず、超短時間型の睡眠薬はむしろ転倒を起こしやすい。薬によってふらつくため転倒するのではなく、夜間の中途覚醒が転倒の原因と思われる。最近登場したオレキシン受容体拮抗薬スポレキサントは、夜間の中途覚醒を減らすことにより転倒リスクを回避できる可能性がある。

  金森晃副会長が座長を務めた講演2の内容を簡単に紹介する。

  2.「地域の医療提供体制の現状と将来~とくに神奈川県について~」国際医療福祉大学医療福祉学部学部長 高橋 泰 先生
  日本全体で、0~64才の人口は年100万人ずつ減少し、65才以上の人口は年50万人ずつ増加していく。その結果、2050年には日本の高齢化率は39.6%に達する見込みである。神奈川県は、過去の地方からの人の流入により、若い人が多かったが、今後一斉に高齢者が増加するであろう。全国的にみると神奈川県は医療密度は低い方だが、高齢者施設はトップクラスの多さである。しかし、今後の高齢者の増加に施設数が追いつかない恐れがある。日本の人口減少のため、今後の医療需要は次第に減って行く。
  今後、日本人の意識の変容がおこり、一人当たりの医療・介護を減らす省エネ型の老い方・死に方を希望する人が増えてくるだろう。現にフランスで寝たきりの高齢者が少ないのは、食事が摂れず動けなくなったら、おむつ替え・食事介助を諦めてしまう結果、寝たきりの状態で生きている期間が短くなるためである。伝統的な日本人の精神風土にあっては、このような考え方に強い抵抗感があることは確かだが、フランスでの変化も比較的最近になってからなので、日本でも思ったより短期間に変わっていくかもしれない。そんな社会を迎える前に、高齢者一人一人が「どこまで生きたいか」という自分の意思をはっきり持つことが必要ではないだろうか。

  定時総会時講演会終了後、別会場で情報交換会が持たれ、盛会のうちに終了した。

(4)第41回臨床医学研修講座
 第41回臨床医学研修講座が平成28年10月15日(土)午後3時より横浜市立大学附属市民総合医療センター6階会議室にて横浜市立大学と第一地区横浜内科学会の担当で開催された。5つの講演の内容を簡単にご紹介する。

講演1「外来で困らないための遷延性咳嗽の診断と治療のポイント」
座長 小野容明副会長
演者 横浜市立大学附属市民総合医療センター呼吸器病センター准教授 部長 工藤誠先生
 医療機関受診の動機として最も多いのは咳嗽である。咳の受容体は咽頭から気管・気管支さらに食道胃接合部まで広く分布し、延髄の咳中枢には大脳からの信号も入っているため、咳の病態は複雑である。鎮咳薬には中枢性と末梢性(気管支平滑筋を緩める)があるが、中枢性の方が効果が高い。咳の持続期間により、3週以内を急性、8週以上を慢性、その間を遷延性咳嗽と分類する。急性咳嗽の多くは上気道感染で問題になることは少ないが、遷延性や慢性咳嗽には肺癌、間質性肺炎、肺結核、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患など多彩な疾患や診断の遅れが問題になる疾患も含まれている。呼吸器病学会のガイドラインに示されているフローチャートに沿って診断するとよい。また長引く咳により、職場での立場が悪くなる、友人との面会を躊躇するなど社会的な問題も引き起こされる。近年、咳喘息に対する理解が進んだ一方で、他の疾患を咳喘息と誤っている例も見られる。アトピー咳嗽(非喘息性好酸球性気管支炎)の鑑別について、またストレスが原因となる心因性咳嗽についても述べた。

講演2「慢性腎臓病における血圧管理」
座長 健康長寿社会を目指す委員会 高見沢重隆委員
演者 横浜市立大学循環器・腎臓内科学准教授 田村功一先生
 高血圧に次いで、慢性腎臓病(CKD:Chronic kidney disease)患者は成人の8人に1人に見られる多さである。腎臓自体の治療薬はないため、CKD治療の目的は末期腎不全(ESRD:End-stage renal disease)への進行抑制と心血管病(CVD:Cardiovascular disease)の合併阻止にある。そのためには、高血圧、糖尿病、脂質異常、腎性貧血、骨ミネラル代謝異常などを包括的に管理する必要があり、特に適正な血圧管理が重要である。生活習慣の改善、食事療法、薬物療法を行いESRD進展やCVD合併を阻止することである。CKDの予後は糖尿病の有無、腎機能低下度合、アルブミン・蛋白尿の有無により異なるため、日本腎臓学会では原因(cause)、腎機能(GFR)、アルブミン・蛋白尿(albumin)によるCGA重症度分類で評価し、病態に応じた個別的な降圧目標設定・降圧薬選択による血圧管理を推奨している。CKDの進行に伴い夜間高血圧の傾向が出現する。朝の血圧は夜間高血圧を反映しているため、家庭血圧の記録にも注意を払いながら血圧管理を行うことである。

講演3「痛みの臨床~症例を中心に」
座長 長谷川修幹事
演者 神奈川県立足柄上病院総合診療科担当部長 太田光泰先生
 「痛み」を主訴に受診する患者は多く、その診断に苦慮することもしばしばである。その診断推論の基本は、病態生理学的に分類して解剖学的に絞り込むことである。「痛み」を3つに分類すると、原因疾患からの情報伝達としての「侵害受容性疼痛」、情報伝達器官そのものの神経の障害による「神経痛」、脳の誤った解釈によりあたかも疾患があるように感じられる「心因性疼痛」となる。「侵害受容性疼痛」は、部位の限局の見られない「内臓痛」と部位が特定され易い「体性痛」や「関連痛」に分類される。痛む部位を動かすと痛みが増強するのが「体性痛」、動かしても増強しないのが「関連痛」である。原因器官と離れた場所が痛む「関連痛」は神経解剖学的にデルマトームを理解すれば解釈は容易となる。これらの痛みの特徴に発症機転(突然、急性、慢性、発作性)や病状経過(増悪、横ばい、改善)を組み合わせて診断を絞り込む。また患者の言語化されない病歴(特定の受療行動など)を確認・分析することも診断の助けとなる。多くの具体的な症例の提示があり、実際の「痛み」の診断のプロセスについて理解を深めることができた。

講演4「糖尿病診療の課題 2016」
座長 糖尿病対策委員会 皆川冬樹委員
演者 横浜市立大学附属市民総合医療センター内分泌・糖尿病内科部長 山川正先生
 健康寿命を短縮する糖尿病合併症として、細小血管障害(神経障害、網膜症、腎症)、大血管障害(冠動脈疾患、脳卒中、閉塞性動脈硬化症など)、その他(歯周病、足病変、手病変、認知症など)が知られているが、骨折も新たに追加された。コントロール目標値はHbA1c(%)で、血糖正常化を目指す際は6.0未満、合併症予防では7.0未満、治療強化困難な際は8.0未満であるが、高齢者の場合低血糖を回避するため、インスリン・SU薬使用時のHbA1cは65歳以上で6.5以上、75歳以上で7以上、認知症など合併例では7.5以上と下限が設けられた。食事療法では3大栄養素(糖質、脂質、蛋白質)の至適な比率は不明だが、糖質の摂りすぎは避けるべきである。野菜を先に食べ、米より先に肉や魚を食べると食後血糖が上昇しにくい。近年、糖尿病患者の血糖コントロールは改善傾向である一方体重は増加傾向にある。薬物療法にあたり、体重増加や低血糖を起こしにくい薬剤から使用すべきである。禁忌がなければメトホルミン、難しければDPP4阻害薬で開始し、必要ならば体重を増やしにくいGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬を追加することである。Sickdayの対応にも注意すること。

講演5「肝炎治療の最近の進歩」
座長 肝炎対策委員会 永井一毅幹事
演者 横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター准教授 中馬誠先生
 C型肝炎の治療成績は直接作用型抗ウイルス薬(DAA:Direct Acting Antivirals)の登場により95~100%のウイルス学的著効を達成できるようになった。DAAの種類も増えており個々の薬剤の特性を見極めた上で適切な使用を心がけることである。DAA治療困難または難治となる点は、ウイルス側因子としてはDAAへの薬剤耐性、前治療無効例であり、ホスト側因子としては非代償性肝硬変(Child B,C)、高齢者、腎機能障害であり、薬剤側因子としては薬剤相互作用である。ウイルス駆除後の肝発癌の減少が期待されるが、DAA治療を受けた患者は高齢かつ肝線維化高度の症例が多く発癌のポテンシャルが高いため注意深いフォローアップが必要である。B型肝炎ではHBe抗原消失HBe抗体陽性化(SC:seroconversion)後の無症候性キャリアが本当に非活動かという問題がある。SCは決して臨床的治癒ではなく、SC後も肝炎の活動が続き線維化の進行や肝発癌をみる場合もある。日本肝臓学会のガイドラインによれば、1年以上の観察期間のうち3回以上の血液検査で(1)HBe抗原が持続陰性、(2)ALT持続正常(30以下)、(3)HBV-DNAが4Log未満を満たす場合に非活動性キャリアとみなす。画像所見や血小板減少により線維化の進展が疑われるときは肝生検による精査を行う。

 講演会のあと同フロアのレストランに移動し、情報交換会が持たれた。

(5)平成29年新春学術講演会
 平成29年新春学術講演会は平成29年1月19日(木)午後7時15分より横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ5階日輪にて肝炎対策委員会と医薬品評価検討委員会の担当で開催された。宮川政昭会長の挨拶のあと中佳一名誉会長の特別発言として健康長寿社会を目指す委員会により行われたアンケート調査の結果についての報告があった。肝炎対策委員会の岡正直委員長が座長を務め、講演1「これからのC型肝炎治療」を横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器内科教授 田中克明先生にご講演いただいた。以下に講演内容を簡単に紹介する。

「これからのC型肝炎治療」横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器内科教授 田中克明先生
 Direct acting antivirals(DAAs)によりC型慢性肝炎は95%超治癒する時代となったが、最新の肝炎治療から洩れている人の掘り起こしが今後重要となるだろう。高齢者に対するDAAs治療は、70歳台であれば行い、80歳台では適応を考慮するが元気なら治療対象と考える。ただし75歳以上では有害事象による治療中止が多い傾向がある。シメプレビル(SMV)で失敗した人は耐性変異により、ダクラタスビル(DCV)+アスナプレビル(ASV)でも失敗するのでこの治療を避けること。DNAにはなくRNAのみに含まれるウラシルのアナログであるソホスブビル(SOF)は画期的なDAAであり、1型に対するSOF+レディパスビル(LDV)治療はほぼ100%の治癒を可能としているが、eGFR50未満の腎障害者には注意すること。オムビタスビル(OBT)+パリタプレビル(PTV)+リトナビル(r)は腎機能低下例でも使用できるが、ウイルスの耐性があると治療成績が低下する。また多くの薬剤と相互作用があり、投薬内容に細心の注意が必要である。特にカルシウム拮抗薬との併用は避けること。エルバスビル(EBV)+グラゾプレビル(GZR)も腎障害者に使え、97%の成績である。薬剤相互作用も比較的少ない方である。今後登場するDCV+ASV+ベクラブビル(BCV)も成績はよく、ゲノタイプ1aにも効果があるのが特徴である。さらにグレカプレビル(GLE)+ピブレンタスビル(PIB)はわずか8週間投与ですべてのゲノタイプに対して効果があり、それまでのDAAs治療の失敗例に対する画期的な治療薬となることが期待されている。今後の問題点として、非代償性肝硬変患者への治療や、DAAs治療失敗後の多重耐性症例への治療などが課題である。

 次に、医薬品評価検討委員会の湯浅章平委員長が座長を務め、講演2「医薬品で健康を害うことのない世界をつくるために」を3人の演者にご講演いただいた。以下に講演内容を簡単に紹介する。

「医薬品で健康を害うことのない世界をつくるために」
{薬害の歴史に学ぶ}川崎北合同法律事務所弁護士 湯山 薫 先生
 医薬品による健康被害のうち、行政や企業の不適切な行為が関与したことにより、社会問題化したものを「薬害」という。
①サリドマイド事件:鎮静・睡眠薬として1950年代末~1960年代初め販売され、その催奇形性により手足や耳などに障害を持った被害児が生まれた。②スモン事件:1960年代後半、整腸剤キノホルムにより死亡、失明、歩行障害、自律神経失調を伴う亜急性脊髄視神経症(subacute myelo-optico-neuropathy:SMON)を引き起こした。③クロロキン事件:日本のみクロロキンの適応拡大による長期投与が行われ、1962年以降失明も含む網膜症が増加した。④薬害エイズ事件:1980年代に非加熱血液凝固因子製剤により、主に血友病患者に多数HIVを感染させた。⑤MMR(新三種混合)ワクチン事件:1989年導入のMMRワクチンにより無菌性髄膜炎などの被害が発生し後遺症を残した。⑥薬害肝炎事件:多数の人の血液を集めた、ウイルス混入リスクの高いプール血漿を用い、充分なウイルス不活化処理もなされなかったフィブリノゲン製剤や血液凝固第Ⅸ因子製剤により多数のC型肝炎ウイルス感染者を発生させた。
{薬害被害の体験}薬害C型肝炎被害者 浅倉美津子 様
 1988年次男を出産した際、出血が多かった。退院後倦怠感と発熱あり、内科に入院しC型慢性肝炎と診断されたが感染源は不明とされた。2002年東京と大阪で薬害肝炎訴訟が起こされたことを知り、カルテ開示により出産時にフィブリノゲン製剤を投与されていたことが判明した。勤務先から解雇されるのではないかと不安な日々を過ごしたが、2008年に薬害肝炎救済法が成立した後、勤務先を退職してつらいインターフェロン治療を受けた。幸い完治することができたが、現在も6か月毎に超音波検査や採血フォローアップを受けている。
{薬害事件の背景と対策}清和総合法律事務所弁護士 服部功志 先生
 薬害が起こる制度的問題として、①承認審査:安易な適応の拡大、危険性情報の過小評価、②市販後安全対策:正確な副作用情報が上がってこないため、厚労省の対応の遅れがあり、因果関係が明らかになる前に被害が拡大する。③利益相反問題:厚労省からメーカーへの天下り、などが挙げられる。外国にならい日本でも患者からの直接の被害情報が求められる。薬害の予防原則は「重大かつ不可逆的な被害が起こりうるときは、危ないと思った段階ですぐに手を打つ」ことである。
 薬害被害者の求めるものは、①薬害教育の充実、②薬害研究資料館の創設、③患者からの副作用報告制度の創設、④第三者監視組織の創設、である。
 医師に求められるものは、①最新の副作用情報の収集、②学会における最新知見の共有、③予防原則に立った副作用情報の収集(患者の話を注意深く聴く)④PMDAへの速やかな副作用報告、⑤適応外使用に対する慎重な姿勢、である。

 講演終了後、出川寿一副会長の閉会の挨拶の後、別室にて情報交換会が行われた。

(6)第80回集談会
 第80回集談会は平成29年2月18日(土)15時より、オークラフロンティアホテル海老名3階ラ・ローズにて、第5地区(海老名内科医会 濱田芳郎会長)の担当で開催された。海老名内科医会大澤正享副会長の開会の辞に続いて、神奈川県内科医学会宮川政昭会長、海老名市医師会高橋裕一郎会長、海老名内科医会濱田芳郎会長の挨拶の後、一般演題21題の講演があった。特別講演「腸内細菌と免疫」を慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室教授本田賢也先生よりいただいた。ご講演の内容を簡単に紹介する。

 ヒトのゲノムは2~3万個程度であるのに対して、ヒトの腸内細菌は約1000種類でそのゲノムは50万~100万個に及んでおり、まさに人体最大の臓器とも言える。近年、次世代シークエンサーの進歩により腸内細菌についての研究が急速に進展している。人類は腸内細菌により大きく3つのタイプ(enterotype)に分類できることが分かった。蛋白質や脂肪分を多く摂る欧米人や中国人に多くみられるバクテロイデス属が多いタイプ、炭水化物や食物繊維の摂取が多いアジア中南米やアフリカの人に多くみられるプレボテラ属が多いタイプ、前2者の中間的な食事をしている日本人やスウェーデン人に多くみられるルミノコッカス属が多いタイプの3つである。疾患との関連において腸内細菌種の多様性が失われる構成異常(dysbiosis)がみられることが分かってきた。dysbiosisの原因としては(1)食事(高脂肪食、低繊維食、低栄養、単一食)や(2)長期入院・高齢者(同じものばかり、繊維少)や(3)抗生剤や(4)炎症がある。これらの内で最も悪影響を及ぼすのが炎症である。体内に炎症が起こると、炎症産物が腸管内に分泌される。健常時に多数を占めるバクテロイデスやファーミキューテスはこの炎症産物を利用できないが、一方プロテオバクテリアは利用することができるため優勢となる。これによってdysbiosisが生じ、免疫異常や腸管粘膜バリアの破壊がおこり、慢性炎症がさらに悪化するという悪循環に陥ることとなる。以前より乳酸菌・ビフィズス菌に代表されるprobioticsが利用されてきたが、これらの単独投与では腸内細菌の多様性を取り戻すことは難しく、臨床効果は乏しかった。近年便移植(fecal microbiota transplantation:FMT)がある種の疾患に劇的な効果を発揮したが、ドナーの便の状態によって臨床効果が左右されるため不確実性も大きい。やはり細菌種の機能を一つ一つ解析していくことが必要である。わが国は嫌気性菌の培養や後述のノトバイオート技術に秀でているため、世界をリードする研究環境に恵まれている。「ノトバイオート」とは、それがもっている微生物を完全に把握できている動物のことで、無菌動物に興味ある菌のみを投与することによって作られる。ノトバイオートを用いることによって、宿主の免疫系を活性化する菌種をいくつも発見することができた。この講演では制御性T細胞(Treg)について述べたいと思う。Foxp3遺伝子陽性のTregは炎症を抑制する働きを持っている。Foxp3遺伝子変異という疾患では、全身に炎症が多発し死に至る。また、Foxp3遺伝子陽性のTregは小腸や大腸に恒常的に多数存在しており、無菌動物ではTregが減ってしまうことからも腸内細菌によってTregが増やされていることがわかる。どの腸内細菌がTregを誘導しているのかを探るため、クロロホルム処理と2万倍希釈などの手法を用いて探求した結果、芽胞形成菌であるクロストリジウムの17菌株がTregを誘導する力が強いことが判明した。クロストリジウムは酪酸産生菌であり、酪酸自体にもFoxp3遺伝子陽性のTreg誘導作用が認められている。幼少時の抗生剤の使用が多いほど、dysbiosisを起こしやすいことも知られており、腸内細菌叢に悪影響を与えない抗生剤の開発や、抗生剤の使い方の見直しも重要と思われる。

 神奈川県内科医学会金森晃副会長の閉会の辞の後、別室にて意見交換会が持たれた。次期開催地区の第1地区横浜内科学会の小野容明会長の挨拶もあり、終始和やかな雰囲気のうちに終了した。

(7)日本臨床内科医会関連業務
 日本臨床内科医会との連絡窓口として、会員への情報提供を行った。また平成30年9月16日と17日に開催予定の第32回日本臨床内科医学会を神奈川県内科医学会主管で実行するための準備委員会を隔月に開催し(6月6日、9月5日、11月7日、1月16日、3月6日、5月8日)準備を進めた。メインテーマは「医識改革」と決定した。

(8)おわりに
 平成27年度からは神奈川県内科医学会は宮川政昭新会長の下に新体制となり、今までの「総務部会」と「学術Ⅰ部会」は合流し「総務企画部会」として再スタートした。長い歴史のある本体事業に新たな変更や発展を加えつつ、平成29年の創立50周年記念事業や平成30年の第32回日本臨床内科医学会を成功させるため、全会員のご支援・ご協力をお願いしたい。

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