ページ

2013年5月27日月曜日

「iPS細胞を用いた今後の医療の可能性」 京都大学iPS細胞研究所副所長・特定拠点教授 中畑龍俊先生

平成25年度神奈川県内科医学会定時総会時学術講演会
特別講演「iPS細胞を用いた今後の医療の可能性」
  京都大学iPS細胞研究所副所長・特定拠点教授 中畑龍俊先生
  2013年5月25日(土)神奈川県総合医療会館7階講堂にて

 2012年のノーベル医学生理学賞は英国のJ.Gurdon先生と日本の山中伸弥先生が受賞した。Gurdonは分化した体細胞の核を核を除去した受精卵に移植することで核を初期化することに成功した。これによって受精卵の細胞質には何らかの核を初期化する因子があることを想定したが、具体的な因子を特定するには至らなかった。山中は4つあるいは3つの山中因子を特定し、これを作用させることにより分化した細胞を初期化し、iPS細胞(induced pluripotent stem cell 人工多能性幹細胞)を作り出すことに成功した。
 山中教授が所長を務める京都大学iPS細胞研究所(CiRA サイラ)では、iPS細胞作製技術を用いて創薬、新しい治療法の開発、病気の原因の解明や再生医療への応用を実現するための研究を行っている。現在では安全なiPS細胞作製技術が確立し、世界初の臨床応用として、iPS細胞由来の網膜色素上皮細胞を用いた加齢黄斑変性の治療が開始されるところである。他にも、パーキンソン病、脊髄損傷などの治療法の研究が進んでいる。ここで問題となるのは、患者より採取したiPS細胞を用いる場合、病状によっては治療が間に合わなくなることがあるため、HLAタイプ別の再生医療用iPS細胞ストックをつくることが必要となる。CiRAでは臍帯血バンクや日本赤十字と連携し、治療に使える高品質のiPS細胞調整施設を運営している。
 再生医療以外にも、iPS細胞により疾患のモデルを作成し有効な治療薬の開発につなげることも重要である。この分野では米国が日本に先んじているので、さらに注力する必要がある。CiRAでは筋萎縮性側索硬化症(ALS)に有効なanacardic acid、脊髄性筋萎縮症(SMA)に有効なバルプロ酸などがiPS細胞による疾患モデル研究により見出された。血液・免疫を担当する演者の研究室では、iPS細胞を用いてCINCA症候群(Chronic infantile neurological cutaneous and articular syndrome)やFanconi貧血やChediak-Higashi症候群の発症メカニズムを解明しており、今後の創薬につなぐための研究を進めている。
 今後10年間の4大目標として、iPS細胞基盤技術の確立と知財確保、再生医療用iPS細胞ストック構築、再生医療の前臨床試験から臨床試験への推進、患者由来iPS細胞による治療薬の開発を掲げ、全力で取り組んでいる。

0 件のコメント: