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2013年5月27日月曜日

学会の動き(神奈川県内科医学会の動向)神内医ニュース70号

学会の動き(神奈川県内科医学会の動向)神内医ニュース70号 学術1部会部会長 岡 正直

 神奈川県内科医学会学術1部会が企画担当している講演会は、定時総会時学術講演会、臨床医学研修講座、秋季学術大会、新年学術大会そして集談会の5つです。

【平成25年新年学術大会報告】
 平成25新年学術大会が平成25年1月17日木曜日18時45分より横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ5階日輪にて開催されました。今回は肝炎対策委員会の宮本京委員長の企画により、「B型肝炎の今を知る」のテーマのもと2つの講演が行われました。中佳一会長の開会挨拶に引き続き特別講演1「我が国のB型肝炎:最近の動向と特徴」を慶応義塾大学医学部兼担教授 齋藤英胤先生にお話いただきました。ご講演の内容を簡単に紹介します。
 B肝炎ウイルスは肝炎ウイルスのなかで唯一のDNA(不完全2重鎖DNA)ウイルスでありC型肝炎ウイルスとともに慢性肝炎を引き起こす原因となる。遺伝子型によりAからHまで亜型がある。血中ではHBc抗原はHBs抗原に囲まれて存在する。ウイルスが盛んに増殖するときには、HBe抗原が肝細胞から分泌される。HBV-DNAを伴わない感染性のないHBs抗原が多く血清中にある場合もある。
 B型急性肝炎は現在では多くの場合性行為により感染する。潜伏期間は半月から6ヶ月で、不顕性感染も70%ある。成人の初感染はほとんどの場合急性肝炎で終息する(HBs抗体ができて治る)が、海外より侵入した遺伝子型Aは慢性化が起こりやすい。もともと日本は遺伝子型Cが多かったが関東・東海・近畿圏では遺伝子型Aが約半分を占めるに至っている。急性肝炎を発症すると最初にIgM-HBc抗体ができ、引き続きIgG-HBc抗体が出現する。最後に半年から1年でHBs抗体ができて臨床的治癒となる。性感染によるB型劇症肝炎を肝移植により救命しえた症例を提示した。劇症肝炎やLOHF(Late Onset Hepatic Failure)の原因としてB型肝炎ウイルスによるものが多い。
 B型慢性肝炎は、日本においては母子感染あるいは幼児期における水平感染が主な感染経路であった。特に昭和23年から63年の間に行われた予防接種による集団感染に対して国が補償することになったことは記憶に新しい。アジアはB型肝炎が蔓延している。世界の人口の3分の1がB型肝炎ウイルスに感染した形跡があり、その4分の3がアジアにいるとも言われている。日本ではHBキャリアーは150万人いると推定され、1986年より母子感染防止事業が始まった。キャリアから生まれる赤ちゃんに免疫グロブリンとワクチン接種を行いキャリア率を低下させることに成功している。特に20歳以下ではキャリア率は非常に低くなっている。
 このような垂直・水平感染後9割は持続感染状態に移行し、HBe抗原陽性キャリアとなり次第にHBe抗体陽性のキャリアに移行する(seroconversion)。これらの過程で一部の人に癌が発生するが、この肝炎期の間にHBV-DNA、HBs抗原が減少し、40から50年経ってHBs抗体が出現してくる。血中からウイルスが消失しても、肝細胞の中にはcccDNA(covalently-closed circular DNA)の形でウイルスのDNAが残存しており、宿主のDNAに組み込まれることも起る。HBs抗原陰性・HBc抗体陽性の人からB型肝炎が発症することがあるのはこのためである。
 B型慢性肝炎の治療は、1972年のステロイド離脱療法に始まり、1987年にインターフェロン療法、2000年から核酸アナログ製剤のラミブジンが使用されるようになり進歩を遂げた。ラミブジンは耐性を生じやすいため、現在ではエンテカビルやテノホビルを使用するべきである。ラミブジン耐性時に併用するアデフォビルは腎障害が出やすいので、腎障害時には一日おきに投与するとよい。エンテカビルは空腹時に服用すること。核酸アナログは投与中止すると肝炎の再燃が起るため投与中止の時期が難しい。また耐性ウイルスの出現による劇症肝炎にも注意が必要である。一方インターフェロンは投与中止後も効果が持続し、投与中止が容易で耐性ウイルスがないという利点がある。新たなマーカーであるコア関連抗原量やHBs抗原量はcccDNA量を反映するので、これらの値が低ければ、核酸アナログ中止後の再燃が少ない。また核酸アナログによりウイルスを完全に押さえ込んでから、インターフェロンを半年から1年間投与するSequential治療も試みられている。
 リンパ腫の治療の際などに用いる免疫抑制剤によるB型肝炎の再活性化についても言及した。HBs抗原陰性でもHBc抗体陽性の場合は十分な注意が必要である。またHIVとの重複感染は肝臓の線維化がはやく死亡率も高い。HIV感染を見落として核酸アナログを使用すると、HIVが治療薬に耐性化しHIVの治療が困難になることがあるため注意すること。
 続いて特別講演2「B型肝炎ウイルス(HBV):炎症と発癌」を東海大学内科学系消化器内科学教授 峯徹哉先生にお話いただきました。ご講演の内容を簡単に紹介します。
 B型肝炎の母子感染(垂直感染)は減少してきたが、父子感染が注目されている。体液を介して3歳までに感染するとHBVキャリアとなる。世界人口60億人のうち20億人はHBV既感染であるといわれる。我が国でもHBV感染者は120-140万人いるが、そのうち受診者は6万2千人にすぎない。C型肝炎と異なり、肝硬変以前の段階から発癌がありうることを強調したい。HBV無症候性キャリア1万人に2人の割合で発癌すると考えられている。毎年5000から6000人がB型肝炎由来の肝癌で死亡している。seroconversionは決して治療のゴールではなく、そのあとでも再活性化や発癌のリスクは続くのである。一度HBVに感染すると、肝細胞の中にcccDNAの形でウイルス遺伝子が残存するためである。現在このcccDNAを破壊する治療を開発中である。
 成人になってからHBVに感染しても慢性化しないと言われていたが、海外から侵入したHBV遺伝子型Aの増加に伴い、従来の遺伝子型BとCと異なり遺伝子型Aの感染者の10%は慢性化すると考えられるようになった。インターフェロンは遺伝子型AとBでは44-47%効くが、遺伝子型Cではあまり効かない。また遺伝子型Cは肝硬変や癌になりやすいという違いがある。
 HBVにいったん感染するとHBc抗体はずっと陽性である。免疫抑制療法を行う際には、HBs抗原とHBc抗体をはかることである。seroconversion後にも33%の症例でALTの再上昇がみられる。HBs抗原が陰性になった場合でもcccDNAが残存しているためである。またHBs抗原の測定の感度が良くなり、いままで陰性とされていたものが実は陽性だったということもある。感染の既往という意味でのHBc抗体の意義は重要である。IgM-HBc抗体陽性は最近のHBV感染を示す。HBc抗体陰性でHBs抗体陽性はワクチン接種によって獲得された免疫である。HBe抗原陰性のB型肝炎は突然変異ウイルスによるものである(プレコア変異慢性B型肝炎)。この場合はHBV-DNAを測定すること。
 HBs抗原陰性、HBc抗体陽性の患者に免疫抑制療法を行う際に発症するde novoB型肝炎は、劇症化し死に至ることもある。免疫抑制開始後3ヶ月間に肝機能が少しずつ上昇し、突然劇症化するので、最初のうちの肝機能の変化を見逃さないことである。
 B型慢性肝炎の治療に近年よく用いられる核酸アナログは、耐性化を起こしにくいことから、エンテカビルがよく使われる。ラミブジン耐性の際併用されるアデフォビルは腎障害に注意すること。ラミブジンは3年間で5割ウイルスが耐性化する。HBVは増殖の際に逆転写酵素が関与するので変異がおこりやすく耐性化によりbreakthrough hepatitisをおこす恐れがある。
 HBV-DNAを低く保てば発癌リスクを低く抑えることが出来るが、核酸アナログでは完全に発癌を抑制できないこともわかってきた。HBs抗原量とHBV-DNA量とは独立した発癌ファクターである。同じHBV-DNA量であってもHBs抗原量が高いと発癌が多い。発癌リスクはHBV-DNAが4Log未満ならHBs抗原量で差があり、4Log以上ならHBs抗原量で差がない。発癌リスクを評価するためには、HBs抗原量とHBV-DNA量の両方をチェックすることが必要である。またAFPが10を超えていると発癌が多い傾向がある。
 今後医療訴訟に巻き込まれないためにも、最新の知見を踏まえて日々のB型肝炎診療にあたることが必要である。
 最後に梶原光令副会長から閉会の挨拶をいただき、その後情報交換会が持たれました。
 新年学術大会は2つの講演が互いに関係する分野の話となるよう企画され、テーマの内容について深く掘り下げた理解が得られるまたとない絶好のチャンスです。

【第76回集談会報告】
 第76回集談会が平成25年2月9日土曜日15時20分より横浜崎陽軒本店(横浜駅東口)6階会議場にて横浜内科学会主管にて開催されました。横浜内科学会副会長伊藤正吾先生と中佳一会長の開会挨拶に引き続き15時30分より一般演題47題の発表が開始されました。発表形式はすべてポスター形式とし、各演題発表はAからFの各グループの座長のもと同時進行いたしました。
 17時10分より同じ横浜崎陽軒本店4階ダイナスティーにて中佳一会長の挨拶のあと特別講演「骨折リスク因子を考慮した骨粗鬆症治療」を虎ノ門病院内分泌代謝科部長竹内靖博先生にお話いただきました。ご講演の内容を簡単に紹介します。
 骨粗鬆症による骨折は高齢者のADLやQOLを損なう原因であり社会経済的にも深刻な問題となっている。現在の骨粗鬆症の薬物治療の目的は骨折の予防である。まず骨折しやすい患者を見つけ出すことが重要で、骨折リスクの高い患者像を知ることが必要である。糖尿病や高血圧の診療と同様に潜在するリスクとその裏付けとなる病態に基づき治療することが大切である。そのためには1.骨粗鬆症の確実な診断、2.骨折リスク因子の理解、3.適切な治療をすること。
 骨粗鬆症の定義は「骨強度が低下し骨折しやすくなった全身的な骨疾患」だが、骨強度は臨床的には測定不能のため代替指標として骨密度測定値により診断する。しかしすでに「骨折している」患者は骨密度が正常未満なら骨粗鬆症と診断する。特に椎体圧迫骨折と大腿骨近位部骨折は骨粗鬆症との関連が強い。よって単純X線像で椎体に変形(骨折)をみれば積極的に骨粗鬆症と診断する。
 骨折リスク因子とは、骨密度が同じでも骨折しやすくなる背景因子であり、FRAX(fructure risk assessment tool)に含まれる過度の飲酒、喫煙、家族歴、ステロイド薬内服などである。それ以外に薬剤(PPI,SSRI等)内分泌疾患(甲状腺機能更新症等)生活習慣病(2型糖尿病等)もある。これら単独では相対リスクを1.5-2倍程度上昇させるが、因子の数が増えるとリスクも上昇する。統計学的には喫煙するSSRI内服中の2型糖尿病患者では3.5-8倍のリスクとなる。
 今日では骨折抑制効果ある骨粗鬆症治療薬が多くあり、そのファーストラインは経口ビスホスホネートで、SERMやテリパラチドや活性型VD3誘導体という選択肢もある。骨折抑制効果のエビデンスによる推奨度は「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011」にある。科学的に実証された骨折抑制効果のある薬剤選択と治療の確実な継続が重要である。臨床試験の成績より、少なくとも2年間の治療継続が必要で、治療に対するアドヒアランスが80%以上あることが望ましい。
 梶原光令副会長の閉会の挨拶のあと、18時30分より同じ横浜崎陽軒本店5階マンダリンにて意見交換会が行われました。次期開催地区である川崎市内科医会副会長 鶴谷孝先生よりご挨拶も戴きました。

【平成25年度定時総会時学術講演会報告】
 平成25年度定時総会は、2013年5月25日(土)神奈川県総合医療会館7階講堂にて開催され、引き続き学術講演会が行われました。2012年にノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥教授が所長を務める京都大学iPS細胞研究所より副所長・特定拠点教授の中畑龍俊先生をお招きし、中佳一会長が座長を務め特別講演「iPS細胞を用いた今後の医療の可能性」をお話しいただきました。ご講演の内容を簡単に紹介します。
 2012年のノーベル医学生理学賞は英国のJ.Gurdon先生と日本の山中伸弥先生が受賞した。Gurdonは分化した体細胞の核を核を除去した受精卵に移植することで核を初期化することに成功した。これによって受精卵の細胞質には何らかの核を初期化する因子があることを想定したが、具体的な因子を特定するには至らなかった。山中は4つあるいは3つの山中因子を特定し、これを作用させることにより分化した細胞を初期化し、iPS細胞(induced pluripotent stem cell 人工多能性幹細胞)を作り出すことに成功した。
 山中教授が所長を務める京都大学iPS細胞研究所(CiRA サイラ)では、iPS細胞作製技術を用いて創薬、新しい治療法の開発、病気の原因の解明や再生医療への応用を実現するための研究を行っている。現在では安全なiPS細胞作製技術が確立し、世界初の臨床応用として、iPS細胞由来の網膜色素上皮細胞を用いた加齢黄斑変性の治療が開始されるところである。他にも、パーキンソン病、脊髄損傷などの治療法の研究が進んでいる。ここで問題となるのは、患者より採取したiPS細胞を用いる場合、病状によっては治療が間に合わなくなることがあるため、HLAタイプ別の再生医療用iPS細胞ストックをつくることが必要となる。CiRAでは臍帯血バンクや日本赤十字と連携し、治療に使える高品質のiPS細胞調整施設を運営している。
 再生医療以外にも、iPS細胞により疾患のモデルを作成し有効な治療薬の開発につなげることも重要である。この分野では米国が日本に先んじているので、さらに注力する必要がある。CiRAでは筋萎縮性側索硬化症(ALS)に有効なanacardic acid、脊髄性筋萎縮症(SMA)に有効なバルプロ酸などがiPS細胞による疾患モデル研究により見出された。血液・免疫を担当する演者の研究室では、iPS細胞を用いてCINCA症候群(Chronic infantile neurological cutaneous and articular syndrome)やFanconi貧血やChediak-Higashi症候群の発症メカニズムを解明しており、今後の創薬につなぐための研究を進めている。
 今後10年間の4大目標として、iPS細胞基盤技術の確立と知財確保、再生医療用iPS細胞ストック構築、再生医療の前臨床試験から臨床試験への推進、患者由来iPS細胞による治療薬の開発を掲げ、全力で取り組んでいる。
 講演終了後会場は興奮に包まれ、予定の時間を過ぎても質疑が尽きませんでした。梶原光令副会長の閉会の挨拶のあと、総合医療会館1階にて演者を交えて情報交換会が持たれ、盛況のうちに終了いたしました。

【第38回臨床医学研修講座予告】
 第38回臨床医学研修講座は、2013年9月21日(土)川崎日航ホテルにて第2地区、聖マリアンナ医科大学の主管にて開催される予定です。
 総合診療内科准教授 國島広之先生「地域における感染症への対応-Up to date-」、消化器・肝臓内科准教授 山本博幸先生「明日からの診療に役立つ消化器疾患の実用化研究最前線」、呼吸器・感染症内科准教授 峯下昌道先生「肺気腫(COPD)の診断と治療」、呼吸器・感染症内科教授 宮澤輝臣先生「呼吸器疾患の気管支鏡を使用した治療」、循環器内科教授 明石嘉浩先生「ストレス心筋症の診断」の5つの講演と講演終了後懇親会が予定されています。

【平成25年度秋季学術大会中止】
 秋季学術大会は「高齢者医療」をテーマに開催してまいりましたが、基本集会の中における今後の位置づけを見直すため平成25年度は休会とし、平成26年度より新しいスタイルで再開される予定です。

【おわりに】
  学術Ⅰ委員会は平成22年度まで部会長をされた伊藤正吾先生の後を引き継ぎ、平成23年度より新たな体制で活動を開始いたしました。平成24年度も中佳一会長のご指導のもと、今までの長い歴史のある講演会に新たな変更や発展を加えながら、5つの基本講演会を開催することができたと思います。今後とも、神奈川県内科医学会本体事業である学術1部会の講演会開催にご協力とご参加をお願い申し上げます。

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