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2012年7月28日土曜日

港南区医師会40周年記念誌 情報システム部

港南区医師会40周年記念誌 情報システム部 部長 岡 正直

 世界最先端のIT国家をめざす「新IT戦略」を当時の小泉純一郎首相が提唱していた平成15年(2003年)度に情報システム部は発足いたしました。(部長 今井健介先生)医療分野においてもIT活用の気運は高く、今井部長のご尽力のもとに作成された「港南区医師会ホームページ」(http://www.kounan-med.org/)は高度に完成されており、利用価値の高いものとなっております。
 その後平成17年(2005年)度より、今井先生のあと岡が部長を務めております。
 日本医師会は、医療現場のIT化を進めるための土台となる標準化されたオンライン診療レセプトシステムを導入し、互換性のある医療情報をやりとりできるようにする計画(ORCA:Online Receipt Computer Advantage)を推進しています。横浜市医師会情報システム部会においてもORCAの推進は重要な事業の柱であり、平成18年(2006年)3月7日には港南区医師会情報システム部講演会として「ORCAと電子カルテ研究会」を開催いたしました。
 平成18年(2006年)4月10日に厚生労働省から発令された「療養の給付等に関する請求省令の一部を改正する省令の施行」を受けた平成23年(2011年)に向けてのレセプトオンライン請求義務化の動きは、医療関係者の間で大きく受け止められることとなりました。日本医師会は平成19年(2007年)8月30日に「一般的な小規模医療機関では、コンピュータの導入や操作、ネットワーク回線の利用など、多くのステップと投資を踏まなければオンライン請求は実現できない。オンライン請求が完全義務化されれば、保険診療を継続できない医療機関が出てくることが想定され、地域医療の崩壊を招く恐れがある」とのコメントを発表しました。
 平成20年(2008年)4月より40歳~74歳までの公的医療保険加入者全員を対象とした「特定健康診査・特定保健指導」(一般には「メタボ健診」といわれている)の開始へ向けて、さまざまな議論が沸き起こる中、平成20年(2008年)3月5日「特定健診とレセプトオンライン義務化に向けての対策」の講演会が開かれました。
 レセプトオンライン請求義務化が迫る中で、会員の関心も高まりを見せ、平成21年(2009年)3月27日には「レセプトオンライン請求とORCAについて」、同年7月30日には「レセプトオンライン請求勉強会」が開催されました。しかし、この年自民党より民主党への政権交代がおこり、11月25日厚労省は「オンライン請求の義務化」から「オンラインあるいは電子媒体による請求の義務化」に省令改定を行い、義務化の除外規定も設けられたことにより、問題は後ろ向きに沈静化しました。
 近年IT技術は日常生活の中に深く入り込み、パソコンのコモディティ化、インターネット利用の常態化の流れの中で、光ファイバーによる高速常時接続や市中での無線による接続の普及を背景に、クラウドコンピューティングが大きな存在感を示すようになりました。急速に普及しているスマートフォンやタブレット端末のサービスはクラウドの存在なしには成立しないと言えましょう。ある意味「パソコン」無用の時代に入りつつあるのかもしれません。
 平成23年(2011年)3月11日、東日本大震災は甚大な被害をもたらし、医療機関を含めた社会インフラが根こそぎ破壊される事態を経験することになりました。紙カルテや電子的ファイルの形態を問わず重要な診療情報データが、そのバックアップごと喪失することとなり、震災後の患者の治療継続に支障が生じているようです。このような巨大災害の際にデータを失わないためにも、個人情報の流出のリスクに配慮しつつ、クラウドでのデータ管理を進めることの重要性を強調したいと思います。
 レセプトの電子的な形での提出がいきわたったことを背景に、平成24年(2012年)度より、今までの目検によらないコンピュータパワーを駆使した「突合・縦覧」によるレセプト審査の厳格化が開始されました。この文章の執筆中の7月の時点で、制度導入からまだ日が浅いにもかかわらず、すでに全国で巨額の減点が発生しているとのことであり、機械力のすごさを感じています。もちろん適正なレセプト作成がなされるべきとは思いますが、しばしば改定を繰り返して複雑・煩雑を窮める規則に則ったレセプトを作成するのは至難なことであり、レセプト提出側においてもコンピュータパワーを駆使せざるを得ないことは確実です。今後、審査側と提出側のレセプトチェックプログラムの強化合戦が早い速度で進み、人智が入り込めないような領域に突入するかもしれません。その行き着く先には、保険診療は医師の判断ではなくコンピュータの指示に従って行うしかない悪夢の世界があるのでしょうか?
 医療とITとの関わりにおいて大きな転換点に立ちながら、医師会会員の力となるような部会活動を行うにはどうすればよいかを、次の10年も模索していきたいと考えております。皆様のご協力をお願い申し上げます。最後に今年度の港南区医師会情報システム部会の事業計画を載せて小文を締めくくりたいと思います。

1.会員へのインターネット普及・啓発並びに文書等の電子配信の推進。
2.ホームページの運用・管理の充実。
3.会員向けの情報提供・共有・交換等のサービスの充実。
4.ORCA(日医標準レセプトソフト)への対応と普及。
5.医師会業務のシステム化の推進。
6.日医・県医・他都市医師会並びに区医師会との連携の推進。
7.市医師会との連携の推進。
8.レセプト請求システムへの対応。

【用語解説】

「IT」
Information Technologyの略。情報技術。最近はインターネット利用の発展を考慮して「ICT」(Information and Communication Technology 情報通信技術)ということが多くなった。

「ORCA」
ORCAプロジェクトとは、医療情報ネットワーク推進委員会にて「医師会総合情報ネットワーク構想」(1997年 情報化検討委員会)を構成するツールの一つとして認められた日本医師会の研究事業プロジェクト。下記のシナリオにあわせ、ネットワーク技術とソフトウェアを無償公開する。
1.医療のIT化を日医主導で進め、政策提案の元となる情報を収集するには、医療機関を結ぶコンピュータのネットワークが必要
2.上記の実現にはセキュリティの高いネットワークと各医療機関に端末が必要
3.端末への付加機能としてニーズの高いソフトウェアを開発、無償公開して普及を図る
4.その結果医療情報交換の効率化と標準化が進み、国民医療が改善する

「クラウド」
cloud=雲。最近では、クラウドコンピューティングを略して「クラウド」と呼ぶことが多い。データやプログラムを自分のパソコンや携帯電話ではなく、インターネット上(これが雲のイメージ)において利用するサービスのこと。自宅、会社、ネットカフェ、学校、図書館、外出先など、さまざまな環境のパソコンや携帯電話(主にスマートフォン)やタブレット端末からでもデータを操作することができる。

「東日本大震災」
日本国内の被害は、地震そのものによる被害に加えて津波・火災・液状化現象・福島第一原子力発電所事故・大規模停電など多岐に渡り、1都9県が災害救助法の適用を受けた。警察庁発表による死者及び届出があった行方不明者の数は合わせて約1万9千人で、阪神・淡路大震災の6,437人を大きく上回る第二次世界大戦後最悪の自然災害となった。津波と原発事故の影響を連続して受けた福島県浜通りなどを中心に複合災害の状況を呈し、避難区域においては救助・捜索活動が中止される事態も発生した。この地震によって地球の自転がわずかに速くなり、一日の長さが100万分の1.8秒短くなった。

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