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2012年5月25日金曜日

医療事故と医事紛争―大学病院での対策の現状―

医療事故と医事紛争―大学病院での対策の現状―

東海大学医学部附属病院副院長

医療監査部長、消化器外科教授

安田聖栄

医療安全対策はこの10数年で大きく進歩した。1999年の横浜市立大学病院での手術患者取り違え医療過誤、そして同年に発行された米国医学研究所(Institute of Medicine)の報告書「To Err is Human」以降、医療事故の頻度が高いことは共通認識となった。全国の病院ではインシデント/アクシデントレポート提出制度等により、個々の事例から医療事故防止策を検討することは一般的となった。当院では年間約5000件ものレポートが提出されている。中には一つ間違えば重大医療事故に発展しかねない事例もあり、院内医療安全活動の継続・発展は必須である。

診療の各現場は多忙である。診療の高度・複雑化、在院日数の短縮、制限されたスタッフ数、それと未完成の医療安全体制のもと、数多くの診療を行わざるをえない。この様な状況下で有害事象が発生することになるが、有害事象発生時は、たとえ過誤が明らかでない場合であっても、共感的態度でコミュニケーションを維持することを、各現場に定着させることが課題の一つである。

 当院では医療安全・医事紛争対応の専門部署として「医療監査部」(事務8名、看護師1名、薬剤師1名が専従)がある。重大医療事故発生時は、院内「事例調査会」で当事者以外の第三者を含め、事実関係の詳細な調査を実施している。その結果「過誤あり」の場合は謝罪し、患者さん・ご家族のご理解が得られるよう努めている。しかし「過誤なし」の場合でご理解が得られない場合は、やむなく訴訟に発展する事例も生じる。

 10数年前には「医療安全」が学生教育で取り上げられることはなかった。最近は卒前教育の医学教育モデル・コア・カリキュラムで「医療安全」は基本項目でとりあげられている。学生教育の内容を充実させることも新しい課題となった。

 現行の医療安全対策では、医師は単なる医療の提供者(provider)の位置づけになる危惧がある。医師は長い期間の修練によって培われてきた威厳(dignity)があり、「医は仁術」の精神は保ちたい。今後は医療の当事者として積極的に社会に働きかけることが必要である。

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