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2012年5月9日水曜日

学会の動き(神奈川県内科医学会の動向)神内医ニュース68号

学会の動き(神奈川県内科医学会の動向)神内医ニュース68号 学術1部会部会長 岡 正直

 神奈川県内科医学会学術1部会が企画担当している講演会は、定時総会時学術講演会、臨床医学研修講座、秋季学術大会、新年学術大会そして集談会の5つです。
【平成24年新年学術大会報告】
 平成24年新年学術大会が、2012年1月19日(木)18時45分から21時まで、横浜駅西口前の横浜ベイシェラトン&タワーズ5階「日輪」にて開催されました。テーマは「喘息死ゼロへの挑戦」です。
 呼吸器疾患対策委員会副委員長の小野容明先生が座長をされた基調講演「患者吸入指導のコツと吸入デバイス操作法のピットホール」は、東濃中央クリニック院長 大林浩幸先生にお話しいただきました。また、呼吸器疾患対策委員会委員長の西川正憲先生が座長をされた特別講演「喘息治療のup to date」は、杏林大学呼吸器内科主任教授 滝澤始先生にお話しいただきました。
以下に講演の簡単な内容を記します。
 講演1「患者吸入指導のコツと吸入デバイス操作のピットホール」
 気管支喘息治療において、吸入ステロイド薬は第1選択薬であり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)では、長時間作用性の抗コリン薬やβ2刺激薬の吸入が、治療の主軸となっている。期待した臨床効果を得るには、薬剤が気道の炎症部位に有効に吸入送達される必要がある。しかし、吸入時に吸入器具(デバイス)の様々な誤操作(ピットホール)が生じ、薬剤を吸えないことがしばしばある。それが患者のアドヒアランスを損なう原因にもなっている。日常診療で生じる“ピットホール”の原因を解説し、“ピットホール”の実例を示し、患者にとって最良のデバイスを探す考え方や、短時間で行える効率的な吸入指導のやり方も考察した。さらに、岐阜県の東濃喘息対策委員会での認定吸入指導薬剤師制度設置の試みも紹介した。
 講演2「気管支喘息の治療up to date」
 気管支喘息はわが国で小児の5-6%成人の約3%と推定されるcommon diseaseである。かつて気道閉塞発作を繰り返す機能的疾患と思われていたが、非特異的気道過敏性が最も重要な呼吸生理学的特長であることが明らかになり、アレルギー性気道炎症の存在が重視されるようになった。近年では気道リモデリングや末梢気道病変も重視されてきている。
 以上の認識に伴い副腎皮質ステロイド吸入薬が登場した。最も強力な抗炎症作用があり、アレルギー性気道炎症や非特異的気道過敏性を著明に改善する。各国でその使用が増えるに従い喘息死が減少してきた。現在厚労省は関連諸団体と協力し「喘息死ゼロ作戦」を展開している。
 喘息有症率増加、喘息死高齢化、難治性喘息例など残された課題は多い。最近、喫煙、高齢者、肥満、アスピリン不耐性などの重症化因子や、気道リモデリング、末梢気道病変に加え、好中球や気道平滑筋細胞の重要性が注目されている。
 近未来には、吸入ステロイドを主役としつつも、アレルギー型重症例でのヒト化抗IgE抗体製剤のような個別化治療に進むであろう。またサイトカインを標的とした生物学的製剤や、気道リモデリング抑制薬の開発も進行中である。アレルギー疾患の発症自体を予防する免疫療法の進歩が期待されている。
 新年学術大会は2つの講演が互いに関係する分野の話となるよう企画され、テーマの内容について深く掘り下げた理解が得られるまたとない絶好のチャンスです。
【第75回集談会報告】
 第75回集談会が2012年2月18日(土)15時から18時30分まで小田急本線本厚木駅北口より徒歩5分のレンブラントホテル厚木(もとロワジールホテル)にて第5地区厚木内科医会の主管で開催されました。33題の一般演題の発表が3つの会場で並行して(1会場はポスター展示で)行われ、活発なディスカッションが持たれました。一般演題と特別講演の進行と並行して、ポスター会場にて頸動脈エコー、血圧脈波検査、骨塩定量も行われました。休憩コーナーではコーヒーやスナックもふるまわれました。17時30分からの特別講演は「腎障害を伴う高血圧治療」を埼玉医科大学腎臓内科教授の鈴木洋通先生にお話しいただきました。以下に講演の簡単な内容を記します。
 慢性腎臓病における血管病の進展は、血圧、容量負荷、RA系の亢進だけでなく、カルシウム・リン代謝異常による血管の石灰化や血管内皮障害・酸化ストレス・高血糖・脂質異常が複合して血管系の変化を起こし、収縮期血圧の上昇・冠血流低下・左室肥大から心血管障害となり死亡に至るという流れである。
 腎障害者は昼間立位をとっているときは腎血流の低下によりナトリウム貯留がすすみ血圧も上昇するが、就寝し臥位をとることによって腎血流の上昇とナトリウム排泄が増え血圧も低下傾向となる。よって腎障害者は夜間頻尿を訴えることが多いのである。また、腎障害者は早朝の高血圧を示すことが多いのも特徴的である。高血圧は腎障害を悪化させるため、血圧が高い症例では、降圧効果の強いCCBが第一選択となる。
 日本で一番多いIgA腎症では、血圧を厳格に管理することによって腎機能低下を防ぐことができる。
 早朝の血圧のコントロールは重要な意味をもつ。早朝血圧を下げることにより心機能の改善が期待できる。早朝の収縮期血圧が130 より高いとGFRの悪化がみられる。外来血圧はあてにならないことが多く、家庭血圧測定の重要さが注目されている。糖尿病者では朝の収縮期血圧が130強で腎機能低下をきたす。
 高血圧によって若年者の腎機能低下は早く進むが、高齢者の場合はゆっくりであるため、高齢者の収縮期血圧のコントロールは140程度でよいのではないか。
 最近心臓腎臓の同時不全例が増加している。心機能の悪い人は120/75のより低い血圧コントロールにしたほうが、心機能改善効果がみられるが、心腎不全により血圧がすでに低下している場合は治療が難しい。
 慢性腎臓病(CKD)Stage4,5の人はRA系の降圧薬を半量にすること。蛋白尿が多い場合、ACEIにARBの追加処方は有効である。ARBは腎機能の改善や腎でのインスリン代謝改善(糖尿病の発症抑制)などの働きを介して、心血管病変を減少させていると考えられる。
 心血管の状態を知るためには、血圧測定のみならず、腎機能・尿蛋白・貧血・カルシウムリン代謝・糖代謝などの情報にも注意して診療することが重要である。
 豊富な臨床データの分析を交えながら、明日からの日常診療に役立つ情報をお示しいただきました。
 18時35分からの懇親会では厚木内科医会幹事の今岡千栄美先生による素晴らしいオペラ歌唱に深い感銘を受け、引き続きハーモニカの聖地と言われる厚木ならではの多彩なハーモニカにより編成されたオーケストラによる本格的な楽曲の演奏に圧倒されつつ、次回の担当の第1地区横浜内科学会副会長小野容明先生の挨拶もあり、盛会のうちに終了いたしました。
【平成24年度定時総会時学術講演会報告】
 平成24年度定時総会が、平成24年5月19日(土)午後に神奈川県総合医療会館にて開催され、引き続き16時30分より定時総会時学術講演会が行われました。
 従来、定時総会では各事業委員会の活動報告や2月の集談会での優秀演題2題の発表を行い、その後の学術講演会では最新の医療に関する特別講演を拝聴していました。その内容が極めて充実しているために、長時間の拘束時間が参加者の負担であったことも事実です。そこで今回の定時総会時学術講演会からは、2つの大きな変更が行われました。
 第1点は、今期より学術Ⅱの部会の事業委員会から「禁煙分煙推進委員会」と「ジェネリック問題対策委員会」を分離し、新設の「在宅医療委員会」とともに社会公益部会の事業委員会として、社会公益部会の活動報告を秋季学術大会に移動し、また集談会の優秀演題の発表も秋季学術大会に移動することにより、全体の時間の短縮を図りました。
 第2点は、総会および総会時講演会の企画運営に共催メーカーの関与をなくし、神奈川県内科医学会単独による開催としたことです。これによって、共催メーカーの利害に配慮することなく、会員の本当に聞きたい講演テーマを自由に設定できるようになりました。今回のテーマは「医事紛争に立ち向かう」です。
 学術Ⅱ部会の各事業委員会(糖尿病、肝炎、認知症、高血圧腎疾患、呼吸器疾患)の委員長による活動報告(16:45-17:45)のあと、「医事紛争に立ち向かう」ための基調講演「医事紛争の現状と防止策」(18:00-18:40)が、神奈川県内科医学会副会長の高木敦司先生の座長、平沼髙明法律事務所の平沼髙明先生の講演により行われました。以下に講演の簡単な内容を記します。
 
 基調講演のあとシンポジウム(18:40-19:20)が行われ、大病院の立場と開業医の立場からの二つのご講演をいただきました。
 まず東海大学医学部外科学系消化器外科教授/東海大学医学部付属病院医療監査部長の安田聖栄先生より「医療事故と医事紛争:大学病院での対策の現状」のご講演をいただきました。以下に講演の簡単な内容を記します。
 
 次に神奈川県内科医学会幹事/神奈川県医師会医事紛争特別委員会委員の正山堯先生より「開業医における医療事故の予防と事故発生時の対処法」のご講演をいただきました。以下に講演の簡単な内容を記します。
 
 2つの講演のあと合同討論(19:20-20:00)がコーディネータの高木敦司先生と演者の3先生を交えて活発に行われました。
 日々の診療行為のなかで決しておろそかにできない重要なポイントが数多く示され、恐ろしくもありますが、きわめて有用な講演会であったと思います。
【第37回臨床医学研修講座予告】
 第37回臨床医学研修講座が2012年10月20日(土)に横浜市立大学医学部市民総合医療センター(横浜市営地下鉄坂東橋駅最寄)にて横浜市立大学と横浜内科学会の主管で開催される予定です。当講座は大学の進んだ医療を開業医が学び、かつ大学の先生方との懇親の機会を持つために行われています。多くの先生方のご参加をお願い申し上げます。
【平成24年度秋季学術大会予告】
 平成24年度秋季学術大会が2012年11月17日(土)15時より、JR川崎駅前の「川崎日航ホテル」にて第2地区川崎市内科医会の主管で開催される予定です。以前この会は横浜市内で開催されておりましたが、横浜以外の県内各地域で開催したいとの声を受けて、2010年より持ち回りで県内各地で開催することになりました。また、今回より講演に先立って、社会公益部会の事業委員会報告と集談会の優秀演題の発表も行われることになっています。
 学術Ⅰ委員会は平成22年度まで部会長をされた伊藤正吾先生の後を引き継ぎ、平成23年度より新たな体制で活動を開始いたしました。平成24年度も中佳一会長のご指導のもと、今までの長い歴史のある講演会に新たな変更や発展を加えながら、5つの基本講演会を開催していきたいと思います。今後とも、神奈川県内科医学会本体事業である学術1部会の講演会開催にご協力とご参加をお願い申し上げます。

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