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2017年4月25日火曜日

薬物性肝障害

薬物性肝障害    岡 正直

【はじめに】
 薬物性肝障害(drug induced liver injury: DILI)は薬物自体または薬物の代謝産物が原因となって引き起こされる肝臓の異常である。薬物の多くは肝臓で代謝を受けるため、この疾患について常に注意しながら診療する必要がある。最悪の場合、劇症化して死に至る場合もある。
 近年、新しい薬が数多く、しかも目まぐるしく登場し、それらの薬剤の肝臓への影響についてもよくわからないことが多いと感じている。常に新しい副作用情報に気を配ることを怠ってはならない。表1に最近の薬物性肝障害例の起因薬について示した。注目すべきことは健康食品や漢方薬に起因する症例が多いことである。健康食品や漢方薬によって肝障害が起きうるという意識が患者側に乏しく、それらの服用について申告しないことも多いため、最初の問診の段階での注意深い聴取が重要となる。
(表1)                   (図1)

 図1に示すように、薬物が投与されてから40%が1~2週間以内に肝障害が発生している。60%は1か月以内であるが、3か月から1年かかって発症する症例も少なからずあるため、十分過去に遡っての服薬歴の確認が必要である。「お薬手帳」などをぜひ活用したい。繰り返しになるが、「お薬手帳」に記載されていない健康食品などの使用についても確認を怠ってはならない。

【DILIの分類】
 DILIの原因による分類としては、「中毒性」と「特異体質性」と「特殊型」に分けられる。(表2)
 「中毒性」の肝障害においては、薬物自体またはその代謝物が肝臓毒性を持っており、用量依存性で予測可能な場合が多い。
 「特異体質性」はさらに「アレルギー性特異体質」と「代謝性特異体質」によるものに分けられる。「アレルギー性」の場合、薬物自体や中間代謝産物がハプテンとなり担体蛋白と結合して抗原性を獲得し、T細胞依存性に肝細胞障害をきたすものである。「代謝性」の場合、薬物代謝関連酵素の遺伝的素因などに起因する特殊な個人差によって生じるものである。「特異体質性」は一般に用量依存性ではなく、発症の予測は困難なことが多い。DILIの多くは「アレルギー性特異体質」によって起こると考えられる。
 「特殊型」として腫瘍形成や脂肪化をきたすものがある。経口避妊薬や蛋白同化ホルモンなどの長期服用による肝腫瘍や、ある種の薬物による脂肪肝や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)発症である。
  (表2)


 DILIの肝障害のタイプによる分類としては、「肝細胞障害型」と「胆汁うっ滞型」と「混合型」に分けられる。「肝細胞障害型」は60%、「胆汁うっ滞型」は20%、「混合型」は20%である。
 「肝細胞障害型」では、AST、ALTの上昇が主体でALPの上昇は軽度から中等度で基準値上限の2倍を超えない。一方「胆汁うっ滞型」では、AST、ALTの上昇は軽度で基準値上限の2倍を超えないが、ALPは基準値上限の2倍以上で?‐GTPも著明に高値を示し、ビリルビン値も早期より増加する。「混合型」は前2者の特徴を併せ持つもので、AST、ALT、ALPの基準値上限の2倍を超える上昇が見られるものである。

【DILIの症状】
 DILIには特徴的な臨床症状はない。無症状のまま、肝機能検査の異常が診断のきっかけになることが多い。「アレルギー性特異体質」による肝障害では、しばしば様々な皮疹(蕁麻疹、湿疹様、Stevens-Johnson症候群など)や発熱などのアレルギー反応に伴う症状を認めることもある。また、白血球増多や好酸球増多をみることもある。「中毒性」や「代謝性特異体質性」では特徴的な所見はない。
 「肝細胞障害型」ではAST、ALTの上昇が主体でALPの上昇は軽度ないし中等度だが、高度に障害されると、直接ビリルビン主体の上昇がみられる。「胆汁うっ滞型」では、胆汁うっ滞に伴って黄疸や皮膚掻痒感が出現することがある。AST、ALTの上昇は軽度であるが、ALPや?-GTPは著明な上昇を示す。間接ビリルビンの上昇も早期から認める。
 しばしば抗核抗体(ANA)、抗ミトコンドリア抗体(AMA)、抗平滑筋抗体(SMA)などの自己抗体が出現することがあり、自己免疫性肝炎(AIH)との鑑別が困難な場合もある。
 重篤な場合、倦怠感、食欲低下、嘔気、茶褐色尿や黄疸などが出現する。また肝不全に陥ったときは、肝性脳症、出血傾向、腹水貯留などの症状がみられる。血清アルブミンやコリンエステラーゼ値も低下する。詳しくは「肝不全」の章を参照のこと。このような事態になる前に、できるだけ早い段階で気づいて被疑薬の中止と適切な対応を行うことが重要である。

【DILIの診断】
 1993年の国際コンセンサス会議の診断基準に手を加えた、2004年の日本肝臓学会の診断基準を用いるとよい。これは、ALTとALPの値から肝障害のタイプを決定し、8つの項目のスコアリングにより診断を行うものである。この診断基準を用いて診断を行った結果、「可能性が高い」が87.3%、「可能性あり」以上が97.8%と感度は良好であった。図2に示すように、日本肝臓学会のホームページにマイクロソフトエクセルによるスコアリングソフトがあるので、ダウンロードして利用するとよい。

(図2)

図3はスコアリングソフトを起動した画面である。これを参照しながら診断について説明したいと思う。
  「ステップ1」としてALTとALPの値により「肝細胞障害型」と「胆汁うっ滞型あるいは混合型」の二つのタイプに分ける。Nを施設における正常上限値とし、ALT比=ALT/N(NはALTの正常上限値)、ALP比=ALP/N (NはALPの正常上限値)とすると、「肝細胞障害型」は「ALT>2NかつALP≦N」または「ALT比/ALP比≧5」となるもので、「胆汁うっ滞型」は「ALT≦NかつALP>2N」または「ALT比/ALP比≦2」となるもので、「混合型」は「ALT>2NかつALP>N」かつ「2<(ALT比/ALP比)<5」となるものである。煩雑のようだが、スコアリングソフトを用いれば、ALT、ALPそれぞれの実測値と正常上限値を入力するだけで、自動的に計算し判定が行われるので楽である。
 次に「ステップ2」として、タイプ別に8つの項目についてスコアリングを行う。スコアリングソフトを使用すると、当てはまる選択肢をクリックすれば、自動的に計算が行なわれる。

(図3)

(1)発症までの期間
  薬物投与前の発症は「関係なし」、発症までの経過が不明な場合は「記載不十分」と判断して、スコアリングの対象としない。投与中の発症か、投与中止後の発症かにより、aまたはbどちらかのスコアを使用する。肝細胞障害型の方が発症までの期間が短い傾向がある
(2)経過
 DILIの多くは原因薬物の中止により、速やかに肝障害が改善することが多い。ただし胆汁うっ滞型の場合は治癒に時間がかかる傾向がある。
(3)危険因子
 アルコール性肝障害の可能性についての検討が必要である。胆汁うっ滞型の場合、妊娠についても考慮すること。
(4)薬物以外の原因の有無
 「カテゴリー1」としてウイルス性肝炎(HAV,HBV,HCV)、胆道疾患、アルコール、ショック肝
 「カテゴリー2」としてサイトメガロウイルス、EBウイルス感染症
 ウイルス感染については、IgM-HA抗体、HBs抗原、HCV抗体、IgM-CMV抗体、IgM-EB-VCA抗体で判断する。
(5)過去の肝障害の報告
 疑われる薬物について、過去に肝障害についての報告があったか、薬物の添付文書に肝障害の記載があるかどうか。
(6)好酸球増多
 6%以上の増加をみる場合、アレルギー性特異体質性薬物性肝障害の可能性を示唆する。
(7)DLST(drug-induced lymphocyte stimulation test 薬物リンパ球刺激試験)
 陽性の場合、アレルギー性の機序が考えられるが、検査に用いた薬物の代謝産物に対するアレルギーが原因となっていることもあり、陰性だからといって否定できない。また免疫系を活性化する作用がある漢方薬では偽陽性となることも報告されている。この検査に対する保険の適応が無いことに注意すること。
(8)偶然の再投与が行われた時の反応
 あくまでも意図せず偶然に投与された場合についてのみ評価する。診断目的に再投与することは大変危険であり、決して行ってはならない。43%で重篤な有害事象が認められ、2.3%が死亡したと報告されている。
 「ステップ3」では、以上の8項目の総スコアにより、2点以下ではDILIの可能性は低く、3ー4点では可能性あり、5点以上では可能性が高いと診断される。診断に苦慮する場合や肝障害の程度が大きい場合は、速やかに肝臓専門医に相談することである。

【DILIの治療】
 基本的には原因薬物の同定を速やかに行い、早い段階でその薬物の投与を中止することが一番である。軽度の肝障害であれば、中止するだけで自然に改善する。安易な薬物の使用は肝障害をさらに悪化させることもあり、慎重であるべきである。
 ALTが300以上、総ビリルビン値が5以上など、中等度以上の肝細胞障害や黄疸がある場合は入院にて経過観察する。中等度以上の肝細胞障害型の場合、強力ネオミノファーゲンC(SNMC)の静注やウルソデオキシコール酸(UDCA)の経口投与を行う。中等度以上の胆汁うっ滞型の場合、胆汁の流出障害に伴う脂肪の吸収不良防止のため、低脂肪食にする。また総ビリルビン値10以上の遷延する黄疸例に対しては、脂溶性ビタミンの補充を行う。
 劇症肝炎や遅発性肝不全(LOHF)の原因としてDILIの頻度は高く10~15%を占めている。劇症肝炎やLOHFの死亡率は約60%と予後不良であり、プロトロンビン時間の著明な延長や意識障害の出現などこれらへの移行が危惧される症例では、最後の救命手段である肝移植の段取りを早めに開始しなければならない。

【おわりに】
 薬物代謝を行う重要な酵素にサイトクロームP450(CYP)がある。CYPの分子種の酵素活性は各民族また各個人により大きく異なっていることが分かってきた。酵素をつくる遺伝子に突然変異が起こると、酵素をつくる蛋白の組成が変わり酵素活性がなくなる。このような人が比較的多い場合、遺伝的多型があるという。薬物を代謝する活性がない人にその薬物を投与すると、酵素活性がある人に較べ数十倍から数百倍の濃度に上昇し、副作用が出現しやすくなると考えられる。以前はDILIの原因の多くはアレルギー性特異体質と考えられていたが、このような薬物代謝酵素の多型性による代謝性特異体質によると考えられる症例が増えている。薬物代謝には個体間差があることが明らかとなり、遺伝子多型とDILIの発症との関連性を検討することにより、今後オーダーメイド医療によって薬物の副作用を軽減することが可能になる展望が開けてきている。

【参考】
日本肝臓学会ウェブサイト(http://www.jsh.or.jp)
肝臓専門医テキスト 改訂第2版(2016 日本肝臓学会)
重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性肝障害(平成20年4月 厚生労働省)
薬物性肝障害の診断と治療 滝川一(日本内科学会雑誌104巻5号)
OSAKA UNIVERSITY肝炎診療マニュアル(2013 中外医学社)
内科診療実践マニュアル第2版(2016年11月 日本臨床内科医会)

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

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