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2013年10月15日火曜日

学会の動き(神奈川県内科医学会の動向)神内医ニュース71号

学会の動き(神奈川県内科医学会の動向)神内医ニュース71号 学術1部会部会長 岡 正直

 神奈川県内科医学会学術1部会が企画担当している講演会は、秋季学術大会の廃止に伴い、定時総会時学術講演会、臨床医学研修講座、新年学術講演会そして集談会の4つになりました。

【第38回臨床医学研修講座報告】
 第38回臨床医学研修講座は、平成25年9月21日(土)15時30分より川崎日航ホテル12階東の間にて第2地区川崎市内科医会の協力、聖マリアンナ医科大学の主管にて開催されました。川崎市内科医会副会長鶴谷孝先生の開会の辞に引き続き中佳一会長の挨拶の後、5つの講演が行われました。各ご講演の内容を簡単に紹介します。
 (1)総合診療内科准教授 國島広之先生「地域における感染症への対応-Up to date-」
 最近話題となった感染症として、マダニが媒介する重症熱性血小板減少症候群、鳥インフルエンザ(H7N9)、中東呼吸器症候群(MERSコロナウイルス)などがある。病院における感染症はMRSAである。なにより手指衛生の徹底が重要で、新規抗生剤や抗生剤以外の製剤も役に立つ。プロバイオティクスの使用もよい。高齢者施設における感染症は肺炎である。肺炎にならないためのアプローチとして口腔ケア、ACEI使用、食後すぐ横にならないこと、またワクチン接種(インフルエンザ、肺炎球菌)も有用である。他に感染性胃腸炎(ノロ)、疥癬、結核にも注意が必要である。診療所における感染症の予防には、手洗いベイスンを使わず流水での手洗い、インフルエンザ感染を避けるためには窓を開けての換気を行うこと。社会における感染症の予防として、建物の耐震化よりも免震化が重要である。水道の配管が破断してしまうと水が使えず衛生状態は悪化する。避難所での肺炎のリスクは栄養の偏り、水不足、口腔ケアができないこと、食後すぐ寝ることなどで高くなる。
 (2)消化器・肝臓内科准教授 山本博幸先生「明日からの診療に役立つ消化器疾患の実用化研究最前線」
 ヘリコバクタピロリ(Hp)と胃がんの話である。発癌には遺伝子変異の蓄積のみならずDNAのメチル化の蓄積も関与している。Hp除菌により胃炎や胃潰瘍の再発とともに発癌が抑制されることはよく知られているが、加齢とともに除菌による胃がん抑制効果は低下する。HpがDNAのメチル化を引き起こすため、発癌にブレーキをかけることができなくなるためである。DNAのメチル化は遺伝子変異より早い段階でおこっている。近年Hp除菌後の胃液を内視鏡検査の際に採取し発癌素地となる分子異常を見つけることができるようになり、「分子内視鏡」の時代となりつつある。結論として、Hp除菌は早ければ早いほどよく、除菌後のフォローアップも重要である。
 (3)呼吸器・感染症内科准教授 峯下昌道先生「肺気腫(COPD)の診断と治療」
 COPDガイドラインが改定された。COPDは全身性炎症性疾患である。主にタバコによる肺の慢性炎症から炎症性サイトカインが全身にまわり、全身の炎症を引き起こす。喘息の合併もある。「気腫合併肺線維症」では閉塞性変化がマスクされ、肺がんの合併も多いので注意する。急性増悪を起こしやすい人は病気の進行が早い。治療薬としてLAMA、LABA、吸入ステロイドが使用される。
 重症肺気腫の治療として、肺移植や肺容量減量術が行われていたが、手術侵襲が大きいことが問題であった。最近、気管内視鏡を用いて肺容量縮小を簡単に行う方法が開発されたので紹介する。ひとつは、気管内に"one-way valves"という呼気のみ通す弁を留置することにより、目的とする肺区域を脱気縮小する人工的無気肺である。もうひとつは、金属のコイルを気管内に挿入し、コイルが周囲の肺組織を巻き込むことにより肺容量を縮小する方法である。
 (4)呼吸器・感染症内科教授 宮澤輝臣先生「呼吸器疾患の気管支鏡を使用した治療」
 気管支内視鏡の進歩により、様々な治療が行えるようになった。症例のビデオを供覧しながら紹介する。気管内腫瘍の焼灼、食道気道瘻の閉鎖、食道がんの気管浸潤に伴うステントの挿入手技を供覧した。難治性喘息に対して、太くre-modelingした気道平滑筋をablationする"bronchial thermoplasty"も行っている。難治性喘息と思われていた、意識消失と呼吸停止を繰り返す若い女性の症例が、気管支内視鏡により実は"vocal cord dysfunction"であると診断された。これは、吸気時に開大するはずの声帯が発作性に内転することで呼吸困難となるものである。また、呼気に含まれる揮発性の物質を分析することにより、肺がんの診断が可能となる研究を進めているところである。
 (5)循環器内科教授 明石嘉浩先生「ストレス心筋症の診断」
 ストレス心筋症は別名たこつぼ心筋症とも呼び、強い精神的ストレスを受けた閉経後の女性に多く、心筋梗塞に似たST上昇、左室壁運動異常をきたし、胸痛、胸部圧迫感、呼吸困難を伴う。画像診断では、心基部は動いているが心尖部が動かず「たこつぼ」のような形になるのが典型例だが、非典型例もある。予後は考えられているほどよくなく、心破裂による死亡例も経験している。発症機序について諸説あるが、いまだ不明であり、予防や治療も確立していない。心電図により急性心筋梗塞と鑑別するには、aVRでのST低下があり、かつV1でのST上昇がない点に注目することである。
 最後に川崎内科医会副会長宮島真之先生の閉会の辞のあと、別室にて懇親会が行われ、盛会のうちに終了いたしました。

【秋季学術大会廃止】
 秋季学術大会は「高齢者医療」をテーマに開催してまいりましたが、今後廃止することで決定しました。秋は学会シーズンにあたり、日程調整・会場確保が困難であり、開催地区の会員の負担となること。当会の各事業委員会主催の講演会が活発に開催されているため、開催の意義が薄れていることが理由です。

【平成26年新年学術講演会予告】
 平成26年新年学術講演会が平成26年1月16日木曜日に横浜ベイシェラトンホテル&タワーズにて開催の予定です。今回は高血圧・腎疾患対策委員会の佐藤和義委員長の企画により、小田原の羽鳥信郎先生と聖マリアンナ医大の木村健二郎先生の2つの講演が予定されています。新年学術講演会は2つの講演が互いに関係する分野の話となるよう企画され、テーマの内容について深く掘り下げた理解が得られるまたとない絶好のチャンスです。

【第77回集談会予告】
 第77回集談会が平成26年2月15日土曜日15時より精養軒(武蔵小杉)にて川崎市内科医会主管にて開催の予定です。発表形式はすべてポスター形式とし、17時10分より特別講演「糖尿病と認知症(仮)」を千葉大学第2内科教授 横手幸太郎先生にお話いただいたあと、18時より意見交換会を行います。多くの先生方のご参加をお願い申し上げます。

【日本臨床内科医会総会予告】
 第31回日本臨床内科医会総会が平成26年4月13日(日)に東京商工会議所にて、神奈川県内科医学会の主管にて開催されます。10時から11時30分に総会が行われた後、ランチョンセミナー(11:45-12:45)の1「糖尿病の臨床研究と実地医家の役割」を横浜市大の寺内康夫教授に、2「慢性腎臓病診療と実地医家の役割」を聖マリアンナ医大の木村健二郎教授にお話いただきます。特別講演1(13:00-14:00)「平成26年診療報酬改定の核心と課題」を中央社会保険医療協議会委員 安達秀樹先生に、特別講演2(14:00-15:00)「新専門医制度について-総合診療専門医の新設-」を日本専門医制評価認定機構理事長・慶応義塾大学名誉教授 池田康夫先生にお話いただきます。その後8階東商スカイルームにて懇親会が行われる予定です。

【平成26年度定時総会時学術講演会予告】
 平成26年度定時総会は、平成26年5月17日(土)神奈川県総合医療会館7階講堂にて開催され、総会終了後学術講演会が行われます。テーマは「遺伝子診断」です。近年急速に進歩をとげた遺伝子診断技術により、将来的に乳がんのリスクが高いことが判明した米国人女優が予防的に乳房切除したという報道が賛否両論を巻き起こしたことは記憶に新しいところです。平成26年の定時総会時学術講演会では「遺伝子診断の功罪」について、東海大学医学部産婦人科 和泉俊一郎教授より最先端のご講演をお聞きする予定です。ご期待ください。

【おわりに】
  学術Ⅰ委員会は平成22年度まで部会長をされた伊藤正吾先生の後を引き継ぎ、平成23年度より新たな体制で活動を開始いたしました。平成25年も中佳一会長のご指導のもと、今までの長い歴史のある講演会に新たな変更や発展を加えながら、4つの基本講演会を開催することができたと思います。今後とも、神奈川県内科医学会本体事業である学術1部会の講演会開催にご協力とご参加をお願い申し上げます。

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