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2012年3月14日水曜日

神奈川県内科医学会学術1部会平成23年度事業総括

平成23年度事業総括 学術1部会 部会長 岡 正直
 神奈川県内科医学会学術1部会が企画担当している講演会は、定時総会時学術講演会、臨床医学研修講座、秋季学術大会、新年学術大会そして集談会の5つであり、平成23年度の講演会は何れも順調に開催されました。
【第80回定時総会時学術講演会報告】
 平成23年5月14日に神奈川県総合医療会館7階講堂にて開催された定時総会時学術講演会では、神奈川県内科医学会各事業委員会の活動につき各委員長から報告がありました。次に第4地区秦野伊勢原内科医会主催、ロワジールホテル厚木で開催された第74回集談会の優秀演題の発表者として永井医院・松丸克彦先生、かしわぎクリニック・柏木利幸先生(当日欠席)が表彰され、松丸先生より講演「非アルコール性脂肪性肝疾患におけるアディポネクチンと脂質代謝の検討」をいただきました。定時総会時学術講演会の内容は最新の医療に関することとされていますので、聖マリアンナ医科大学高血圧・腎臓内科教授・木村健二郎先生に特別講演「腎不全高齢者の管理と治療-高血圧と貧血の治療の実際を含めて-」をご講演いただきました。以下に講演内容の簡単な要約を記します。
 体格が小さく筋肉量が少ない人の場合、計算上のGFR(糸球体濾過量)の値より腎機能が低下している。したがって、高齢者はもともと腎不全状態であることが多い。高齢者は軽微なクレアチニン上昇であっても、大きく腎機能が低下している。脱水傾向のときには、ACEI/ARB(アンギオテンシン変換酵素阻害薬/アンギオテンシン受容体拮抗薬)や利尿薬を中止することが必要である。
 CKD(Chronic Kidney Disease 慢性腎臓病)の診断は以下のように行われる。すなわち「(1)GFRの値にかかわらず,腎障害を示唆する所見(検尿異常,画像異常,血液異常,病理所見など)が3 カ月以上存在すること。(2)GFR 60未満が3 カ月以上持続すること。」この片方または両方を満たす場合にCKD と診断される。GFRの低下に伴って末期腎不全や心血管疾患や脳卒中のリスクが増大するため、CKDのステージはGFRの数値によって規定されているのである。
 高血圧はCKDや心血管疾患や脳卒中を増悪させる最大の因子であるため、降圧治療は重要な意味をもつ。尿蛋白の減少は腎障害の進行を抑制するため、これも重要である。高齢者のCKDではまず140/90まで降圧し、できれば130/80をめざすようにする。ACEI/ARBは降圧に加
えて尿蛋白減少作用により腎保護作用があるため、第一選択とされているが、単独では降圧を達成することが難しいため、CCB(カルシウムチャネル拮抗薬)や利尿薬を併用する場合も多い。ただし利尿薬の併用は少量にとどめるべきである。ACEI/ARB とCCBの併用は降圧作用に優れるため心血管疾患の低減に効果がある。ACEI/ARB と利尿薬の併用は尿蛋白の低下により腎保護作用あるが、GFRの低下や低ナトリウム血症に注意する必要がある。ACEI/ARB とCCB と利尿薬の3者併用は、とくに高齢者において、脱水による急性腎障害に注意する必要があり、脱水をきたすような状況においては薬剤の中止をしなければならない。
 高齢者のCKDでは、腎硬化症や虚血性腎症のように、尿蛋白を伴わないがGFRの低下している病態がよくみられる。一般に尿蛋白が多いとCKDの進行は早く、少ないと遅いといわれている。ACEI/ARBの投与により、尿蛋白が多い病態ではCKD進行を抑制するが、少ない病態では
進行の抑制効果は少ない。CKDの治療において尿蛋白の有無は重要な意味を持つ。尿蛋白の状態によって選択する薬剤や降圧の目標血圧も変えていくべきである。現在CKDのステージはGFRの値によって1次元的に分けられているが、これに尿蛋白のパラメータを加えた2次元的な
「ヒートマップ」によりCKDの評価がされるべきであり、CKD診療ガイドラインもそのような方向で改訂が進んでいる。よって、尿蛋白陽性のCKDではACEI/ARBを第一選択薬剤とし、必要に応じてCCBや利尿薬を追加して130/80を降圧目標とする。一方、尿蛋白陰性のCKDでは必ずしもACEI/ARBは第一選択薬とする必要はなく、140/90を降圧目標とする。高齢者に対するACEI/ARBの投与には注意が必要で、利尿薬との併用の場合、水分や食事が摂れないような状態では薬剤を中止すること。
 貧血は高齢者においては非典型的な症状を示すことが多く注意が必要である。CKDにおける貧血(腎性貧血)は治療を要する。近年登場したESA(Erythropoietin-Stimulating Agent)は長時間作用型であり、外来診療で使いやすい。ヘモグロビン11 g以下になれば開始し、13 g以上で減薬または休薬する。CKDの病態にあっては、「心・腎・貧血関連」が知られており、心機能低下、腎機能低下、貧血の進行それぞれが、相互に悪影響を及ぼし合いながら悪化していく。したがって、貧血の治療は心血管障害やCKDの進行を抑制し生命予後の改善をもたらす。
 豊富な臨床治験データをお示しになりながら、それらの科学的な意義を実際の臨床の場面でどのように生かすかを、具体的な例を示しながら、ひとつひとつ丁寧に解き明かしていただきました。寸分のすきもない極めて充実した講演で、高齢者のCKDについての理解がさらに深まり、明日からの診療に役立つ内容だったと思います。
 講演会終了後1Fのレストランにて意見交換会を行いました。
【第36回臨床医学研修講座報告】
 第36回臨床医学研修講座が2011年9月10日(土)に平塚プレジールにて東海大学担当で開催されました。当講座は大学の進んだ医療を開業医が学ぶ機会を作る目的で始まったものです。今回も4人の演者より最新の知識を学ぶことができました。
1)「COPD(慢性閉塞性肺疾患)の現状と今後の対策」呼吸器内科 阿部 直先生
 COPDは可逆性の少ない進行性の気流制限を特徴とし、予防と治療が可能な疾患である。日本のCOPDの死亡率はこの30年間に約3倍に増加し、死因では第10位となった。米国ではすでに死亡率が第4位となり、全世界では2020年に社会的経済的負担の面でCOPDが第5位の疾患
となることが予想されている。日本におけるCOPDの有病率は70歳以上では17.4%と非常に高く、その90%が診断されていない。画像上は、胸部単純X線および胸部CTで気腫性病変が有意に認められる気腫型COPD(肺気腫病変有意型)と気腫性病変がないか微細に留まる非気腫型
COPD(末梢気道病変有意型)に分けられる。治療と管理は、重度に応じて、危険因子の除去、複数の気管支拡張薬、ステロイドの吸入、在宅酸素療法が主体となる。COPDの発症、重症化の防止のためには、個人の禁煙のみでなく、社会全体のたばこ消費量を低減することが重要である。
2)「骨髄異形成症候群の診断と治療 最近の進歩」血液内科 安藤 潔先生
 骨髄異形成症候群(MDS)は汎血球減少を3系統の骨髄血液細胞の形態異常を主徴とする疾患で、高齢者で発生頻度が増加する。我が国でも国民の高齢化とともに増加傾向にある。日常診療の中でも高齢者の原因不明の貧血では、MDSを鑑別疾患として考慮することが重要である。
一方、MDSに対する治療法は確立されたものがなく、依然として輸血などの保存的療法が中心であり、有効な治療法の開発が望まれている。最近国内でも使用することができるようになった5-アザシチジンは世界で初めて第Ⅲ相臨床試験で治療効果の認められた薬剤であり、今後MDSの治療薬として期待されている。さらに、レナリドマイドはMDSの一部の症例に有用性が認められている。
3)「パーキンソン病の新治療ガイドラインをめぐって」神経内科 吉井 文均先生
 パーキンソン病治療ガイドラインは2002年に初版が発表された。その後9年が経ち、この間にドパミンアゴニストとしてプラミペキソールとロピニロールが、カテコールー0 ーメチル基転移酵素(COMT)阻害薬としてエンタカポンが、新しい抗パーキンソン病治療薬としてゾニサミドの使用が可能になった。一方、ドパミンアゴニストの副作用として心臓弁膜症や突発的睡眠が注目され、その使用法については日本神経学会から「使用上の注意」も出された。近年、深部脳刺激療法(Deep Brain Stimulation:DBS)の長期的な効果も報告され、その有効性が広く認識されるようになってきた。また、睡眠・覚醒障害、うつ、アパシー、疲労、幻覚・妄想、認知症、自律神経症状などの非運動症状に対する治療の必要性も論議されるようになった。このような状況のなか、今年4月に9年ぶりに治療ガイドラインが改訂された。
4)「C型慢性肝炎の最新診断・治療」消化器内科 峯 徹哉先生
 C型慢性肝炎からの肝癌の撲滅にはインターフェロン治療が必須である。現在の世界的標準治療であるリバビリンとペグインターフェロン併用療法によりC型慢性肝炎の治癒率は飛躍的に向上した。最近ではIL28Bやcore遺伝子の変異を調べインターフェロン治療の効きやすさを治療前に予測することができる。今後まもなく導入される治療法にはプロテアーゼインヒビターとリバビリン、ペグインターフェロンの3者併用療法があり、その治療効果はさらにめざましいが、副作用について注意する点がある。これからの数年の間に、画期的な新薬が次々と登場することで、C型慢性肝炎はほぼ完治可能な疾患となることが期待されている。
【平成23年秋季学術大会報告】
 平成23年秋季学術大会が2011年11月19 日(土)16時より18時30分まで、京浜急行横須賀中央駅前の横須賀セントラルホテル4 階「ダイヤモンド」にて開催されました。
 秋季学術大会は高齢者医療に関する話題で企画されています。以前この会は横浜市内で開催されておりましたが、横浜以外の県内各地域で開催したいとの声を受けて、2010年より持ち回りで県内各地で開催することになりました。
 今回は横須賀内科医会の主管で「動脈硬化進展阻止を目指した高血圧・糖尿病治療戦略」のテーマのもと、神奈川県内科医学会副会長の沼田裕一先生が座長をされる講演1「最先端の降圧療法ー新ガイドラインに向けてー」を、愛媛大学大学院病態情報内科学教授 檜垣實男先生にご講演いただきました。引き続き横須賀内科医会幹事の工藤澄彦先生が座長をされる講演2「2型糖尿病の外来診療最前線」を、順天堂大学大学院(文部科学省事業)スポートロジーセンターセンター長 河盛隆造先生にご講演いただきました。以下に講演の簡単な内容を記します。
 講演1「最先端の降圧療法ー新ガイドラインに向けてー」
 わが国の高血圧患者は増加しており、4000万人を超えていると推定される。これは肥満者の増加と重なっており、日本の高血圧は主として肥満により発症していると考えられる。その多くは病識がなく、治療されていない患者が多い。近年男性と高年女性の肥満傾向が目立つが、若年女性のやせ傾向や喫煙率の上昇も問題である。低栄養状態や喫煙する妊婦の胎児にはepigeneticな遺伝子変化がおこり、飢餓に適応できるよう、小さな心筋、小さな膵臓、小さな腎臓などをもって生まれ、これは生涯変わることはないため、飽食や高食塩食などの環境の中では容易に高血圧や糖尿病を発症することになるのである。肥満に加えて食塩の過剰摂取も重大な問題である。日本人は世界一の食塩摂取量(11g/日)であり、推奨される6g/日未満を大きく上回っている。減塩を達成するためには個人の努力も必要だが、社会全体での取り組みがなされる必要がある。高血圧の治療においてARB(アンギオテンシン受容体阻害薬)がCCB(カルシウムチャネル阻害薬)よりも選ばれるのは、降圧効果以外の代謝改善や臓器保護作用があるからである。しかし単剤では降圧が不十分となることが多く、CCBや利尿薬との併用が必要となる。その際、薬の数が増えると服薬アドヒアランスが低下するため、配合錠の使用による工夫も有用である。現在の高血圧治療ガイドラインにおける課題をいくつか指摘し、次の新しいガイドラインに盛り込まれるであろう内容を予想した。最後に新しい高血圧の治療法として、腎動脈アブレーションの紹介を行った。
 講演2「2型糖尿病の外来診療最前線」
 2型糖尿病の治療目標は脳卒中や心筋梗塞の発症予防にある。脳卒中や急性冠症候群で治療を受けた人の内、正常血糖応答の人は20%に過ぎず、背景には耐糖能異常による動脈硬化が大きく関与している。頸動脈IMT(内膜中膜複合体肥厚:intimal plus medial complex thickness)は動脈硬化の状態を簡便に知りうるよい検査方法である。糖尿病の人はIMTの肥厚が、そうでない人の3-4倍の速さで進行する。糖尿病以前の高インスリン血症(インスリン抵抗性)の人も同様な速さで動脈硬化が進行するので、早い段階での治療介入が重要である。現在の段階的な治療アプローチでは、脳卒中や心筋梗塞の発症予防を達成するのは困難である。高血糖が続くことによる酸化ストレスが膵β細胞の機能低下をおこし、その結果としてのインスリン分泌低下が、膵α細胞のインスリンレセプタを介するグルカゴン分泌不全をきたすため、糖尿病においては高血糖と同時に低血糖も起こしやすくなる。また過剰なインスリン分泌が膵α細胞のインスリンレセプタ異常をきたす。糖尿病においてはインスリンのみならずグルカゴンの分泌異常も伴っており、この二つのホルモン異常の相関が糖尿病の病態の理解には重要である。食後における肝臓の糖取り込みは大きな意味をもつ。食後に肝臓が糖を取り込まないことにより、食後高血糖がおこり、これが膵β細胞機能低下をおこし、そのため肝臓の糖取り込みが低下するという悪循環となり糖尿病が進行する。よって糖尿病の治療のためには、食後に門脈を介してブドウ糖とともにインスリンとグルカゴンがしっかり肝臓に流れ込むようにすることである。DPP4は悪玉脂肪細胞から分泌される悪玉アディポサイトカインであることが最近わかってきた。DPP4阻害薬の登場は糖尿病治療に新しい道を開いた。若い患者にDPP4阻害薬を使うことによって膵β細胞が復活する可能性があるが、高年齢ではあまり期待できない。よって早い段階から多くの薬剤を併用しながら治療を開始することが重要である。近年いくつもの糖尿病治療薬が登場したが、αGIは肝臓へのブドウ糖の流入を減らす効果があり、グリニドやDPP4阻害薬は門脈を介する肝臓への素早いインスリン供給を、メトホルミンやピオグリタゾンやDPP4阻害薬は肝臓でのインスリンの働きを高める効果がある。αGIとDPP4阻害薬の併用は好ましい組み合わせである。最近ヨーロッパでピオグリタゾンの膀胱癌発症のリスクが話題となったが、そもそも糖尿病であることが多くの癌の発癌リスクを高めており、あまり問題とすべきではないと思われる。
 当日は非常な悪天候にもかかわらず、多くの参加者による熱心な討議が行われ、明日からの臨床にとても役立つ講演会だったと思います。
【平成24年新年学術大会報告】
 平成24年新年学術大会が、2012年1月19日(木)18時45分から21時まで、横浜駅西口前の横浜ベイシェラトン&タワーズ5階「日輪」にて開催されました。テーマは「喘息死ゼロへの挑戦」です。
 呼吸器疾患対策委員会副委員長の小野容明先生が座長をされた基調講演「患者吸入指導のコツと吸入デバイス操作法のピットホール」は、東濃中央クリニック院長 大林浩幸先生にお話しいただきました。また、呼吸器疾患対策委員会委員長の西川正憲先生が座長をされた特別講演「喘息治療のup to date」は、杏林大学呼吸器内科主任教授 滝澤始先生にお話しいただきました。
以下に講演の簡単な内容を記します。
 講演1「患者吸入指導のコツと吸入デバイス操作のピットホール」
 気管支喘息治療において、吸入ステロイド薬は第1選択薬であり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)では、長時間作用性の抗コリン薬やβ2刺激薬の吸入が、治療の主軸となっている。期待した臨床効果を得るには、薬剤が気道の炎症部位に有効に吸入送達される必要がある。しかし、吸入時に吸入器具(デバイス)の様々な誤操作(ピットホール)が生じ、薬剤を吸えないことがしばしばある。それが患者のアドヒアランスを損なう原因にもなっている。日常診療で生じる“ピットホール”の原因を解説し、“ピットホール”の実例を示し、患者にとって最良のデバイスを探す考え方や、短時間で行える効率的な吸入指導のやり方も考察した。さらに、岐阜県の東濃喘息対策委員会での認定
吸入指導薬剤師制度設置の試みも紹介した。
 講演2「気管支喘息の治療up to date」
 気管支喘息はわが国で小児の5-6%成人の約3%と推定されるcommon diseaseである。かつて気道閉塞発作を繰り返す機能的疾患と思われていたが、非特異的気道過敏性が最も重要な呼吸生理学的特長であることが明らかになり、アレルギー性気道炎症の存在が重視されるようになった。
近年では気道リモデリングや末梢気道病変も重視されてきている。
 以上の認識に伴い副腎皮質ステロイド吸入薬が登場した。最も強力な抗炎症作用があり、アレルギー性気道炎症や非特異的気道過敏性を著明に改善する。各国でその使用が増えるに従い喘息死が減少してきた。現在厚労省は関連諸団体と協力し「喘息死ゼロ作戦」を展開している。
 喘息有症率増加、喘息死高齢化、難治性喘息例など残された課題は多い。最近、喫煙、高齢者、肥満、アスピリン不耐性などの重症化因子や、気道リモデリング、末梢気道病変に加え、好中球や気道平滑筋細胞の重要性が注目されている。
 近未来には、吸入ステロイドを主役としつつも、アレルギー型重症例でのヒト化抗IgE抗体製剤のような個別化治療に進むであろう。またサイトカインを標的とした生物学的製剤や、気道リモデリング抑制薬の開発も進行中である。アレルギー疾患の発症自体を予防する免疫療法の進歩が期待されている。
 新年学術大会は2つの講演が互いに関係する分野の話となるよう企画され、テーマの内容について深く掘り下げた理解が得られるまたとない絶好のチャンスです。
【第75回集談会報告】
 第75回集談会が2012年2月18日(土)15時から18時30分まで小田急本線本厚木駅北口より徒歩5分のレンブラントホテル厚木(もとロワジールホテル)にて第5地区厚木内科医会の主管で開催されました。33題の一般演題の発表が3つの会場で並行して(1会場はポスター展示で)行われ、活発なディスカッションが持たれました。一般演題と特別講演の進行と並行して、ポスター会場にて頸動脈エコー、血圧脈波検査、骨塩定量も行われました。休憩コーナーではコーヒーやスナックもふるまわれました。17時30分からの特別講演は「腎障害を伴う高血圧治療」を埼玉医科大学腎臓内科教授の鈴木洋通先生にお話しいただきました。以下に講演の簡単な内容を記します。
 慢性腎臓病における血管病の進展は、血圧、容量負荷、RA系の亢進だけでなく、カルシウム・リン代謝異常による血管の石灰化や血管内皮障害・酸化ストレス・高血糖・脂質異常が複合して血管系の変化を起こし、収縮期血圧の上昇・冠血流低下・左室肥大から心血管障害となり死亡に至るという流れである。
 腎障害者は昼間立位をとっているときは腎血流の低下によりナトリウム貯留がすすみ血圧も上昇するが、就寝し臥位をとることによって腎血流の上昇とナトリウム排泄が増え血圧も低下傾向となる。よって腎障害者は夜間頻尿を訴えることが多いのである。また、腎障害者は早朝の高血圧を示すことが多いのも特徴的である。高血圧は腎障害を悪化させるため、血圧が高い症例では、降圧効果の強いCCBが第一選択となる。
 日本で一番多いIgA腎症では、血圧を厳格に管理することによって腎機能低下を防ぐことができる。
 早朝の血圧のコントロールは重要な意味をもつ。早朝血圧を下げることにより心機能の改善が期待できる。早朝の収縮期血圧が130 より高いとGFRの悪化がみられる。外来血圧はあてにならないことが多く、家庭血圧測定の重要さが注目されている。糖尿病者では朝の収縮期血圧が130強で腎機能低下をきたす。
 高血圧によって若年者の腎機能低下は早く進むが、高齢者の場合はゆっくりであるため、高齢者の収縮期血圧のコントロールは140程度でよいのではないか。
 最近心臓腎臓の同時不全例が増加している。心機能の悪い人は120/75のより低い血圧コントロールにしたほうが、心機能改善効果がみられるが、心腎不全により血圧がすでに低下している場合は治療が難しい。
 慢性腎臓病(CKD)Stage4,5の人はRA系の降圧薬を半量にすること。蛋白尿が多い場合、ACEIにARBの追加処方は有効である。ARBは腎機能の改善や腎でのインスリン代謝改善(糖尿病の発症抑制)などの働きを介して、心血管病変を減少させていると考えられる。
 心血管の状態を知るためには、血圧測定のみならず、腎機能・尿蛋白・貧血・カルシウムリン代謝・糖代謝などの情報にも注意して診療することが重要である。
 豊富な臨床データの分析を交えながら、明日からの日常診療に役立つ情報をお示しいただきました。
 18時35分からの懇親会では厚木内科医会幹事の今岡千栄美先生による素晴らしいオペラ歌唱に深い感銘を受け、引き続きハーモニカの聖地と言われる厚木ならではの多彩なハーモニカにより編成されたオーケストラによる本格的な楽曲の演奏に圧倒されつつ、次回の担当の第1地区横浜内科学会副会長小野容明先生の挨拶もあり、盛会のうちに終了いたしました。
 平成23年度は中 佳一会長のご指導のもと、今までの長い歴史のある講演会に新たな変更や発展を加えながら、内科医学会の5つの基本講演会を開催できたと思います。学術1委員会は平成22年度まで部会長をされた伊藤正吾先生の後を引き継ぎ、平成23年度より新たな体制で活動を開始いたしました。今後とも、神奈川県内科医学会本体事業である学術1部会の講演会開催にご協力とご参加をお願い申し上げます。

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