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2019年2月23日土曜日

新春学術講演会 2019.01.17

講演1「内科医が知るべき禁煙医療」禁煙推進委員会委員長 長谷 章
 日本の成人の主たる死因は高血圧と喫煙によるものである。平成16年に当委員会は「禁煙分煙推進委員会」として発足した。「禁煙指導マニュアル」「禁煙医療のための基礎知識」といった書籍を刊行し、神奈川新聞社とのセミナーの企画、平成19年に神奈川県知事に要望書を提出し、平成20年に全国に先駆けて神奈川県で受動喫煙防止条例の制定を実現した。今後、我が国でのオリンピック開催に向け、名称を「禁煙推進委員会」と改め、禁煙推進活動を全国に広げて行きたいと考えている。
 実は喫煙者の6~7割はタバコを止めたいと思っている。喫煙者は10年短命で、病気や障害で苦しむ期間は5年長い。喫煙は「ニコチン依存症」という病気であり、積極的な治療対象なのである。ニコチン依存には身体的依存と心理的依存がある。神経伝達物質の欠乏と認知の歪みを伴うことはうつ病に類似している。その治療法として、ニコチンパッチやニコチンガムを用いるニコチン置換療法やバレニクリン内服療法がある。これらと同時に動機づけ面接法を併せて行うことが有用である。副作用としての悪心嘔吐には漢方薬の「抑肝散陳皮半夏」が有効である。
 最近煙の出ない加熱式タバコが登場し、タバコ産業によって健康被害が少ないかのようなキャンペーンがなされているが、その根拠は希薄と言わざるを得ない。現状は、タバコ産業が加熱式タバコの有害性についてのデータ集めを、日本人をモルモットにして行っていると考えられる。加熱式タバコと言えども、有害物質を周囲に拡散させることは明らかであり、受動喫煙の観点から、公共の場で吸うことが許されないことは言うまでもない。

講演2「最新の心不全治療」日本医科大学武蔵小杉病院 内科・循環器内科 教授 佐藤直樹
 超高齢社会を迎え、心不全患者数は急増している一方、心不全という病気の認知はあまり進んでいない。平成30年に改訂された心不全診療ガイドラインにおけるポイントは以下の通りである。(1)心不全の定義を明確化し、一般向けの定義も記載した(2)心不全とそのリスクの進展のステージと治療目標を記載した(3)心不全を、左室駆出率(LVEF)が低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)と LVEFが保たれた心不全(HF with preserved EF;:HFpEF)に加え、LVEF40~49%をHF with mid-range EF(HFmrEF)に分類して記載し、HFpEF improved(または HF with recovered EF)についても記載した(4)心不全診断アルゴリズムを作成した(5)心不全進展のステージをふまえ心不全予防の項を設定した(6)心不全治療アルゴリズムを作成した(7)併存症の病態と治療の記載を充実させた(8)急性心不全の治療において時間経過と病態をふまえたフローチャートを作成した(9)重症心不全における補助人工心臓治療のアルゴリズムを作成した(10)緩和ケアの記載を充実させた。
 急性心不全の診療においては時間軸を念頭に初期対応を行うことが重要である。特にうっ血の評価がポイントである。なぜなら、うっ血により多臓器障害が進行するからである。3つのタイプ別に心不全治療を示す。
 呼吸困難を主とした「肺水腫」心不全では、低酸素状態となっているためBiPAP(Bilevel Positive Airway Pressure)を早く行うこと。また収縮期血圧110以上なら硝酸薬スプレーも有効である。全身うっ滞を主とした「むくみ」心不全では、利尿薬(フロセミド)の早い投与がよい。水利尿作用のあるトルバプタンの早い段階での併用も望ましい。低心拍出を主とした「だるさ」心不全では、強心薬(ドブタミン)を早く投与することである。
 心不全の緩和治療が癌の場合と異なる点は、心不全に対する治療自体が緩和ケアにつながることである。緩和ケアは終末期から始まるものではなく心不全が症候性となった早期の段階からAdvance Care Planning(ACP)を実施し、また多職種チームによる患者の身体的、心理的、精神的なニーズを頻回に評価することが重要である

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