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2016年5月30日月曜日

学会の動き(神内医ニュース第76号)

学会の動き(神内医ニュース第76号) 総務企画部会長 岡 正直

 神奈川県内科医学会総務企画部会が企画担当している講演会は、定時総会時学術講演会、臨床医学研修講座、新春学術講演会そして集談会の4つです。

【平成28年新春学術講演会報告】
 平成28年新春学術講演会が平成28年1月21日(木)午後7時30分~9時に、横浜ベイシェラトンホテル&タワーズにて禁煙・分煙推進委員会および呼吸器疾患対策委員会の担当(共催ファイザー株式会社)で開催されました。2つの講演内容を簡単にご紹介します。

 1.「高齢者の命を脅かすCOPDと肺炎~その予防戦略~」横浜市立大学医学部呼吸器内科教授 金子猛先生
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の認知度は低く、国民の30%しか名前を知らない一方、COPDによる死亡は増加の一途をたどっている。40歳以上の成人のうち530万人以上が罹患していると考えられるが、そのほとんどは診断されていない。煙草の煙などの汚れた空気を吸引し続けることによっておこる肺の慢性炎症性疾患であり、主に末梢気道に病変が存在するため、CT画像では変化を見つけにくく、酸素飽和度もあまり低下しない。スパイロメトリーは早期から異常となり診断に有用である。COPDの治療では日本呼吸器学会のガイドラインにあるとおり、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)の吸入を主体に用い、喘息合併COPD例には吸入ステロイド(ICS)も加えるとよい。
 肺炎は国内死亡原因疾患の第3位であり、その95%以上を高齢者が占める。市中肺炎の40%は肺炎球菌が原因菌であり、国により定期接種化された多糖体ワクチン(PPV23)の接種により、肺炎球菌性肺炎の60%減、すべての肺炎の40%減が期待される。しかしPPV23はブースター効果がかからず、2年ほどで接種前のレベルに抗体価が低下しているため、これだけで肺炎予防は難しい。そこでブースター効果に優れた結合型ワクチン(PCV13)を希望者においては併用することが望ましい。PCV13を接種後6~12ヶ月後にPPV23を接種すると良好な効果が得られるという。

 2.「禁煙の動機づけ面接法」新中川病院内科・神経科 加濃正人先生
 人はつい今までと変わらない行動を選択しがちである。動機づけ面接法(motivational interviewing:MI)とはミラーとロルニックにより開発された対人援助理論である。受容的応答を旨とする「来談者中心的要素」と特定の変化に指向させる「目的志向的要素」を併せ持った面接のスタイルであり、この2つの要素をミックスさせると行動変容が起きやすいと考えられている。MIは禁煙外来のみならず、アルコール・薬物・ギャンブル依存やダイエット・運動・摂食障害やDV・家族関係などにも有効な手法である。MIを実際に行うにあたり「OARS」を繰り返しながら進めていくとよい。すなわち、開かれた質問(Open question):「はい」「いいえ」で答えられない質問。是認(Affirming):相手の強みや努力に言及する。聞き返し(Reflecting):相手の言葉をそのまま、または治療者の理解した内容で返す。要約(Summarizing):相手の言動や考えを、箇条書きのように並べていく。聞き返しには、言葉を明確化するための「単純な聞き返し」と、意味や感情を明確化するための「複雑な聞き返し」がある。これら単純と複雑の聞き返しを繰り返しながら状況を明確化していくのだが、相手の考えの正確な理解のためにはあえて「空気を読まない」ことも大事である。要約の段階では、それまでに相手が語った言葉や、聞き返しによって合意に達した言葉を箇条書きのように列挙して聞き返すことによって、複雑な問題を概観して明確化すると同時に堂々巡りや脱線の防止をすることができる。
 講演中に、前の講演者の金子猛教授を模擬患者として迎え、診察室でのMIの実際をリアルにご披露いただき、MIへの理解が深まったと感じました。神奈川県内科医学会の「今日からできるミニマム禁煙医療」の第2巻「禁煙の動機づけ面接法」を勉強して、ぜひ明日からの診療に役立てたいと思いました。

【第79回集談会報告】
 第79回神奈川県内科医学会集談会が平成28年2月13日(土)午後3時からおだわら総合医療福祉会館4階ホールにて第4地区小田原内科医会・足柄上内科医会担当(共催第一三共株式会社)にて開催されました。午後3時からの一般演題16題(発表5分・質疑応答2分)の発表のあと特別講演を2題聴講しました。その講演内容を簡単にご紹介します。

 1.「心房細動、静脈血栓症に対する抗凝固療法の最新の知見」京都大学大学院医学研究科循環器内科学助教 牧山武先生
 心房細動(af)患者にはCHADS2スコアの点数の倍以上の年率%で脳卒中発症リスクがある。1点以上なら抗凝固療法を考慮すべきである。従来使用されてきたワーファリンによるコントロールは不十分なことが多く、かえって脳卒中を起こしやすい状況を作っているともいえる。近年登場したNon-vitamin K antagonist anticoagulant(NOAC)は、血栓塞栓イベントも出血イベントもWより少なく、京大病院ではNOACを第一選択薬としている。85歳までは6割にNOACを、85歳超では減量して投与している。腎機能低下例(Ccr15~30)でもNOACを少々使っているが、Ccr15未満は禁忌である。
 肺血栓塞栓症や深部静脈塞栓症などのVenous thromboembolism(VTE)の診断にあたってはD-dimerの測定が役に立つ。VTEにもNOACは有効でエドキサバンを30%の症例に使用している。
 NOACの使い分けとして、有効性ならダビガトランの高容量、安全性ならエドキサバンやアピキサバン、利便性ならエドキサバンやリバーロキサバンを、そして経済性ならNOACでなくワーファリンを使うことになろう。

 2.「iPS細胞を用いた心筋再生医療実用化への現状」慶應義塾大学医学部循環器内科教授 福田恵一先生
 心機能が大きく損なわれた患者にとって、心筋再生医療は素晴らしい福音となる。演者らのグループは末梢血T細胞より作製したTiPS細胞を心筋細胞に分化させて大量に培養し、それを障害された心臓の心筋に効率よく移植・定着させる技術を開発した。この快挙は次のような各段階での難関を、工夫を凝らしながら根気よくひとつひとつ克服し達成されたものである。
 ①安全性の高いiPS細胞の作製、②大量に培養する方法、③効率のよい心筋細胞の作製、④細胞数増加、⑤純化精製、⑥効率的な移植法、である。
 多くの貴重な研究データを詳細に供覧しながら丁寧に解りやすくお話しいただきました。現在サルやブタなどでの動物実験で非常によい成果を収めており、ヒトでの臨床応用に向けてPMDAに申請中であるとのことでした。

 その後同会館4階ホワイエにて立食にて意見交換会が行われ、和やかな雰囲気の中で参加された先生方の間の交流を深めることができました。

【平成28年度定時総会時学術講演会報告】
 平成28年5月21日(土)横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ4F「清流1」にて、午後4時より評議員会が開催され、引き続き午後4時20分より同じ会場にて定時総会が行われました。山本晴章副会長の開会の挨拶と議事の採決のあと、東海大学・小田原内科医会/足柄上内科医会に感謝状が贈呈され、各地区からの推薦者に表彰状が贈呈されました。第79回集談会の優秀演題「過去6年間に当院で経験したツツガムシ病14例」の発表者の鈴木医院 鈴木哲先生と「拡張期僧房弁逆流をきっかけに早期手術を施行し心機能改善を得た、感染性心内膜炎による急性期大動脈弁逆流の一例」の発表者の小田原市立病院 柿崎良太先生に表彰状が贈呈されました。11の事業委員会の報告は質疑のみの受付とし、最後に沼田祐一副会長の閉会の挨拶にて定時総会を終了しました。
 午後5時20分より、同じ会場で定時総会時学術講演会(共催MSD株式会社)が行われました。松田隆秀副会長の開会の挨拶のあと、小野容明副会長が座長を務め、ひとつめの講演をお聞きしました。その講演内容を簡単にご紹介します。

 1.「高齢者の認知症とうつ病の正しい理解と適切なケア~転倒を起こさない不眠症治療への対応も含めて~」香川大学医学部精神神経医学講座教授 中村 祐 先生
 高齢者のうつ病の診断が難しいのは、一般的なうつの特徴が、加齢や疾病による活動の低下や高齢者特有の生活パターンと重なることが多いためである。高齢者にうつが多い原因として、経済力の低下や再婚率が低い(独居が多い)といった社会的な問題も見逃せない点である。高齢者うつと間違え易いのは、老化現象、不定愁訴、身体疾患(がん、心不全、COPD)、薬物、認知症、脳梗塞、脳腫瘍などである。症状としては不安焦燥、身体症状、不眠、食欲不振、体重減少が表れやすい。高齢者うつと認知症または無関心(apathy)との鑑別も重要である。認知症患者は不安が強いため、少量の抗うつ剤の併用も効果的である。
 高齢者の睡眠は浅く、リズムが乱れやすいため熟眠感が乏しい。原因として昼間の不活発、昼寝、夜間頻尿、身体疾患や内服薬による影響などが考えられる。ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系を問わず、超短時間型の睡眠薬はむしろ転倒を起こしやすい。薬によってふらつくため転倒するのではなく、夜間の中途覚醒が転倒の原因と思われる。最近登場したオレキシン受容体拮抗薬スポレキサントは、夜間の中途覚醒を減らすことにより転倒リスクを回避できる可能性がある。

 引き続き金森晃副会長が座長を務め、ふたつめの講演をお聞きしました。その講演内容を簡単にご紹介します。

 2.「地域の医療提供体制の現状と将来~とくに神奈川県について~」国際医療福祉大学医療福祉学部学部長 高橋 泰 先生
 日本全体で、0~64才の人口は年100万人ずつ減少し、65才以上の人口は年50万人ずつ増加していく。その結果、2050年には日本の高齢化率は39.6%に達する見込みである。神奈川県は、過去の地方からの人の流入により、若い人が多かったが、今後一斉に高齢者が増加するであろう。全国的にみると神奈川県は医療密度は低い方だが、高齢者施設はトップクラスの多さである。しかし、今後の高齢者の増加に施設数が追いつかない恐れがある。日本の人口減少のため、今後の医療需要は次第に減って行く。
 今後、日本人の意識の変容がおこり、一人当たりの医療・介護を減らす省エネ型の老い方・死に方を希望する人が増えてくるだろう。現にフランスで寝たきりの高齢者が少ないのは、食事が摂れず動けなくなったら、おむつ替え・食事介助を諦めてしまう結果、寝たきりの状態で生きている期間が短くなるためである。伝統的な日本人の精神風土にあっては、このような考え方に強い抵抗感があることは確かだが、フランスでの変化も比較的最近になってからなので、日本でも思ったより短期間に変わっていくかもしれない。そんな社会を迎える前に、高齢者一人一人が「どこまで生きたいか」という自分の意思をはっきり持つことが必要ではないだろうか。

 最後に出川寿一副会長の閉会の挨拶により定時総会時講演会を締めくくった後、午後7時30分より4階のすぐ隣の会場「清流2」での情報交換会に多くの先生方が参加され、美味しい料理と和やかな雰囲気の中、盛会のうちに終了いたしました。

【第41回臨床医学研修講座予告】
 第41回臨床医学研修講座が来る平成28年10月15日(土)午後3時より横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター病院6階会議室にて開催される予定です。担当は横浜市立大学と第1地区(横浜内科学会)、共催メーカーは第一三共株式会社で、呼吸器、腎・高血圧、脳・神経、糖尿病、消化器に関連したテーマで各30分ずつ5つのご講演が行われることになっています。ぜひ多くの先生方のご参加をお願い申し上げます。

【おわりに】
 平成27年度からは神奈川県内科医学会は宮川政昭新会長の下に新体制となり、今までの「学術Ⅰ部会」は「総務部会」と合流し「総務企画部会」として再スタートすることになりました。体制が変わっても今までの長い歴史のある講演会に新たな変更や発展を加えながら、4つの基本講演会を開催していきたいと思います。また神奈川県内科医学会が主管する第32回日本臨床内科医学会(平成30年9月)のための開催準備組織委員会を本格的に始動させました。この大きなイベントを成功させるためには、全会員のご支援・ご協力が不可欠です。今後とも、神奈川県内科医学会の講演会開催に、ご協力とご参加をお願い申し上げます。

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