ページ

2014年2月26日水曜日

2014年2月15日 第77回神奈川県内科医学会集談会特別講演 「超高齢者の糖尿病と認知症」

2014年2月15日 第77回神奈川県内科医学会集談会特別講演
「超高齢者の糖尿病と認知症」  
  千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学 横手幸太郎教授

 高齢者が自立できなる疾患の上位は、脳血管障害、衰弱、認知症、骨折・転倒などが占めており、糖尿病が原因となるものが多い。よって糖尿病の予防が高齢者の健康寿命を延ばすことにつながる。糖尿病性細小血管障害とともに大血管障害を予防するために強化治療行うと、インスリン分泌が多くなるため肥満がおこる難点がある。米国では肥満の外科治療が多く行われるが、体重が減少する前にすでに血糖の改善が見られる。その機序は不明である。まもなく登場するSGLT2(sodium-glucose transporter 2)阻害薬は、近位尿細管からのブドウ糖再吸収をブロックすることで血糖を低下させる。効き目はDPP4Iと同じぐらいか少し強い程度であり、若年の糖尿病患者に一定期間使うとよい。HbA1cは1%低下、体重減少、比較的低血糖を起こしにくいのがメリットだが、浸透圧利尿による脱水傾向、性器感染症、尿路感染症、SU剤との併用による低血糖、非肥満者での栄養不良やサルコペニアなどがデメリットである。
 糖尿病では癌や認知症が増えることがわかってきたが、血糖を下げれば発症を防げるかは不明である。低血糖により認知症が増えるが、一方認知症になると服薬の乱れや低血糖症状が判りにくいことなどから、低血糖が増えるということもあり、悪循環を形成しがちである。高血糖が認められるにもかかわらずHbA1c値が良い症例には注意が必要である。また低血糖は転倒の原因ともなる。高齢者糖尿病診療における問題点は、大血管障害により心肺機能やADLが低下している、身体的・精神的・家族関係などの社会的条件の個人差が大きい、高血糖に伴う脱水による口渇の自覚が乏しい、動悸・冷汗など低血糖症状が表れにくいことなどであり、高齢者の血糖コントロールはHbA1cでおおむね7以下とすべきであろう。血糖値の変動が大きいと認知症になりやすいので平均血糖変動幅(mean amplitude of glucose excursion:MAGE)に配慮した血糖管理が望ましい。
 2型糖尿病の病期に応じた治療を提案したい。食後だけ血糖上昇の見られる初期では、食後高血糖を抑えられるどんな薬剤でもかまわないが、高容量のSU剤は低血糖や肥満を起こすので注意する。インスリン基礎分泌が不足し空腹時血糖も上がっている進行期では、持効型インスリンを使用する。4-6単位程度の持効型インスリンは安全に使うことができる。さらに内服を追加しBOT(Basal-supported oral therapy)とするのもよい。低血糖リスクが小さいDPP4Iの使用は高齢者には良いと思う。
 常染色体劣性の遺伝性疾患であるWerner症候群は、思春期以降様々な老化徴候が出現する代表的な早老症候群であり、我が国での発症頻度は100万人に1~3名で日本人に多い。アキレス腱付着部の特徴的な石灰化像や両側白内障とともに、メタボ型2型糖尿病と同様の内臓脂肪の蓄積が起こることに注目し、糖尿病と同様の治療を行うことで本疾患の寿命を延ばすことに成功している。また、脂肪細胞にインスリンをつくる遺伝子を導入して、これを移植する治療も開発している。服薬や注射が困難な高齢者糖尿病の治療方法として期待される。健康長寿を実現するためには、高齢者における生活習慣病の包括的管理が重要であることを強調したい。

0 件のコメント: