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2013年12月9日月曜日

日臨内ニュース 2014年1月1日号 「万華鏡」

 厚生労働省は2011年10月「専門医の在り方に関する検討会」を立ち上げ専門医の質を高める議論を始めた。2013年4月には最終的な報告書を公表し、新たな専門医の仕組みを構築する方向に一歩を踏み出した。注目すべき点は、現在日本専門医制度評価・認定機構が認定している18の基本領域の専門医に、新たに19番目の基本領域の専門医として、総合的な診療能力を持つ「総合診療専門医」を加えたことである。
 去る1985年に旧厚生省により組織された「家庭医に関する懇談会」により提唱された「家庭医制度」は、日本医師会の「開業医療に対する国家統制」で「安価で質の悪い医療」の国民への押し付けではないかとの主張により日の目をみることはなかった。その後「家庭医」の名称は「総合医」「かかりつけ医」「プライマリケア医」「総合診療医」と転々とするが、具体的なイメージはつかみにくいものであった。というのも、わが国には国際標準の呼称である「家庭医療学(family medicine)」の専門家はほとんどおらず、これを教育しトレーニングする場も不足しているからである。わが国が多くの先進医療の範を仰いでいる米国も、家庭医療学に関しては後進国であり、一方先進国は、英国、オランダ、カナダ、オーストラリアなどである。また家庭医療学は独立した専門領域で、その習得には相応のトレーニングが必要である。
 フリーアクセスは日本の医療システムの長所と思われるが、カナダで家庭医療の専門研修を修了した日本では数少ない「専門医」である葛西龍樹氏はフリーアクセスの短所をあえて指摘する。フリーアクセスにより、よく分かる患者は自らの治療にふさわしい診療科を受診できるが、よく分からない患者は不適切な診療科を受診する可能性が高い。また多くの患者は病気の専門家ではないので、フリーアクセスにより次々と不適切な受診(大病院志向など)をしたり、その結果としてたらい回しされたりして、患者不満が高まり、医師は疲弊し、医療資源や医療費の無駄使いが積み重なり医療崩壊を招いているという。
 一方、家庭医がプライマリケア領域の疾患をワンストップで診療し、プライマリケア領域を超える部分について適切なゲートキーパ機能を発揮することによって、先述の家庭医療先進国では費用対効果の高い効率的な医療システムを実現しつつあり、何より国民の家庭医に対する満足度が高いということである。日本と同じくフリーアクセスのシステムを持つオーストラリアでは、家庭医についても患者は選択の自由があるが、よく訓練された家庭医を自然に利用するようになるという。また家庭医がゲートキーパとして機能することにより、各科専門医のもとには自分が診るべき患者のみが受診するようになり、高度な専門医療を行う施設や専門医の診療環境も大きく改善される結果となる。
 中央社会保険医療協議会(中医協)による外来医療見直しの大きなテーマのひとつに「かかりつけ医機能の強化」があげられており、今後出来高報酬によらない診療報酬体系の新設があるかもしれず、今後の動向から目が離せない。来たる平成26年4月13日に東京商工会議所にて第31回日本臨床内科医会総会が開催され、その特別講演で日本専門医評価・認定機構理事長 池田康夫先生より「総合診療専門医」についてのご講演をいただけることになっており、今から楽しみである。

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