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2010年11月7日日曜日

最新の肝臓病学 金沢大学付属病院消化器内科教授 金子周一先生講演より

 いままではHBe抗原が陰性化したB型肝炎患者は治癒と同等とみなされていたが、e抗原陰性化後にも肝炎の進行や再発は多く見られるため、6から12ヶ月毎にチェックを継続すべきである。最新のPCR法を用いたHBV-DNAの定量により、HBV量と肝硬変や肝癌の発症は相関することがわかった。B型肝炎ウイルスのジェノタイプA型(欧米型)が増えて、B型急性肝炎のあと慢性肝炎に移行する症例が増加している。B型慢性肝炎に対する抗ウイルス剤の使用は、中止が困難になることと耐性の出現が問題だが、耐性の生じにくいエンテカビルの登場により治療ガイドラインが整備されてきた。
 最新のPCR法によるHCV-RNA測定は感度と定量性もよい。HCV群別とHCV-RNA量に基づくペグインタフェロンとリバビリン併用療法が確立し、1型高ウイルス量でも50-60%、2型では80-90%治癒する時代となった。72週投与の工夫やインタフェロンβの導入、再治療ガイドラインの整備など治療の進歩とともに、患者遺伝子の解析によりインタフェロン治療効果の予測も可能になった。肝機能正常(ALT30未満)のC型肝炎患者は時間経過とともに肝病変の進展が見られるので、積極的に治療の対象とすべきである。
 国も遅ればせながら国民病としての肝炎対策に本腰を入れ始め、肝炎ウイルス検診の開始、各都道府県での肝炎診療体制の整備、かかりつけ医と専門医の連携、インタフェロン療法のみならずB型肝炎抗ウイルス療法への助成や身障者としての認定も開始された。もはや肝炎患者を漫然と診療することは決して許されない状況の変化が訪れている。
 肝癌の克服をめざして、造影超音波、DynamicCT、DynamicMRIによる診断能力の向上がみられ、初期肝癌に対するラジオ波治療の成績もよく、新たな分子標的薬(ソラフェニブ)による抗がん剤治療も期待されている。
 国民の3割に認めるまで急増している脂肪肝は新たな国民病と言える。とくにNASHはC型慢性肝炎と同様に肝硬変・肝癌に進展しうる病態である。また肥満者や糖尿病患者には肝癌が多発することも知られている。糖尿病や脂質異常症といった生活習慣病にはたす肝臓の役割に注目することが重要であると知った。(2010年10月10日第24回日本臨床内科医学会にて)

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