「CKDに克つための血圧管理とは」
横浜市立大学医学部循環器・腎臓内科学主任教授 田村功一先生
我が国に非常に多い慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)や高血圧や心血管病を、演者の教室では「心血管腎臓病」として一体的に捉えてアプローチしている。重症動脈硬化による足趾の壊死性病変や急性腎障害に対して行われるLDL吸着療法は血管内皮細胞の活性化を介して効果を発揮するため、正コレステロールの人でも効果的であり先進医療の対象の医療技術として認められている。
CKDとは、(1)アルブミン尿や血尿といった腎障害、(2)eGFR<60といった腎機能低下、(1)(2)いずれか、または両方が3か月以上続くものと定義される。末期腎不全者の総数は増加しているが、かつて多くを占めた慢性糸球体腎炎は減少傾向で、糖尿病性腎症や高血圧による腎硬化症が増加している。できれば自覚症状を伴わない微量アルブミン尿の段階で生活習慣病をしっかり治療することが望ましいが、実際には不可逆的な腎の線維化がおこり、GFRの低下が始まった段階から治療に入る場合が多く、十分な治療効果が得られないことが多い。CKDの重症度は血液検査(eGFR)と検尿(アルブミン尿)との組み合わせで評価する。
CKDの治療は(1)肥満やストレスの解消や禁煙・節酒といった「生活習慣の改善」、(2)減塩・水分摂取・蛋白制限などの「食事療法」、(3)血圧管理のための「薬物療法」を行う。血圧管理目標は、蛋白尿陽性あるいは糖尿病合併の場合130/80以下とする。ただし米国SPRINT研究で示されたように、収縮期血圧120未満の「厳格降圧群」では複合心血管病は減少したが、腎不全は減らなかったことをみると、脳心血管病とCKDでは降圧の意味合いが異なるようである。
CKDの血圧管理においては血圧の日内変動にも注目する必要がある。降圧の質を向上させるためにも診察室血圧以外も見ていくことが重要である。24時間自由行動下血圧測定(ambulatory blood pressure monitoring:ABPM)によれば、夜間血圧が下がらない(non-dipper)あるいは上昇する(riser)人がCKDでは多くみられる。食塩9.8gから4.4g/日の減塩により、収縮期マイナス10、拡張期マイナス4の降圧が得られるという。また早朝高血圧の人は降圧薬の就寝前服用のほうが腎障害改善効果が得られやすい。そこでCKDに克つための血圧管理としては(1)減塩、(2)少量の利尿薬、(3)時間医学的な介入、(4)長時間作用型の降圧薬により夜間の血圧を下げ、血圧の変動性を抑えることである。
演者らの最新の研究から、ATRAP(angiotensinⅡ receptor-associated protein)とCKDについての話題を提供したい。ATRAPはAT1受容体への結合蛋白質であり、脂肪組織や腎臓に多く発現している。CKDなどの腎障害により、腎臓におけるATRAPの発現が低下すると、ナトリウム再吸収チャネルが増えてナトリウムの再吸収が亢進し、高血圧がすすむことでCKDが増悪するという悪循環が起こっていると考えられる。したがってATRAPの活性化を図ることによってCKDの進行を抑制することを期待し、現在研究を進めているところである。
2017年5月29日月曜日
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