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2017年5月29日月曜日

神奈川県内科医学会平成29年定時総会時学術講演会 講演2「環境因性神経疾患(公害病・医原病)~医師による気づきの重要性~」

講演2「環境因性神経疾患(公害病・医原病)~医師による気づきの重要性~」
鈴鹿医療科学大学大学院医療科学研究科長 看護学部看護学科教授 葛原茂樹先生

 神経内科の診療においては、検査データよりも患者を直接見たり触ったりすることが役立つことが多い。本当は公害病であったり、医原病であったりした様々な神経疾患の正しい原因に迫るため医師による気づきがいかに重要かということについてお話ししたい。
 1950年代後半に熊本県水俣市を中心として視野狭窄や小脳失調をきたし、痙攣を起こして死に至る奇病が多発し、やがて水俣にとどまらず有明海沿岸全体に拡大する傾向が見られた。1940年に英国で報告されたメチル水銀への直接暴露によるハンター・ラッセル症候群によく似た症状だったが、原因物質の特定に時間がかかり、最終的にチッソ水俣工場の排水に起因する食物連鎖によるメチル水銀中毒と判明したが、工場責任者による隠ぺい工作や学者間での意見の対立などもあり、当時の厚生省による事実の認定が遅れ被害が拡大した。
 1955年頃、激しい下痢と腹痛、下肢の痺れ痛み麻痺、視力障害から失明に至り、痙攣を起こして死亡する疾患が報告され、亜急性脊髄視神経症(subacute myelo-optico-neuropathy:SMON)と命名された。1967~1968年頃全国で多発し、ウイルス感染症説がマスコミに流れたためパニックとなり、患者は不当な差別と偏見にさらされ、一家心中まで起きる事態となった。SMON患者は緑の舌、緑の尿、緑の便が特徴的で、これは整腸薬キノホルムと鉄のキレートと判明した。キノホルムの添付文書には「腸管から吸収されない」と書かれており、当時多くの外科医が手術前後の腸管内の殺菌のため大量のキノホルムを投与していた。大規模なカルテの調査により、キノホルムを多く投与された患者にSMONが発症していること、また実はキノホルムは腸管からよく吸収されることも分かり、SMONの原因はキノホルムによる神経障害であることが確定し、1970年にキノホルムの販売中止後SMONの発症は無くなった。この事件から薬剤誘発性の疾患は疫病と見分けがつきにくいという教訓を得るとともに、「健康被害救済制度」と「難病対策と研究班」の2つの制度が生まれるきっかけとなった。
 南九州、四国南部、沖縄と北海道、東北に見られるAdult T-cell leukemia(ATL)の原因ウイルスは、縄文人が保有していたと考えられているHuman T-lymphotropic virus(HTLV-1)である。ATLの分布と重なるように特徴的な神経疾患がみられる。慢性の脊髄の炎症により、進行性の歩行障害や膀胱直腸障害をきたす。その患者の髄液中にATL細胞が観察されたことより、ATLと共通の病原体HTLV-1が原因と考えられHTLV-1 associated myelopathy(HAM)と命名された。このウイルスは母乳を介して乳幼児期に感染し中年期になってから発症することが分かった。
 1980年代に高齢者に対して多くの「脳循環代謝改善薬」が発売され、多くの患者に投与された一時期があった。脳の代謝を活発にする薬理作用を持つとされ、脳梗塞や脳出血に伴う意欲低下、情緒障害を適応としていた。当時は痴呆に対する有効な治療法がないことから医療現場で広く使われていたが、一部の患者に肝臓の急性脂肪変性(Reye様症候群)を発症し、消化器症状から昏睡状態になり死亡する例がみられた。また「脳循環代謝改善薬」の多くは効果がないことがわかり、承認を取り消された。また1987年に、急速に進行する無動と筋強剛により数か月で寝たきり状態となる症例を経験した。片頭痛発作の予防薬であるカルシウム拮抗薬塩酸フルナリジンによる薬剤性パーキンソン病と判明した。
 中心静脈栄養を行う際にも、欠乏症や過剰症に注意する必要がある。ビタミンB1欠乏による部分的眼球運動障害、運動失調、記憶障害を伴うウェルニッケ脳症、マンガンイオン過剰によるパーキンソン様症状、易怒性、幻覚を伴うマンガン脳症、セレン欠乏症による心筋壊死、軟骨の変性、甲状腺機能低下とセレン過剰症による胃腸障害、末梢神経障害、爪の変形や脱毛などである。
 最近次々と発売される新薬や先進医療の副作用にも注意する必要がある。医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA)の報告書によく目を通しておくことである。
 気づきの能力を高めるためには、患者をよく見て、よく診て、数多くみる。そして何か変だと思ったら、情報を集める。同業者からの情報や文献により不足を補うようにすれば、知識が無ければ見逃すことも、しっかり気づくことができるようになるであろう。

神奈川県内科医学会平成29年定時総会時学術講演会 講演1「CKDに克つための血圧管理とは」

「CKDに克つための血圧管理とは」
横浜市立大学医学部循環器・腎臓内科学主任教授 田村功一先生

 我が国に非常に多い慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)や高血圧や心血管病を、演者の教室では「心血管腎臓病」として一体的に捉えてアプローチしている。重症動脈硬化による足趾の壊死性病変や急性腎障害に対して行われるLDL吸着療法は血管内皮細胞の活性化を介して効果を発揮するため、正コレステロールの人でも効果的であり先進医療の対象の医療技術として認められている。
 CKDとは、(1)アルブミン尿や血尿といった腎障害、(2)eGFR<60といった腎機能低下、(1)(2)いずれか、または両方が3か月以上続くものと定義される。末期腎不全者の総数は増加しているが、かつて多くを占めた慢性糸球体腎炎は減少傾向で、糖尿病性腎症や高血圧による腎硬化症が増加している。できれば自覚症状を伴わない微量アルブミン尿の段階で生活習慣病をしっかり治療することが望ましいが、実際には不可逆的な腎の線維化がおこり、GFRの低下が始まった段階から治療に入る場合が多く、十分な治療効果が得られないことが多い。CKDの重症度は血液検査(eGFR)と検尿(アルブミン尿)との組み合わせで評価する。
 CKDの治療は(1)肥満やストレスの解消や禁煙・節酒といった「生活習慣の改善」、(2)減塩・水分摂取・蛋白制限などの「食事療法」、(3)血圧管理のための「薬物療法」を行う。血圧管理目標は、蛋白尿陽性あるいは糖尿病合併の場合130/80以下とする。ただし米国SPRINT研究で示されたように、収縮期血圧120未満の「厳格降圧群」では複合心血管病は減少したが、腎不全は減らなかったことをみると、脳心血管病とCKDでは降圧の意味合いが異なるようである。
 CKDの血圧管理においては血圧の日内変動にも注目する必要がある。降圧の質を向上させるためにも診察室血圧以外も見ていくことが重要である。24時間自由行動下血圧測定(ambulatory blood pressure monitoring:ABPM)によれば、夜間血圧が下がらない(non-dipper)あるいは上昇する(riser)人がCKDでは多くみられる。食塩9.8gから4.4g/日の減塩により、収縮期マイナス10、拡張期マイナス4の降圧が得られるという。また早朝高血圧の人は降圧薬の就寝前服用のほうが腎障害改善効果が得られやすい。そこでCKDに克つための血圧管理としては(1)減塩、(2)少量の利尿薬、(3)時間医学的な介入、(4)長時間作用型の降圧薬により夜間の血圧を下げ、血圧の変動性を抑えることである。
 演者らの最新の研究から、ATRAP(angiotensinⅡ receptor-associated protein)とCKDについての話題を提供したい。ATRAPはAT1受容体への結合蛋白質であり、脂肪組織や腎臓に多く発現している。CKDなどの腎障害により、腎臓におけるATRAPの発現が低下すると、ナトリウム再吸収チャネルが増えてナトリウムの再吸収が亢進し、高血圧がすすむことでCKDが増悪するという悪循環が起こっていると考えられる。したがってATRAPの活性化を図ることによってCKDの進行を抑制することを期待し、現在研究を進めているところである。

学会の動き(神内医ニュース第78号)

学会の動き(神内医ニュース第78号) 総務企画部会長 岡 正直

 神奈川県内科医学会総務企画部会が企画担当している講演会は、定時総会時学術講演会、臨床医学研修講座、新春学術講演会そして集談会の4つです。
【平成29年新春学術講演会報告】
 平成29年新春学術講演会は平成29年1月19日(木)午後7時15分より横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ5階日輪にて肝炎対策委員会と医薬品評価検討委員会の担当で開催されました。宮川政昭会長の挨拶のあと中佳一名誉会長の特別発言として健康長寿社会を目指す委員会により行われたアンケート調査の結果についての報告がありました。肝炎対策委員会の岡正直委員長が座長を務め、講演1「これからのC型肝炎治療」を横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器内科教授(現在、秦野赤十字病院院長) 田中克明先生にご講演いただきました。以下にご講演内容を簡単に紹介いたします。
「これからのC型肝炎治療」横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器内科教授 田中克明先生
 Direct acting antivirals(DAAs)によりC型慢性肝炎は95%超治癒する時代となったが、最新の肝炎治療から洩れている人の掘り起こしが今後重要となるだろう。高齢者に対するDAAs治療は、70歳台であれば行い、80歳台では適応を考慮するが元気なら治療対象と考える。ただし75歳以上では有害事象による治療中止が多い傾向がある。シメプレビル(SMV)で失敗した人は耐性変異により、ダクラタスビル(DCV)+アスナプレビル(ASV)でも失敗するのでこの治療を避けること。DNAにはなくRNAのみに含まれるウラシルのアナログであるソホスブビル(SOF)は画期的なDAAであり、1型に対するSOF+レディパスビル(LDV)治療はほぼ100%の治癒を可能としているが、eGFR50未満の腎障害者には注意すること。オムビタスビル(OBT)+パリタプレビル(PTV)+リトナビル(r)は腎機能低下例でも使用できるが、ウイルスの耐性があると治療成績が低下する。また多くの薬剤と相互作用があり、投薬内容に細心の注意が必要である。特にカルシウム拮抗薬との併用は避けること。エルバスビル(EBV)+グラゾプレビル(GZR)も腎障害者に使え、97%の成績である。薬剤相互作用も比較的少ない方である。今後登場するDCV+ASV+ベクラブビル(BCV)も成績はよく、ゲノタイプ1aにも効果があるのが特徴である。さらにグレカプレビル(GLE)+ピブレンタスビル(PIB)はわずか8週間投与ですべてのゲノタイプに対して効果があり、それまでのDAAs治療の失敗例に対する画期的な治療薬となることが期待されている。今後の問題点として、非代償性肝硬変患者への治療や、DAAs治療失敗後の多重耐性症例への治療などが課題である。
 次に、医薬品評価検討委員会の湯浅章平委員長が座長を務め、講演2「医薬品で健康を害うことのない世界をつくるために」を3人の演者にご講演いただきました。以下にご講演内容を簡単に紹介いたします。
「医薬品で健康を害うことのない世界をつくるために」
{薬害の歴史に学ぶ}川崎北合同法律事務所弁護士 湯山 薫 先生
 医薬品による健康被害のうち、行政や企業の不適切な行為が関与したことにより、社会問題化したものを「薬害」という。
①サリドマイド事件:鎮静・睡眠薬として1950年代末~1960年代初め販売され、その催奇形性により手足や耳などに障害を持った被害児が生まれた。②スモン事件:1960年代後半、整腸剤キノホルムにより死亡、失明、歩行障害、自律神経失調を伴う亜急性脊髄視神経症(subacute myelo-optico-neuropathy:SMON)を引き起こした。③クロロキン事件:日本のみクロロキンの適応拡大による長期投与が行われ、1962年以降失明も含む網膜症が増加した。④薬害エイズ事件:1980年代に非加熱血液凝固因子製剤により、主に血友病患者に多数HIVを感染させた。⑤MMR(新三種混合)ワクチン事件:1989年導入のMMRワクチンにより無菌性髄膜炎などの被害が発生し後遺症を残した。⑥薬害肝炎事件:多数の人の血液を集めた、ウイルス混入リスクの高いプール血漿を用い、充分なウイルス不活化処理もなされなかったフィブリノゲン製剤や血液凝固第Ⅸ因子製剤により多数のC型肝炎ウイルス感染者を発生させた。
{薬害被害の体験}薬害C型肝炎被害者 浅倉美津子 様
 1988年次男を出産した際、出血が多かった。退院後倦怠感と発熱あり、内科に入院しC型慢性肝炎と診断されたが感染源は不明とされた。2002年東京と大阪で薬害肝炎訴訟が起こされたことを知り、カルテ開示により出産時にフィブリノゲン製剤を投与されていたことが判明した。勤務先から解雇されるのではないかと不安な日々を過ごしたが、2008年に薬害肝炎救済法が成立した後、勤務先を退職してつらいインターフェロン治療を受けた。幸い完治することができたが、現在も6か月毎に超音波検査や採血フォローアップを受けている。
{薬害事件の背景と対策}清和総合法律事務所弁護士 服部功志 先生
 薬害が起こる制度的問題として、①承認審査:安易な適応の拡大、危険性情報の過小評価、②市販後安全対策:正確な副作用情報が上がってこないため、厚労省の対応の遅れがあり、因果関係が明らかになる前に被害が拡大する。③利益相反問題:厚労省からメーカーへの天下り、などが挙げられる。外国にならい日本でも患者からの直接の被害情報が求められる。薬害の予防原則は「重大かつ不可逆的な被害が起こりうるときは、危ないと思った段階ですぐに手を打つ」ことである。
 薬害被害者の求めるものは、①薬害教育の充実、②薬害研究資料館の創設、③患者からの副作用報告制度の創設、④第三者監視組織の創設、である。
 医師に求められるものは、①最新の副作用情報の収集、②学会における最新知見の共有、③予防原則に立った副作用情報の収集(患者の話を注意深く聴く)④PMDAへの速やかな副作用報告、⑤適応外使用に対する慎重な姿勢、である。
 講演終了後、出川寿一副会長の閉会の挨拶の後、別室にて情報交換会が行われ盛会のうちに終了しました。
【第80回集談会報告】
 第80回集談会は平成29年2月18日(土)15時より、オークラフロンティアホテル海老名3階ラ・ローズにて、第5地区(海老名内科医会 濱田芳郎会長)の担当で開催されました。海老名内科医会大澤正享副会長の開会の辞に続いて、神奈川県内科医学会宮川政昭会長、海老名市医師会高橋裕一郎会長、海老名内科医会濱田芳郎会長の挨拶の後、一般演題21題の講演がありました。優秀演題は「高齢者のピロリ除菌は何歳まで行うべきか~年齢別による除菌後の内視鏡所見の改善度と組織学的変化の検討~」南毛利内科 抗加齢/人間ドックセンター 内山順造先生他と「当院における睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治験」海老名ハートクリニック 脳神経外科 矢部熹憲先生の2題に決定しました。その後、特別講演「腸内細菌と免疫」を慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室教授本田賢也先生にお話しいただきました。ご講演の内容を簡単にご紹介します。
 ヒトのゲノムは2~3万個程度であるのに対して、ヒトの腸内細菌は約1000種類でそのゲノムは50万~100万個に及んでおり、まさに人体最大の臓器とも言える。近年、次世代シークエンサーの進歩により腸内細菌についての研究が急速に進展している。人類は腸内細菌により大きく3つのタイプ(enterotype)に分類できることが分かった。蛋白質や脂肪分を多く摂る欧米人や中国人に多くみられるバクテロイデス属が多いタイプ、炭水化物や食物繊維の摂取が多いアジア中南米やアフリカの人に多くみられるプレボテラ属が多いタイプ、前2者の中間的な食事をしている日本人やスウェーデン人に多くみられるルミノコッカス属が多いタイプの3つである。疾患との関連において腸内細菌種の多様性が失われる構成異常(dysbiosis)がみられることが分かってきた。dysbiosisの原因としては(1)食事(高脂肪食、低繊維食、低栄養、単一食)や(2)長期入院・高齢者(同じものばかり、繊維少)や(3)抗生剤や(4)炎症がある。これらの内で最も悪影響を及ぼすのが炎症である。体内に炎症が起こると、炎症産物が腸管内に分泌される。健常時に多数を占めるバクテロイデスやファーミキューテスはこの炎症産物を利用できないが、一方プロテオバクテリアは利用することができるため優勢となる。これによってdysbiosisが生じ、免疫異常や腸管粘膜バリアの破壊がおこり、慢性炎症がさらに悪化するという悪循環に陥ることとなる。以前より乳酸菌・ビフィズス菌に代表されるprobioticsが利用されてきたが、これらの単独投与では腸内細菌の多様性を取り戻すことは難しく、臨床効果は乏しかった。近年便移植(fecal microbiota transplantation:FMT)がある種の疾患に劇的な効果を発揮したが、ドナーの便の状態によって臨床効果が左右されるため不確実性も大きい。やはり細菌種の機能を一つ一つ解析していくことが必要である。わが国は嫌気性菌の培養や後述のノトバイオート技術に秀でているため、世界をリードする研究環境に恵まれている。「ノトバイオート」とは、それがもっている微生物を完全に把握できている動物のことで、無菌動物に興味ある菌のみを投与することによって作られる。ノトバイオートを用いることによって、宿主の免疫系を活性化する菌種をいくつも発見することができた。この講演では制御性T細胞(Treg)について述べたいと思う。Foxp3遺伝子陽性のTregは炎症を抑制する働きを持っている。Foxp3遺伝子変異という疾患では、全身に炎症が多発し死に至る。また、Foxp3遺伝子陽性のTregは小腸や大腸に恒常的に多数存在しており、無菌動物ではTregが減ってしまうことからも腸内細菌によってTregが増やされていることがわかる。どの腸内細菌がTregを誘導しているのかを探るため、クロロホルム処理と2万倍希釈などの手法を用いて探求した結果、芽胞形成菌であるクロストリジウムの17菌株がTregを誘導する力が強いことが判明した。クロストリジウムは酪酸産生菌であり、酪酸自体にもFoxp3遺伝子陽性のTreg誘導作用が認められている。幼少時の抗生剤の使用が多いほど、dysbiosisを起こしやすいことも知られており、腸内細菌叢に悪影響を与えない抗生剤の開発や、抗生剤の使い方の見直しも重要と思われる。
 神奈川県内科医学会金森晃副会長の閉会の辞の後、別室にて意見交換会が持たれました。次期開催地区の第1地区横浜内科学会の小野容明会長の挨拶もあり、終始和やかな雰囲気のうちに終了いたしました。
【平成29年度定時総会時学術講演会報告】
 平成29年5月20日(土)に横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ4階「清流」にて、午後4時より評議員会、午後4時20分より定時総会が開催されました。小野副会長の開会と宮川会長の挨拶に続いて、評議員会で議長をされた原芳邦先生より評議員会の報告を受けた後、宮川会長に議長をお願いして予定された議事の採決を行いました。第41回臨床医学研修講座を担当した横浜市立大学と第80回集談会を担当した海老名内科医会に感謝状が贈呈され、引き続き各地区より推薦された先生方に表彰状が贈呈されました。第80回集談会優秀演題として「高齢者のピロリ除菌は何歳まで行うべきか 年齢別による除菌後の内視鏡所見の改善度と組織学的変化の検討」をご発表された南毛利内科抗加齢/人間ドックセンターの内山順三先生と「当院における睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治験」をご発表された海老名ハートクリニック脳神経外科の矢部熹憲先生のお二人が表彰されました。資料中の事業委員会報告についての質問はなく、出川副会長の閉会の挨拶の後の時間で、新しい事業委員会の「リウマチ・膠原病対策委員会」の委員長に就任された聖隷横浜病院リウマチ・膠原病センター長の山田秀裕先生のご挨拶を頂戴しました。
 午後5時20分より定時総会時学術講演会が行われました。宮川会長の開会の挨拶の後、高血圧・腎疾患対策委員会委員長佐藤和義先生が座長をされた講演1「CKDに克つための血圧管理とは」を横浜市立大学医学部循環器・腎臓内科学主任教授 田村功一先生にご講演をいただきました。ご講演の内容を簡単にご紹介します。
 我が国に非常に多い慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)や高血圧や心血管病を、演者の教室では「心血管腎臓病」として一体的に捉えてアプローチしている。重症動脈硬化による足趾の壊死性病変や急性腎障害に対して行われるLDL吸着療法は血管内皮細胞の活性化を介して効果を発揮するため、正コレステロールの人でも効果的であり先進医療の対象の医療技術として認められている。
 CKDとは、(1)アルブミン尿や血尿といった腎障害、(2)eGFR<60といった腎機能低下、(1)(2)いずれか、または両方が3か月以上続くものと定義される。末期腎不全者の総数は増加しているが、かつて多くを占めた慢性糸球体腎炎は減少傾向で、糖尿病性腎症や高血圧による腎硬化症が増加している。できれば自覚症状を伴わない微量アルブミン尿の段階で生活習慣病をしっかり治療することが望ましいが、実際には不可逆的な腎の線維化がおこり、GFRの低下が始まった段階から治療に入る場合が多く、十分な治療効果が得られないことが多い。CKDの重症度は血液検査(eGFR)と検尿(アルブミン尿)との組み合わせで評価する。
 CKDの治療は(1)肥満やストレスの解消や禁煙・節酒といった「生活習慣の改善」、(2)減塩・水分摂取・蛋白制限などの「食事療法」、(3)血圧管理のための「薬物療法」を行う。血圧管理目標は、蛋白尿陽性あるいは糖尿病合併の場合130/80以下とする。ただし米国SPRINT研究で示されたように、収縮期血圧120未満の「厳格降圧群」では複合心血管病は減少したが、腎不全は減らなかったことをみると、脳心血管病とCKDでは降圧の意味合いが異なるようである。
 CKDの血圧管理においては血圧の日内変動にも注目する必要がある。降圧の質を向上させるためにも診察室血圧以外も見ていくことが重要である。24時間自由行動下血圧測定(ambulatory blood pressure monitoring:ABPM)によれば、夜間血圧が下がらない(non-dipper)あるいは上昇する(riser)人がCKDでは多くみられる。食塩9.8gから4.4g/日の減塩により、収縮期マイナス10、拡張期マイナス4の降圧が得られるという。また早朝高血圧の人は降圧薬の就寝前服用のほうが腎障害改善効果が得られやすい。そこでCKDに克つための血圧管理としては(1)減塩、(2)少量の利尿薬、(3)時間医学的な介入、(4)長時間作用型の降圧薬により夜間の血圧を下げ、血圧の変動性を抑えることである。
 演者らの最新の研究から、ATRAP(angiotensinⅡ receptor-associated protein)とCKDについての話題を提供したい。ATRAPはAT1受容体への結合蛋白質であり、脂肪組織や腎臓に多く発現している。CKDなどの腎障害により、腎臓におけるATRAPの発現が低下すると、ナトリウム再吸収チャネルが増えてナトリウムの再吸収が亢進し、高血圧がすすむことでCKDが増悪するという悪循環が起こっていると考えられる。したがってATRAPの活性化を図ることによってCKDの進行を抑制することを期待し、現在研究を進めているところである。
 次に神奈川県内科医学会幹事長谷川修先生が座長をされた講演2「環境因性神経疾患(公害病・医原病)~医師による気づきの重要性~」を鈴鹿医療科学大学大学院医療科学研究科長 看護学部看護学科教授 葛原茂樹先生よりご講演をいただきました。ご講演の内容を簡単にご紹介します。
 神経内科の診療においては、検査データよりも患者を直接見たり触ったりすることが役立つことが多い。本当は公害病であったり、医原病であったりした様々な神経疾患の正しい原因に迫るため医師による気づきがいかに重要かということについてお話ししたい。
 1950年代後半に熊本県水俣市を中心として視野狭窄や小脳失調をきたし、痙攣を起こして死に至る奇病が多発し、やがて水俣にとどまらず有明海沿岸全体に拡大する傾向が見られた。1940年に英国で報告されたメチル水銀への直接暴露によるハンター・ラッセル症候群によく似た症状だったが、原因物質の特定に時間がかかり、最終的にチッソ水俣工場の排水に起因する食物連鎖によるメチル水銀中毒と判明したが、工場責任者による隠ぺい工作や学者間での意見の対立などもあり、当時の厚生省による事実の認定が遅れ被害が拡大した。
 1955年頃、激しい下痢と腹痛、下肢の痺れ痛み麻痺、視力障害から失明に至り、痙攣を起こして死亡する疾患が報告され、亜急性脊髄視神経症(subacute myelo-optico-neuropathy:SMON)と命名された。1967~1968年頃全国で多発し、ウイルス感染症説がマスコミに流れたためパニックとなり、患者は不当な差別と偏見にさらされ、一家心中まで起きる事態となった。SMON患者は緑の舌、緑の尿、緑の便が特徴的で、これは整腸薬キノホルムと鉄のキレートと判明した。キノホルムの添付文書には「腸管から吸収されない」と書かれており、当時多くの外科医が手術前後の腸管内の殺菌のため大量のキノホルムを投与していた。大規模なカルテの調査により、キノホルムを多く投与された患者にSMONが発症していること、また実はキノホルムは腸管からよく吸収されることも分かり、SMONの原因はキノホルムによる神経障害であることが確定し、1970年にキノホルムの販売中止後SMONの発症は無くなった。この事件から薬剤誘発性の疾患は疫病と見分けがつきにくいという教訓を得るとともに、「健康被害救済制度」と「難病対策と研究班」の2つの制度が生まれるきっかけとなった。
 南九州、四国南部、沖縄と北海道、東北に見られるAdult T-cell leukemia(ATL)の原因ウイルスは、縄文人が保有していたと考えられているHuman T-lymphotropic virus(HTLV-1)である。ATLの分布と重なるように特徴的な神経疾患がみられる。慢性の脊髄の炎症により、進行性の歩行障害や膀胱直腸障害をきたす。その患者の髄液中にATL細胞が観察されたことより、ATLと共通の病原体HTLV-1が原因と考えられHTLV-1 associated myelopathy(HAM)と命名された。このウイルスは母乳を介して乳幼児期に感染し中年期になってから発症することが分かった。
 1980年代に高齢者に対して多くの「脳循環代謝改善薬」が発売され、多くの患者に投与された一時期があった。脳の代謝を活発にする薬理作用を持つとされ、脳梗塞や脳出血に伴う意欲低下、情緒障害を適応としていた。当時は痴呆に対する有効な治療法がないことから医療現場で広く使われていたが、一部の患者に肝臓の急性脂肪変性(Reye様症候群)を発症し、消化器症状から昏睡状態になり死亡する例がみられた。また「脳循環代謝改善薬」の多くは効果がないことがわかり、承認を取り消された。また1987年に、急速に進行する無動と筋強剛により数か月で寝たきり状態となる症例を経験した。片頭痛発作の予防薬であるカルシウム拮抗薬塩酸フルナリジンによる薬剤性パーキンソン病と判明した。
 中心静脈栄養を行う際にも、欠乏症や過剰症に注意する必要がある。ビタミンB1欠乏による部分的眼球運動障害、運動失調、記憶障害を伴うウェルニッケ脳症、マンガンイオン過剰によるパーキンソン様症状、易怒性、幻覚を伴うマンガン脳症、セレン欠乏症による心筋壊死、軟骨の変性、甲状腺機能低下とセレン過剰症による胃腸障害、末梢神経障害、爪の変形や脱毛などである。
 最近次々と発売される新薬や先進医療の副作用にも注意する必要がある。医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA)の報告書によく目を通しておくことである。
 気づきの能力を高めるためには、患者をよく見て、よく診て、数多くみる。そして何か変だと思ったら、情報を集める。同業者からの情報や文献により不足を補うようにすれば、知識が無ければ見逃すことも、しっかり気づくことができるようになるであろう。
 講演会終了後、別室にて情報交換会が行われ、盛会の内に終了しました。
【第42回臨床医学研修講座予告】
 第42回臨床医学研修講座は平成29年9月2日(土)に聖マリアンナ医大と第2地区の担当で開催予定です。
【おわりに】
 平成27年度から神奈川県内科医学会は宮川政昭新会長の下に新体制となり、それまでの「学術Ⅰ部会」と「総務部会」が合流して「総務企画部会」となって早2年以上となりました。2期めを迎えても今までの長い歴史のある講演会に新たな変更や発展を加えながら、4つの基本講演会を開催していきたいと思います。また神奈川県内科医学会が主管する第32回日本臨床内科医学会(平成30年9月)のための開催準備組織委員会も回を重ねるたびに、学会のより具体的な計画が着々と形成されています。この大きなイベントを成功させるためには、全会員のご支援・ご協力が不可欠です。今後とも、神奈川県内科医学会の講演会開催に、ご協力とご参加をお願い申し上げます。

2017年5月20日土曜日

2017年5月13日土曜日

平成29年定時総会時学術講演会 アンケート(平成29年5月20日)

神奈川県内科医学会 平成29定時総会時学術講演会 平成29520

 本日は神奈川県内科医学会平成29定時総会時学術講演会にご参加いただき誠にありがとうございます。今後の講演会の企画・運営に役立てたいと存じますので、なにとぞ以下のアンケートにお答えいただければ幸いです。今後とも神奈川県内科医学会の活動にご協力のほどお願い申し上げます。
                                           総務企画部会 部会長 岡 正直 

1.
あなたは神奈川県内科医学会の会員ですか?  [はい]  [いいえ]

2.本日の講演会のことをどうやってお知りになりましたか? (複数回答可)
   [FAX] [ちらし] [製薬会社MR] [神内医ニュース] [会報] [会議で] [ホームページ]
 [ツイッター] [はがき] [知り合いから] [その他               ]

3.
本日の講演会に参加された動機は何でしょうか? (複数回答可)
 [神内医の講演会だから] [テーマに興味があったから] [点数がとれるから]
〔その他                                 
4.本日の講演はあなたにとって役に立ったと思われますか?また、時間配分は適切でしたか?
講演1CKDに克つための血圧管理とは
  横浜市立大学医学部循環器・腎臓内科学 主任教授 田村功一 先生
  講演内容  [とても役立った] [役立った] [理解できなかった]
  時間配分  [短い] [やや短い] [適切] [やや長い] [長い] 
 
講演2環境因性神経疾患(公害病・医原病)~医師による気づきの重要性~
  鈴鹿医療大学 大学院医療科学研究科長 看護学部看護学科教授 葛原茂樹 先生
  講演内容  [とても役立った] [役立った] [理解できなかった]
  時間配分  [短い] [やや短い] [適切] [やや長い] [長い] 
5.今後の講演会で取り上げてほしいテーマや演者があれば教えてください。
(医療関係以外のテーマでも結構です)
  テーマ [                                      ]
  演 [                                                                         ]

6.あなたの年齢、所属機関や専門分野を問題ない範囲で教えてください。
    
年齢   [30以下] [31-40] [41-50] [51-60] [61-70] [71-80] [81以上]
    
所属機関 [診療所] [病院] [大学] [その他              ]
 専門分野  [                                                             ] 

ありがとうございました

2017年5月12日金曜日

神奈川県内科医学会 第6回肝炎対策委員会 議事録 2017.04.25

神奈川県内科医学会 第6回肝炎対策委員会 議事録

日時 平成29425()1930~ 場所 神奈川県総合医療会館4階第二会議室
1.開会
2.挨拶
3.議題
1)委員の交代について
中澤貴秀先生(北里大) → 日高 央(ひだか ひさし)先生(北里大)

2)平成29新春学術講演会
平成29119日(木)19:30~ 横浜ベイシェラトンホテル&タワーズにて
医薬品評価検討委員会と肝炎対策委員会合同で企画   共催メーカー Abbvie合同会社
特別発言「健康長寿社会を目指す委員会によるアンケート調査結果について」
講師 中 佳一名誉会長
講演1 「これからのC型肝炎治療」 座長 岡委員長
      講師 横浜市立大学附属市民総合医療センター 消化器内科教授 田中克明先生
講演2 医薬品で健康を害うことのない世界をつくるために」 座長 湯浅委員長
       講師 川崎北合同法律事務所 湯山 薫 弁護士
       講師 清和総合法律事務所  服部功志 弁護士
  講師 薬害C型肝炎被害者 浅倉美津子 様

3)肝臓病を考える病診連携の会~肝がん撲滅を目指して~
(3-1)25回 平成281119日(土)1720~ 
 会場 相模原南メディカルセンター大会議室 232-0303相模原市南区相模大野4-4-1グリーンホール相模大野内
 担当 第5地区 中野史郎 先生 共催:ブリストルマイヤーズ
  一般演題座長 相模原医師会 沓掛伸二 先生
 ▶一般演題1「粘液産生胆管腫瘍の一例」
相模原協同病院診療部 臨床研修医 河本千尋 先生
 ▶一般演題2「巨大胃静脈瘤に対してNBCAにて逆行性塞栓術を施行した一例」
北里大学医学部 消化器内科学 助教 中谷征己 先生
 特別講演
座長 北里大学医学部消化器内科学講師 日高 央 先生 (ひだか ひさし)
「HCV根絶へのカウントダウン」
北里大学医学部 消化器内科学助教 魚嶋晴紀 先生

3-2)第26回 平成29617日(土曜日)16001800(資料A)
  会場 TKPガーデンシティ横浜2F 横浜市神奈川区金港町3-1コンカード TEL045-450-6317
  担当 第1地区 岡 正直 共催 MSD
 ▶一般講演
座長 永井一毅 先生
「横浜内科学会肝疾患抽出事業の進捗状況について」   永井一毅 先生
「社員健診での肝機能障害への対応(産業医の立場から)」 
アズビル株式会社 統括産業医 今井鉄平 先生
 ▶特別講演 
座長 多羅尾和郎 先生
「新時代を迎えたC型肝炎のDAA治療~新たな感染者の掘り起こし~」
埼玉医科大学病院 消化器内科・肝臓内科 教授 持田 智 先生

開始時間を早め、終了時間も早めにした  

3-3)第27回 平成291111日(土)
  会場 川崎市医師会館  
  担当 第2地区 小林明文先生 共催 大日本住友製薬
  一般講演 未定
  特別講演 演題未定 川崎市立多摩病院 鈴木通博 先生

3-4)第28回 平成30年春
  会場 未定 担当 第3地区

ブリストルマイヤーズ脱退希望あり
  共催メーカは現在4社(MSDEAファーマ、ブリストルマイヤーズ、大日本住友
  ギリアド社あるいはアヴィ社の参加を強く要請していくことに。
29回 平成30年秋の回は第32回日本臨床内科医学会(9月神奈川)に合流するため開催なし。
 講演の枠1時間あり。
 横浜内科学会肝疾患管理病診連携ガイド(永井先生)と横浜市大の斉藤先生の2本建てで企画。

3)ウイルス肝炎患者掘り起こし事業
横浜内科学会肝疾患管理病診連携ガイド(永井一毅先生主導)データをさらに収集していく
職域における調査をすすめる

4肝炎対策委員会編集による肝疾患についての書籍の企画
神奈川県内科医学会50周年記念企画のひとつとして出版予定。
32回日本臨床内科医学会 平成309月15日(土)~17日(月祝)パシフィコ横浜
での配布をめざして内容を検討していく。
市販が可能な書籍をめざす。
現在シリーズで刊行中の「これだけは知っておきたいC型・B型肝炎の知識」の2倍程度の分量で計画したい。
実臨床でよく遭遇する肝疾患について、最先端の内容を盛り込みつつ、非専門の臨床医にわかりやす記載る。
書名「これだけは知っておきたい肝臓病の知識」
執筆分担(敬称略平成2959日の時点での入稿状態
C型肝炎 多羅尾   (入稿)
B型肝炎 宮本、高山 (入稿)
NAFLD/NASH 斉藤     (入稿)
原発性胆汁性胆管炎(PBC 永井
自己免疫性肝炎(AIH 池田     (入稿)
薬剤性肝障害(DILI 岡       (入稿)
肝不全 松本     (入稿)
肝がん 中澤
次の原稿締め切りは平成296月末日とする。

4.次回開催  平成29年  10月 後半~11月の( 火 ) 1930