平成29年新春学術講演会は平成29年1月19日(木)午後7時15分より横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ5階日輪にて肝炎対策委員会と医薬品評価検討委員会の担当で開催された。宮川政昭会長の挨拶のあと中佳一名誉会長の特別発言として健康長寿社会を目指す委員会により行われたアンケート調査の結果についての報告があった。肝炎対策委員会の岡正直委員長が座長を務め、講演1「これからのC型肝炎治療」を横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器内科教授 田中克明先生にご講演いただいた。以下に講演内容を簡単に紹介する。
「これからのC型肝炎治療」横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器内科教授 田中克明先生
Direct acting antivirals(DAAs)によりC型慢性肝炎は95%超治癒する時代となったが、最新の肝炎治療から洩れている人の掘り起こしが今後重要となるだろう。高齢者に対するDAAs治療は、70歳台であれば行い、80歳台では適応を考慮するが元気なら治療対象と考える。ただし75歳以上では有害事象による治療中止が多い傾向がある。シメプレビル(SMV)で失敗した人は耐性変異により、ダクラタスビル(DCV)+アスナプレビル(ASV)でも失敗するのでこの治療を避けること。DNAにはなくRNAのみに含まれるウラシルのアナログであるソホスブビル(SOF)は画期的なDAAであり、1型に対するSOF+レディパスビル(LDV)治療はほぼ100%の治癒を可能としているが、eGFR50未満の腎障害者には注意すること。オムビタスビル(OBT)+パリタプレビル(PTV)+リトナビル(r)は腎機能低下例でも使用できるが、ウイルスの耐性があると治療成績が低下する。また多くの薬剤と相互作用があり、投薬内容に細心の注意が必要である。特にカルシウム拮抗薬との併用は避けること。エルバスビル(EBV)+グラゾプレビル(GZR)も腎障害者に使え、97%の成績である。薬剤相互作用も比較的少ない方である。今後登場するDCV+ASV+ベクラブビル(BCV)も成績はよく、ゲノタイプ1aにも効果があるのが特徴である。さらにグレカプレビル(GLE)+ピブレンタスビル(PIB)はわずか8週間投与ですべてのゲノタイプに対して効果があり、それまでのDAAs治療の失敗例に対する画期的な治療薬となることが期待されている。今後の問題点として、非代償性肝硬変患者への治療や、DAAs治療失敗後の多重耐性症例への治療などが課題である。
次に、医薬品評価検討委員会の湯浅章平委員長が座長を務め、講演2「医薬品で健康を害うことのない世界をつくるために」を3人の演者にご講演いただいた。以下に講演内容を簡単に紹介する。
「医薬品で健康を害うことのない世界をつくるために」
{薬害の歴史に学ぶ}川崎北合同法律事務所弁護士 湯山 薫 先生
医薬品による健康被害のうち、行政や企業の不適切な行為が関与したことにより、社会問題化したものを「薬害」という。
①サリドマイド事件:鎮静・睡眠薬として1950年代末~1960年代初め販売され、その催奇形性により手足や耳などに障害を持った被害児が生まれた。②スモン事件:1960年代後半、整腸剤キノホルムにより死亡、失明、歩行障害、自律神経失調を伴う亜急性脊髄視神経症(subacute myelo-optico-neuropathy:SMON)を引き起こした。③クロロキン事件:日本のみクロロキンの適応拡大による長期投与が行われ、1962年以降失明も含む網膜症が増加した。④薬害エイズ事件:1980年代に非加熱血液凝固因子製剤により、主に血友病患者に多数HIVを感染させた。⑤MMR(新三種混合)ワクチン事件:1989年導入のMMRワクチンにより無菌性髄膜炎などの被害が発生し後遺症を残した。⑥薬害肝炎事件:多数の人の血液を集めた、ウイルス混入リスクの高いプール血漿を用い、充分なウイルス不活化処理もなされなかったフィブリノゲン製剤や血液凝固第Ⅸ因子製剤により多数のC型肝炎ウイルス感染者を発生させた。
{薬害被害の体験}薬害C型肝炎被害者 浅倉美津子 様
1988年次男を出産した際、出血が多かった。退院後倦怠感と発熱あり、内科に入院しC型慢性肝炎と診断されたが感染源は不明とされた。2002年東京と大阪で薬害肝炎訴訟が起こされたことを知り、カルテ開示により出産時にフィブリノゲン製剤を投与されていたことが判明した。勤務先から解雇されるのではないかと不安な日々を過ごしたが、2008年に薬害肝炎救済法が成立した後、勤務先を退職してつらいインターフェロン治療を受けた。幸い完治することができたが、現在も6か月毎に超音波検査や採血フォローアップを受けている。
{薬害事件の背景と対策}清和総合法律事務所弁護士 服部功志 先生
薬害が起こる制度的問題として、①承認審査:安易な適応の拡大、危険性情報の過小評価、②市販後安全対策:正確な副作用情報が上がってこないため、厚労省の対応の遅れがあり、因果関係が明らかになる前に被害が拡大する。③利益相反問題:厚労省からメーカーへの天下り、などが挙げられる。外国にならい日本でも患者からの直接の被害情報が求められる。薬害の予防原則は「重大かつ不可逆的な被害が起こりうるときは、危ないと思った段階ですぐに手を打つ」ことである。
薬害被害者の求めるものは、①薬害教育の充実、②薬害研究資料館の創設、③患者からの副作用報告制度の創設、④第三者監視組織の創設、である。
医師に求められるものは、①最新の副作用情報の収集、②学会における最新知見の共有、③予防原則に立った副作用情報の収集(患者の話を注意深く聴く)④PMDAへの速やかな副作用報告、⑤適応外使用に対する慎重な姿勢、である。
講演終了後、出川寿一副会長の閉会の挨拶の後、別室にて情報交換会が行われた。
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