(1)総務企画部会開催(6.8、7.6、9.7、10.5、11.9、11.30、1.7、2.8、3.7、4.11、5.9)
毎月幹事会の概ね前週に開催され、幹事会の議案について検討、県内科医学会事業の運営について、担当部会との調整を図った。年間行事の計画立案と日程調整、議事内容等の運営を担当した。
(2)幹事会・会長会開催( 6.18、7.16、9.10、10.15、11.19、12.5、1.21、2.18、3.17、4.21)
基幹会議の運営・進行を担当し、円滑な会務が遂行出来るよう会場設置、スポンサーの確保、出欠の把握、議事録の作成を行った。
(3)評議委員会・定時総会・学術講演会(5.16、県総合医療会館)
議案は旧総務部会で検討された後、幹事会で承認を受け、評議委員会・定時総会で議論され承認された。
平成26年度事業報告、平成27年の事業計画、平成26年度決算報告、平成27年度予算案等の議案が議論され承認を受けた。
引き続き学術講演会が行われ、宮川政昭新会長の開会の挨拶のあと、順天堂大学名誉教授・特任教授であり日本医史学会前理事長でもある酒井シヅ先生をお招きし、中佳一前会長が座長を務め特別講演「現代からみた江戸の医学」をお話しいただいた。ご講演の内容を簡単に紹介する。
「医療」と「医学」の違いは何かといえば、「医療」は病を治すための人類のあらゆる分野における知識や経験を集大成したものである一方、「医学」は科学的な研究に基づいた体系的な学問であるといえるのではないだろうか。現代の日本の医学は西洋医学の流れの中にあることは言うまでもない。
西洋医学の始まりは紀元前の古代ギリシャ医学にあり、病気に伴う現象を注意深く観察し、理論をたて、そこから導き出された治療法を確立した素晴らしいものであった。紀元前3~2世紀アレクサンダー大王の東方遠征に伴い古代ギリシャ医学は大きな発展をする。いつの時代でも大きな戦争を契機として医学が進むのは皮肉なことである。古代ローマ帝国の時代にガレノスがあらわれ、古代ギリシャ医学を理論的に集大成したガレノス医学を確立した。これは理論的に整備されたものであったがゆえに、後世の学者は現象としての事実を見ず、ガレノス理論との整合性ばかり考えるようになったことは残念なことである。
西暦395年古代ローマ帝国は分裂し、東ローマ帝国では古代ギリシャ医学の流れを汲むアラビア医学が、西ローマ帝国ではガレノス医学の流れを汲む僧院医学が、西ローマ帝国の崩壊後も主流となっていった。中世の修道院には付属病院が設けられ修道尼が看護にあたっていた。僧院医学においては新しい研究や積極的な治療が行われることはなく、看護・療養が主体であった。西暦1453年オスマン帝国により東ローマ帝国が滅亡し、逃れた人々により古代ギリシャ医学の流れを汲むアラビア医学がヨーロッパにもたらされた。ここにルネサンスが始まり、古代ギリシャ医学の再興をみることとなった。
ルネサンス期にはヨーロッパ各地に大学が設立され、人体への本格的な探求が始まった。中世には行われることのなかった人体解剖も盛んに行われるようになり、万能の天才レオナルドダヴィンチによる精密な人体解剖図は驚くべきものである。そして西暦1543年にはヴェザリウスによる本格的解剖書「人体構造論」が著され、西暦1630年にはこの書が日本にも伝来し、それを目にした一部の日本人を驚嘆させるが、日本の西洋医学への開眼はまだ遠い先のことであった。一方ヨーロッパではパレによる外科治療の進歩もあり、17世紀には医学は神学の領域を離れ、科学的研究の対象となっていた。
それまでのヨーロッパでは血液循環の概念はなかったが、ハーヴェーが科学的研究により西暦1628年「血液循環説」を発表し、ガレノスの考えを否定した。時を同じくして、江戸幕府が将軍家綱の治療のため西暦1674年にオランダより招いたテン・ライネが、日本にはすでに「気の循環」といったハーヴェーの唱えた循環説に通じる考え方があることを知って驚いていることは興味深い。17世紀の哲学者デカルトは「人間は精神と身体から構成されている」という心身二元論を唱え、人間に宿る精神が精巧な自動機械としての身体を操縦しているとの考え方を示した。これに影響を受けた医学者は精密機械としての人体のメカニズムの探求をさらに進めることとなった。レーウェンフックの発明した顕微鏡によりミクロの世界が開かれ、微生物の存在が明らかとなった。またマルピギーの顕微鏡を用いた研究により西暦1661年に肺の毛細血管が発見され、ハーヴェーの血液循環説はついに完成することとなった。
18世紀には、モルガーニが様々な疾患で亡くなった多くの人の病理解剖を続け、生前の病状と解剖の所見を詳しく比較検討し、西暦1761年に「解剖によって明らかにされた病気の座と原因」を著し、近代病理学思想を確立した。19世紀になるとラエンネックが西暦1816年に聴診器を発明し、診断方法にも進歩が見られた。西暦1867年には日本で明治維新がおこり、西洋医学の急速な導入が行われることとなった。
江戸時代と現代の医学のもっとも大きな違いは、細菌感染症に対する化学療法ではないだろうか。パスツールとコッホにより近代細菌学の基礎がつくられ、最先端の医学研究の分野として大いに発展した。北里柴三郎や野口英世らの業績も注目すべきものがある。20世紀になるとエールリッヒによる化学療法の開発や、彼の門下の秦佐八郎や志賀潔の活躍のあと、西暦1928年にフレミングによって世界初の抗生物質ペニシリンが発明され、第2次世界大戦中に多くの人が感染症から救われることとなった。
講演終了後、羽鳥裕前副会長の閉会の挨拶のあと、総合医療会館1階にて演者を交えて情報交換会が持たれ、盛況のうちに終了した。
(4)第40回臨床医学研修講座
第40回臨床医学研修講座は、平成27年10月31日(土)午後3時~6時、平塚プレジール6階「大山」にて第4地区藤沢市・茅ヶ崎・平塚市・中郡・小田原・足柄上・秦野伊勢原の各内科医会の協力、東海大学医学部の主管にて開催された。
東海大学医学部副学部長 高木敦司先生の司会の下、東海大学医学部医学部長 今井裕先生より開会の挨拶を、引き続き宮川政昭会長より挨拶をいただいた後、5つのご講演を聴講した。ご講演の内容を簡単に紹介する。
1.「気管支喘息診療の進歩」呼吸器内科教授 浅野浩一郎先生(座長 小林邦芳幹事)
吸入ステロイド薬治療の普及により喘息の救急外来受診、入院また喘息死も減少した。しかしコントロール困難な重症喘息患者への対応は残された大きな課題である。2014年に世界初の重症喘息国際ガイドラインが発表された。それによれば、重症喘息の診断には喘息専門医への相談が必要であり、重症喘息とされるものの中には様々な病態のものが含まれ、それぞれに適応した治療法の選択が強調されている。重症喘息患者に出会ったときは、まず吸入ステロイドの吸入手技とアドヒアランスのチェック、次に診断の再確認を行ったうえで、専門医に相談を行うことである。
2.「経口血糖降下薬の選択のポイント~併用薬の考え方からSGLT2阻害薬最新情報まで~」腎内分泌代謝内科准教授 豊田雅夫先生(座長 齋藤達也幹事)
近年、様々な新規経口血糖降下薬が登場し、2型糖尿病の治療成績が向上している。一方で選択の幅が広がることにより治療の組み立てが難しくなっていることも事実である。最近のトピックスとして「3Cの普及」を紹介したい。持続皮下インスリン注入ポンプ(CSII)、持続血糖モニター(CGM)、カーボカウント(Carb counting)である。適切な薬剤選択のためには、種々の検査値により病態を正確に把握することが重要である。心血管イベントを高率に引き起こす食後高血糖の改善も必要である。SGLT2阻害薬は腎臓での糖の再吸収に関わるSGLT2を阻害することでインスリンを介さずに血糖を下げる薬剤である。体重減少、血圧低下、尿酸低下、腎保護作用などが期待されるが、脱水に伴う副作用に注意が必要である。
3.「頭痛診療のマネジメント~診断から治療まで~」神経内科准教授 永田栄一郎先生(座長 古木隆元幹事)
頭痛に悩む患者は多いが、適切な治療が行われている例は少ない。日本頭痛学会の「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」を参考に診断・治療を進めるとよい。頭痛は一次性(機能性)頭痛と二次性(器質的)頭痛に大きく分類される。二次性頭痛には生命に危険が及ぶものがあるため迅速な診断・治療が必要となる。一次性頭痛として片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛をあげ、診断と治療のポイントについてわかりやすく丁寧な説明があった。診断・治療に難渋する「薬剤の使用過多による頭痛」(薬物乱用頭痛)への対処法にもふれた。市販の頭痛薬にはカフェインが配合されているので乱用につながりやすいとのことである。
4.「血球数に異常を認めた際の診断・治療ステップ~最近の血液内科学の進歩をまじえて~」血液腫瘍内科教授 川田浩志先生(座長 鈴木哲幹事)
近年、血液病の治療は分子標的薬などの登場により様変わりし治療成績も向上している。1万超の白血球増加は喫煙が原因のことが多いが、1万5千超の場合は慢性骨髄性白血病などの疾患も疑う。白血球減少ではアフリカ系の人に見られる良性民族性好中球減少症というものもあるが、前白血病状態である骨髄異形成症候群に注意すること。多血症は脱水やストレス・喫煙も原因となるが、ヘモグロビン20以上では真性多血症を考える。小球性貧血なら鉄欠乏性貧血を疑う。フェリチンが正常ならば何らかの鉄の利用障害を、血清鉄もフェリチンも正常ならば血液疾患の精査を要する。また再生不良性貧血や多発性骨髄腫にもふれた。
5.「ホルター心電図を日常診療に生かす~心事故は予知できるか~」循環器内科教授 吉岡公一郎先生(座長 佐藤和義幹事)
我が国において心臓突然死は増加傾向にある。ハイリスク症例を予測するためにはホルター心電図は有力なツールとなる。技術の向上により小型化と高性能化が進んでいるが、当科では最新型の高分解能ホルター心電計を用いて心室遅延電位(LP)の連続記録を行い、致死性心室不整脈の予測に役立てるための検討を行っている。講演では豊富な自験例における解析の実際を提示しながら、リスク層別化の指標について詳細な説明があった。今後これらの指標が日常診療で簡便に使用でき、ハイリスク症例の予知の助けとなることが期待された。
いずれの講演も最新の研究内容を盛り込みつつも、明日からの診療にすぐに役立つ内容だった。武田浩副会長の閉会の挨拶のあと、別室にて情報交換会が行われ盛会のうちに終了した。
(5)平成28年新春学術講演会
平成28年新春学術講演会が平成28年1月21日(木)午後7時30分~9時に、横浜ベイシェラトンホテル&タワーズにて禁煙・分煙推進委員会および呼吸器疾患対策委員会の担当(共催ファイザー株式会社)で開催された。2つの講演内容を簡単に紹介する。
1.「高齢者の命を脅かすCOPDと肺炎~その予防戦略~」横浜市立大学医学部呼吸器内科教授 金子猛先生
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の認知度は低く、国民の30%しか名前を知らない一方、COPDによる死亡は増加の一途をたどっている。40歳以上の成人のうち530万人以上が罹患していると考えられるが、そのほとんどは診断されていない。煙草の煙などの汚れた空気を吸引し続けることによっておこる肺の慢性炎症性疾患であり、主に末梢気道に病変が存在するため、CT画像では変化を見つけにくく、酸素飽和度もあまり低下しない。スパイロメトリーは早期から異常となり診断に有用である。COPDの治療では日本呼吸器学会のガイドラインにあるとおり、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)の吸入を主体に用い、喘息合併COPD例には吸入ステロイド(ICS)も加えるとよい。
肺炎は国内死亡原因疾患の第3位であり、その95%以上を高齢者が占める。市中肺炎の40%は肺炎球菌が原因菌であり、国により定期接種化された多糖体ワクチン(PPV23)の接種により、肺炎球菌性肺炎の60%減、すべての肺炎の40%減が期待される。しかしPPV23はブースター効果がかからず、2年ほどで接種前のレベルに抗体価が低下しているため、これだけで肺炎予防は難しい。そこでブースター効果に優れた結合型ワクチン(PCV13)を希望者においては併用することが望ましい。PCV13を接種後6~12ヶ月後にPPV23を接種すると良好な効果が得られるという。
2.「禁煙の動機づけ面接法」新中川病院内科・神経科 加濃正人先生
人はつい今までと変わらない行動を選択しがちである。動機づけ面接法(motivational interviewing:MI)とはミラーとロルニックにより開発された対人援助理論である。受容的応答を旨とする「来談者中心的要素」と特定の変化に指向させる「目的志向的要素」を併せ持った面接のスタイルであり、この2つの要素をミックスさせると行動変容が起きやすいと考えられている。MIは禁煙外来のみならず、アルコール・薬物・ギャンブル依存やダイエット・運動・摂食障害やDV・家族関係などにも有効な手法である。MIを実際に行うにあたり「OARS」を繰り返しながら進めていくとよい。すなわち、開かれた質問(Open question):「はい」「いいえ」で答えられない質問。是認(Affirming):相手の強みや努力に言及する。聞き返し(Reflecting):相手の言葉をそのまま、または治療者の理解した内容で返す。要約(Summarizing):相手の言動や考えを、箇条書きのように並べていく。聞き返しには、言葉を明確化するための「単純な聞き返し」と、意味や感情を明確化するための「複雑な聞き返し」がある。これら単純と複雑の聞き返しを繰り返しながら状況を明確化していくのだが、相手の考えの正確な理解のためにはあえて「空気を読まない」ことも大事である。要約の段階では、それまでに相手が語った言葉や、聞き返しによって合意に達した言葉を箇条書きのように列挙して聞き返すことによって、複雑な問題を概観して明確化すると同時に堂々巡りや脱線の防止をすることができる。
講演中に、前の講演者の金子猛教授を模擬患者として迎え、診察室でのMIの実際をリアルにご披露いただき、MIへの理解が深まったと感じた。神奈川県内科医学会の「今日からできるミニマム禁煙医療」の第2巻「禁煙の動機づけ面接法」を勉強して、ぜひ明日からの診療に役立てたいと思った。
(6)第79回集談会
第79回神奈川県内科医学会集談会が平成28年2月13日(土)午後3時からおだわら総合医療福祉会館4階ホールにて第4地区小田原内科医会・足柄上内科医会担当(共催第一三共株式会社)にて開催された。午後3時からの一般演題16題(発表5分・質疑応答2分)の発表のあと特別講演を2題聴講した。その講演内容を簡単に紹介する。
1.「心房細動、静脈血栓症に対する抗凝固療法の最新の知見」京都大学大学院医学研究科循環器内科学助教 牧山武先生
心房細動(af)患者にはCHADS2スコアの点数の倍以上の年率%で脳卒中発症リスクがある。1点以上なら抗凝固療法を考慮すべきである。従来使用されてきたワーファリン(W)によるコントロールは不十分なことが多く、かえって脳卒中を起こしやすい状況を作っているともいえる。近年登場したNon-vitamin K antagonist anticoagulant(NOAC)は、血栓塞栓イベントも出血イベントもWより少なく、京大病院ではNOACを第一選択薬としている。85歳までは6割にNOACを、85歳超では減量して投与している。腎機能低下例(Ccr15~30)でもNOACを少々使っているが、Ccr15未満は禁忌である。
肺血栓塞栓症や深部静脈塞栓症などのVenous thromboembolism(VTE)の診断にあたってはD-dimerの測定が役に立つ。VTEにもNOACは有効でエドキサバンを30%の症例に使用している。
NOACの使い分けとして、有効性ならダビガトランの高容量、安全性ならエドキサバンやアピキサバン、利便性ならエドキサバンやリバーロキサバンを、そして経済性ならNOACでなくWを使うことになろう。
2.「iPS細胞を用いた心筋再生医療実用化への現状」慶應義塾大学医学部循環器内科教授 福田恵一先生
心機能が大きく損なわれた患者にとって、心筋再生医療は素晴らしい福音となる。演者らのグループは末梢血T細胞より作製したTiPS細胞を心筋細胞に分化させて大量に培養し、それを障害された心臓の心筋に効率よく移植・定着させる技術を開発した。この快挙は次のような各段階での難関を、工夫を凝らしながら根気よくひとつひとつ克服し達成されたものである。
①安全性の高いiPS細胞の作製、②大量に培養する方法、③効率のよい心筋細胞の作製、④細胞数増加、⑤純化精製、⑥効率的な移植法、である。多くの貴重な研究データを詳細に供覧しながら丁寧に解りやすくお話しいただいた。
現在サルやブタなどでの動物実験で非常によい成果を収めており、ヒトでの臨床応用に向けてPMDAに申請中である。
その後同会館4階ホワイエにて立食にて意見交換会があり、参加された先生方の間の交流を深めることができた。
(7)日本臨床内科医会関連業務
日本臨床内科医会との連絡窓口として、会員への情報提供を行った。また平成30年9月開催予定の第32回日本臨床内科医学会を神奈川県内科医学会主管で実行するための準備委員会を発足させた。
(8)おわりに
平成27年度からは神奈川県内科医学会は宮川政昭新会長の下に新体制となり、今までの「総務部会」と「学術Ⅰ部会」は合流し「総務企画部会」として再スタートした。長い歴史のある本体事業に新たな変更や発展を加えつつ、平成29年の創立50周年記念事業や平成30年の第32回日本臨床内科医学会を成功させるため、全会員のご支援・ご協力をお願いしたい。
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