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2016年3月23日水曜日

平成26年度神奈川県内科医学会 各部会・委員会事業報告

平成26年度神奈川県内科医学会 各部会・委員会事業報告

1 総務部会(部会長:武田 浩)
1) 総務部会開催(5/12. 6/9. 7/7. 9/1. 10/6. 11/10. 12/1. 1/8. 2/9. 3/9. 4/6.5/11)
 毎月常任幹事会の概ね前週に開催され、常任幹事会の議案について検討、県内科医学会事業の運営について、担当部会との調整を図った。
 年間行事の計画立案と日程調整、議事内容等の運営を担当した。
2)幹事会開催
 ( 6/19. 7/17. 9/11. 11/20. 12/6. 1/17. 2/19. 3/19. 4/16)
 基幹会議の運営・進行を担当し、円滑な会務が遂行出来るよう会場設置、スポンサーの確保、出欠の把握、議事録の作成を行った。
3)評議委員会・平成25年度定時総会・学術講演会
 05/17 県総合医療会館
 議案は総務部会で検討された後、常任幹事会で承認を受け、評議委員会・定時総会で議論され承認された。
 平成25年度事業報告、平成26年の事業計画、平成25年度決算報告、平成26年度予算案等の議案が議論され承認を受けた。
4)神奈川県内科医学会地区幹事会開催  (平成26年10 .11月)
 地区毎に会長・地区副会長・各事業委員長と、地区に所属する県幹事、地区役員が一堂に会し、県内科医学会への要望、県内科医学会から地域への事業報告・依頼を議論した。
5)臨床医学研修講座
 平成26年11月1日   北里大学病院本館   担当:北里大学
6)新年学術大会
 平成27年1月17日 横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ
7)第78回集談会
 平成27年2月14日 主催:横須賀内科医会、逗葉内科医会、鎌倉医師会内科医会
 横須賀医師会館で開催
8)日臨内関連業務
日臨内との連絡窓口として、会員への情報提供を行った。
9)経理
予算・決算の立案と、執行を行い、随時執行状況を常任幹事会に報告した。
10)人事・組織図 
   人事の異動を管理し、組織図に沿った各委員会の活動の調整を行った。
会長選出規定 募集要項の策定、選挙管理委員会を招集  会長選挙を実施

2 学術Ⅰ部会(部会長:岡 正直) 
 神奈川県内科医学会学術1部会が企画担当している講演会は、定時総会時学術講演会、臨床医学研修講座、新春学術講演会そして集談会の4つです。

【平成26年度定時総会時学術講演会報告】
 平成26年度定時総会は、平成26年5月17日(土)神奈川県総合医療会館7階講堂にて開催され、引き続き学術講演会が行われました。宮川政昭副会長の開会の挨拶のあと、東海大学医学部専門診療学系産婦人科学教授であり東海大学医学部付属病院遺伝子診療科科長でもある和泉俊一郎先生をお招きし、中佳一会長が座長を務め特別講演「これからは遺伝子医療の時代:知っておきたいこと」をお話しいただきました。ご講演の内容を簡単に紹介します。
 実際に保険収載されている遺伝子検査は神経疾患に関するものが多い。遺伝子検査の目的は確定診断と発症前診断と保因者診断と出生前診断である。全国的には遺伝専門医の数はまだ少ない。近年、遺伝子診断についてはしっかりとしたガイドラインができており、個人情報に留意しながらきちんとしたカウンセリングを行うことが期待されている。陰性のときは問題ないが陽性のときは、保因者診断の場合はその人の子孫において、発症前診断の場合はその人の将来において発病への危惧を与えることになるため、検査結果への対応を事前に考えておかなければならない。よって一般臨床医でも最低限の遺伝カウンセリング能力を身に着ける必要があると思われる。
 「ゲノム」とはその人が持つすべての遺伝情報のことである。2003年にヒトの全ゲノムが解明されたが、遺伝子については未知のことが多く残されている。飢餓や塩分不足の環境を有利に生き抜くために祖先から引き継いだ遺伝子が、現代人にとっては糖尿病や高血圧を引き起こす原因になっていることは皮肉なことである。これらの病気は遺伝因子と環境因子の複合によって発症する多因子遺伝病である。純粋に遺伝因子による病気は単一遺伝病であり、一方純粋に環境因子によるのは事故や感染症などである。
 遺伝性の病気の因子を保有している人は意外に多い。遺伝子とその表現型について、優勢・劣勢の遺伝形式での因子の受け継がれ方と表現型の出現頻度についてわかりやすく説明した。まれな遺伝性の疾患であっても近親婚の場合は発症する確率が高くなるので要注意である。
 2003年のゲノムプロジェクトの時代に較べると、次世代シークエンサーの登場により今日ではゲノム解析はきわめて早く安く簡単に行えるようになった。ゲノム医療の時代は現実のものとなりつつある。近未来の日本を舞台にしたアニメーション「ゲノムカード」を供覧した。このアニメにおいて、近未来の医療では各人の遺伝子の個人差に基づいて診断治療が行われるようになること、健康は遺伝子だけでは決まらないこと、究極の個人情報であるゲノム情報を保護することの重要性などが示された。ヒトとチンパンジーのゲノムの違いは1.2%、ヒトとヒトの間のゲノムの違いは0.1%に過ぎない。このわずかな違いにより治療の有効性や副作用の現れ方が人によって異なるのである。将来オーダーメイド医療を実現するためには、遺伝子と治療とにかかわる非常に多くの知見をデーターベース化していかなければならない。
 遺伝子がまったく同じである一卵性双胎であっても、その後の表現型が異なってくるのはゲノムの修飾(メチル化)が起こるからである。これが環境の影響による遺伝子のエピジェノミック変化であり、がん化するかしないかにも大きくかかわる点である。家族性に乳がんや卵巣がんが多発する疾患にHBOC(Hereditary Breast and Ovarian Cancer:遺伝性乳がん卵巣がん症候群)がある。この疾患では乳腺の細胞のDNA損傷をを修復するBRCA遺伝子に変異がみられ、男性の乳がんや前立腺がんの発症にも強く関与している。しかし発がん遺伝子についてはまだ不明な点が多い。
 最近話題になっているNIPT(NonInvasive Prenatal genetic Testing:無侵襲的出生前遺伝学検査)は母親からの20mlの採血で胎児の遺伝子異常を知ることができ、感度・特異度も高い検査である。ダウン症は母親の年齢が上がるにつれ発症が多くなることが知られているが、20-29歳においても1000分の1の確率でダウン症が発生する。35歳以上で発症が急に増えるので、羊水穿刺により胎児の遺伝子異常を確認することが多くなるが。一方、羊水穿刺による流産リスクも200人に1人ある。NIPTにより羊水穿刺による流産リスクを回避することができるのは福音だが、NIPT陽性でも若い母親ほど遺伝子異常がない場合も多いため正常の胎児を堕してしまう恐れがある。そこでNIPTが陽性であっても羊水穿刺が必要となれば、羊水穿刺による流産のリスクの問題に再び突き当たることになる。また、そもそもダウン症児には人として生きる資格がないのかという根源的な問いかけに答えることができるのだろうか?
 講演終了後、梶原光令副会長の閉会の挨拶のあと、総合医療会館1階にて演者を交えて情報交換会が持たれ、盛況のうちに終了いたしました。

【第39回臨床医学研修講座報告】
 第39回臨床医学研修講座は、平成26年11月1日(土)15時より北里大学病院本館3F臨床講義室No.1&2にて第5地区相模原市内科医会の協力、北里大学医学部の主管にて開催されました。
 北里大学医学部医学部長 東原正明先生、神奈川県内科医学会会長 中佳一先生の開会の挨拶に続いて、4つのご講演をいただきました。ご講演の内容を簡単に紹介いたします。
(1)「北里新病院の体制と医師会等の連携」
 演者 北里大学医学部 医療安全・管理学教授 渋谷明隆先生
 まずは新病院紹介のビデオ供覧。2005年に新病院のプロジェクトを立ち上げ、2014年5月7日新病院が完成した。北里大学病院の役割は、地域における高度先進医療に加えて市民病院的役割を担うこと、そして地域への医療人材供給である。その特徴は4つ。①救命救急・災害医療センター:神奈川県北西部の3次救急を担う唯一の医療機関、②集学的がん診療センター:後述、③トータルサポートセンター:患者中心の医療を実現する病診連携の窓口、④周産母子成育医療センター:一連の妊娠・分娩から成育医療まで総合的に提供し、周産期救急、新生児・未熟児搬送の地域基盤となる。また2015年5月には、北里大学東病院はポスト急性期医療と地域をつなぐ地域医療貢献を実現すべく新しく生まれ変わる予定である。
(2)「集学的がん診療センターの運用と連携」
 演者 北里大学医学部 新世紀医療開発センター 横断的医療領域開発部門 臨床腫瘍学教授 佐々木冶一郎先生
 2007年施行の「がん対策推進基本計画」により、地域がん診療連携拠点病院は腫瘍センター、院内がん登録、外来化学療法、相談支援センターなど種々の要件を満たす必要があり、これらの業務を担う集学的がん診療センターを設けた。揮発性の抗がん剤への職員の曝露を避けるため、特殊な排気システムを完備した。また投与後48時間以内の患者の尿には抗がん剤が排出されているので注意すること。地域におけるがん診療連携は重要であり、成功している熊本県の「私のカルテ」に倣い、神奈川県のがん診療連携パスを作成している。がん診療連携をさらに推進するため、日本癌治療学会認定がん医療ネットワークナビゲータの育成をすすめていきたい。
(3)「早期胃癌に対する内視鏡治療と地域連携」
 演者 北里大学医学部 新世紀医療開発センター 先端医療領域開発部門 低侵襲光学治療学教授 田邉聡先生
 内視鏡治療はESD(Endoscopic Submucosal Dissection;内視鏡的粘膜下層剥離術)が主流となり、北里大学は全国第9位の症例数を持つ。適応はリンパ節転移がなく、内視鏡治療で切除が可能なものだが、適応は拡大されつつあり、また適応外の症例も経験している。当院での治癒切除率は95.7%に達している。ESDの弱点は病巣の牽引手段がないことだが、2本の内視鏡を使う「ダブルスコープESD」により解決した。県内をはじめ近隣地域からの紹介が8割を占めている。ピロリ菌除菌後も発癌リスク低下は限定的であり、異時多発にも注意したい。内視鏡生検でgroup2,3,4の場合はぜひ紹介して欲しい。新病院の内視鏡センターは全国有数の広さと設備を誇り、内視鏡検診にも対応している。
(4)「健康科学センターでの人間ドックと地域連携」
 演者 北里大学医学部 新世紀医療開発センター 横断的医療領域開発部門 健康科学分野准教授 小林清典先生
 北里大学のドックの特徴は、①任意型健診主体で②中高齢者比率高く③全身合併症を有する受診者多く④リピータ率高く⑤日本総合健診医学会優良施設認定、である。要精検率が高いのは、受診者の年齢が他施設に比し高いことと、ピロリ菌除菌適応拡大に伴い、萎縮性胃炎を認めた場合要精査としているためである。大腸がん検診の陽性率は早期大腸がんでは50%に過ぎない。大腸がん検診結果が陽性であっても精検受診率は60%と低いことは問題であり、受診勧奨が重要である。2015年5月に北里大学東病院に健康科学センター(健診専用施設)がオープンし、さらに内容が充実する予定である。[終]
 講演終了後、3つのグループに分かれ院内見学を体験しました。どのフロアも清潔な広々とした空間のなかに、最先端の設備と豪華ホテルも顔負けの高級感があふれ、近未来の病院とはこういうものかと驚きの声があがりました。本館6階のレストラン「クルール」にて、北里大学医学部 消化器内科学教授 小泉和三郎先生と神奈川県内科医学会 第五地区副会長 山本晴章先生の挨拶に引き続き、情報交換会が行われ、盛会の内に終了いたしました。

【平成27年新春学術講演会報告】
 平成27年新春学術講演会が平成27年1月15日(木)19:30~21:15に、横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ「日輪」にて開催されました。今回は糖尿病対策委員会の松葉育郎委員長の企画により、「新規糖尿病治療薬への期待と課題」のテーマのもと、2つの講演が行われました。
 中佳一会長の挨拶に続いて、高井内科クリニック院長高井昌彦先生が座長をされた基調講演「神奈川県内科医学会糖尿病対策委員会におけるSGLT2阻害剤の有効性と安全性の検討」を朝日内科クリニック院長 飯塚 孝先生にご講演いただきました。ご講演の内容を簡単に紹介いたします。
 神奈川県内科医学会糖尿病対策委員会では、日常診療において2型糖尿病に対する新規糖尿病薬であるSGLT2阻害剤イプラグリフロジン投与の有効性と安全性を検討するため、臨床研究を開始した。
 イプラグリフロジン25あるいは50mgを用いて、20歳以上で12週以上治療しても糖尿コントロール不良(HbA1c6.0以上)者を対象とし、イプラグリフロジンを一日50ないしは100㎎を52週間投与し、坐位血圧、CBC、生化学、血中インスリンまたはCPR、尿一般、体組成測定(T-SCAN PLUS使用)、空腹時ケトン体測定などを行った。有効性は治療開始時より52週間のHbA1c変化量で評価するものとし、4,12,24,36,52週における血糖、HbA1c、脂質、体組織、体重、ウエスト径などをチェックする。安全性についてはケトン体の変化や、有害事象・副作用にも留意する。また食事行動問診票の記入、生活習慣アンケートも毎回おこなっていく。
 第1報としての1ヶ月めの中間報告では、HbA1c8.1から7.7、血糖195から164、BMI29から28.8、体重77.8から76.7kg、体水分38.4から37.6kg、細胞外水分15.4から15.1kg、ウエスト101から99cmと改善がみられた。また食事行動問診票で「たくさん食べた後悔」が減っていた。副作用については検討中である。4週間の時点ですでにHbA1c改善、食後高血糖改善がみられた。さらに症例を集め、食事行動の変化や生活習慣への影響についても検討したい。
 朝日内科クリニックにおいて、3か月間、26例について同様の検討を行ったので紹介する。対象の平均は52.5歳、身長162.4㎝、3か月後には体重83.3から78.7㎏、BMI31.4から30.2、ウエスト103.5から101㎝、血圧125.8/79.2から122.7/75、血糖242から167、HbA1c9.25から8.4、他にALT、γGTの改善もみられた。体脂肪・内臓脂肪は低下傾向あるが筋肉量は減っていなかった。HbA1cの高い(8.4以上)症例ほどHbA1cの低下量は大きく、HbA1c低下-0.7以上の著効例では投与前HbA1cが有意に高値であった。
 そして松葉医院院長 松葉育郎先生が座長をされた特別講演「糖尿病治療の近未来~新しい治療薬への期待~」を草津総合病院理事長 柏木厚典先生にご講演いただきました。ご講演の内容を簡単に紹介いたします。
 イプラグリフロジンの開発と臨床試験に最初からかかわってきたので、現状と問題点を中心に話したい。
 人口の高齢化と肥満者の増加のため肥満2型糖尿病が増加している。糖尿病患者の40-50%は肥満であり、平均年齢65歳となっている。糖尿病管理は最近10年間で改善傾向みられるが、一方肥満者は年齢が若くコントロール不良で、高血圧、脂質異常症、血管合併症、がんや認知症を合併する傾向もみられ、BMIが25以上の人は年間医療費も高額となる。
 SGLT2阻害剤は近位尿細管での糖の再吸収をブロックすることにより血糖降下作用を発揮する。イプラグリフロジンの国内第3相試験において、著明なHbA1c低下、空腹時血糖低下、体重・腹囲減少、単独使用では低血糖おこさないこと、他の経口薬との併用でも同程度のHbA1c低下効果みられ、一日一回投与ですみ血糖コントロール不良者で大きな効果みられる。また肝機能改善、中性脂肪低下、HDLコレステロール増加、尿酸減少、インスリン抵抗性改善、アディポネクチン増加、レプチン減少もみられた。
 浸透圧利尿に伴う脱水によりHtは2%増加する。ケトン体上昇は投与初期にみられる。腎機能低下(eGFR60未満)者ではあまり効果が期待できない。eGFRは投与初期少し低下するが、長期的には変化見られない。ただし腎機能低下例においては腎障害に注意すること。
 副作用・留意点について述べる。尿路・性器感染(女性に多い。既往のある例では注意)、頻尿・多尿(高齢、利尿薬、下痢・嘔吐、シックデイに注意)、脱水(口渇を訴えないまま脱水になっていることあり。Ht上昇は2%までに抑えること)、低血糖(インスリン、SU剤、グリニド併用に多い)、皮疹(湿疹・紅斑・掻痒などは投与2週間以内の早期に出現しやすい)、またケトアシドーシスは肝障害者、インスリン欠乏状態、低糖質食で起こりやすい。
 適応例としては肥満者(CPI(空腹時CPR÷血糖値(mg/dl)×100)1.2以上)、インスリ抵抗性症例(HOMA-IR2.5以上)、インスリンがよく分泌されている者(CPR1.0ng/ml以上)、メタボリックシンドローム合併例、腎機能が良い者(eGFR45から60以上)、若年から壮年者、NAFLDあるいはNASH合併例、心血管イベントのない者、体重減少を期待する者などがよい適応である。
 最後にいくつかの症例提示を行い講演を締めくくった。
 最後に宮川政昭副会長の挨拶のあと、別室にて情報交換会が行われ、盛会のうちに終了いたしました。
 新春学術講演会は2つの講演が互いに関係する分野の話となるよう企画され、テーマの内容について深く掘り下げた理解が得られるまたとない絶好のチャンスです。

【第78回集談会報告】
 第78回神奈川県内科医学会集談会が平成27年2月14日(土)に横須賀市医師会館(最寄り駅 京急横須賀中央駅)にて横須賀内科医会の担当にて開催されました。横須賀内科医会顧問南信明先生の司会により午後3時から横須賀内科医会副会長野村良彦先生の開会の辞に続き、中佳一会長、横須賀市医師会会長遠藤千洋先生、横須賀内科医会会長沼田裕一先生の挨拶のあと、一般演題16題がすべて口演により行われました。午後5時過ぎより特別講演「生活習慣病とがんの共通分子病態~健康長寿社会を目指して~」を熊本大学院生命科学研究部分子遺伝学分野 尾池雄一教授にご講演いただきました。講演内容の概略を以下に記します。
 高齢化社会となってがんが増えている。また依然として動脈硬化性病変による死亡も多い。
(1)ゲノム医学の進歩が大きく変えた病態成因の考え方
 ゲノムとしてのDNAが転写されトランスクリプトームとしてのRNAとなり、さらにフェノタイプ(表現型)としてのプロテオーム(蛋白)やメタボローム(代謝物)が生成される。近年、転写の過程でのエピゲノムによる制御が遺伝子発現に係わっていることがわかってきた。DNAについているヒストンのメチル化により遺伝情報の転写が抑制されることである。また蛋白質に翻訳されないmicroRNAも遺伝子発現の制御に関与している。このような後天的な表現型の形成には生活習慣の影響が大きく、また腸内細菌の作り出す蛋白が我々の健康に及ぼす作用も注目されている。肥満になりやすい体質も腸内細菌の状態で左右されうるし、ある種の病気の治療法としての便移植(FMT)の臨床応用も大きな可能性を持っている。
(2)生活習慣病とがんの共通分子病態
 日本人の平均寿命の延びは著しいが健康寿命との差は10年ある。百寿者を対象とした研究により慢性炎症と各種疾患との関連性が明らかとなってきた。アンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)は内蔵脂肪細胞に多く発現しており脂肪細胞由来の血中循環蛋白である。これが過剰になると脂肪組織の炎症をおこしインスリン抵抗性になったり、血管内皮機能障害をおこすことがわかってきた。またANGPTL2による慢性炎症がDNA障害によるゲノムの不安定化をおこし発癌の原因となる。ANGPTL2の発現の多いがんは運動性高く転移しやすく、腫瘍血管新生も盛んである。現代は不規則な生活により社会的なリズムが失われる傾向がある。リズムを失うことでANGPTL2の過剰作用がひきおこされる。老化に伴いANGPTL2は上昇傾向みられるが、百寿者においては上昇がみられないことは興味深い。
 髙木敦司副会長の閉会の辞のあと、午後7時過ぎより同会館ホワイエにて意見交換会が行われ、次期開催地区の小田原内科医会代理平塚市医師会内科部会会長佐藤和義先生より挨拶をいただき盛況の内に閉会いたしました。

【おわりに】
  学術Ⅰ委員会は平成22年度まで部会長をされた伊藤正吾先生の後を引き継ぎ、平成23年度より新たな体制で活動を開始いたしました。平成27年度も今までの長い歴史のある講演会に新たな変更や発展を加えながら、4つの基本講演会を開催していきたいと思います。今後とも、神奈川県内科医学会本体事業である学術1部会の講演会開催にご協力とご参加をお願い申し上げます。

3 学術Ⅱ部会(部会長:宮川政昭)
 学術Ⅱ部会では、糖尿病対策、肝炎対策、認知症対策、高血圧・腎疾患対策、呼吸器疾患対策といった5つの委員会を組織している。各委員会とも独自の臨床調査や臨床研究を行い学会に報告すると共に、他科との連携事業、県民向けの企画など、さまざまな活動を行った。詳細に関しては、委員会ごとに下記に記載する。

3-1 糖尿病対策委員会(委員長:松葉育郎)
(1)11月世界(神奈川)糖尿病Dayを共催した。市民むけの講演会はじめ、今年はマリンタワーの県下の名所でブルーライトアップが施行された。
(2)糖尿病眼合併症対策班より;2014年神奈川県で開催された日本眼科学会で発表した。 
(3)糖尿病眼合併症対策班より;2014年神奈川県で開催された日本眼科学会で発表した。
(4)インスリン外来導入とSMBG手技の普及について;外来でのインスリン注射の開始が、誰でもできる環境ずくりに取り組む。First Step Insulin TherapyとしてBOTにこだわらず、1本のインスリン製剤で外来導入をはじめ、一回うちから始める手技を中心とした勉強会を開催した。
(5)Sitagliptin、liraglitideなどのインクレチン製剤に関する適正使用と安全性に関する委員 会内のメンバーでの調査を施行し、講演会などで発表、英文誌に掲載(DRCP、JDI)されました。さらなるサブ解析のデータも投稿中です。
(6)イプラグリフロジン、SGLT2阻害薬製剤に関する適正使用と安全性に関する委員会内のメンバーで
の調査を7月から登録を開始し、観察研究をはじめております。

3-2 肝炎対策委員会(委員長:岡 正直)
(1)肝炎対策特別講演会
 1.平成26年5月22日(木)ホテルプラムにて(共催:ヤンセンファーマ)
 「DAA時代における今後の治療戦略」 関西労災病院院長 林 紀夫 先生
 2.Medical Tribuneウイルス肝炎セミナー「進化しつづける慢性肝炎・肝硬変の治療」
  平成26年11月29日(土)ランドマークホール(共催:ブリストルマイヤーズ)
  講演1「C型肝炎治療の大革命~国内初の経口剤治療とは~」
     虎ノ門病院肝臓科 医長 鈴木義之 先生
  講演2「B型肝炎診療における最近の話題」
     川崎市立多摩病院副院長
     聖マリアンナ医科大学 内科学 消化器・肝臓内科教授 奥瀬千晃 先生
(2)肝臓病を考える病診連携の会~肝がん撲滅を目指して~
 1.第20回 平成26年6月7日(土)相模原市南メディカルセンター
  担当 第5地区 中野史郎 先生 (共催:味の素製薬)
  「新しい肝臓病の治療薬に関して~インターフェロンなしのC型肝炎治療を含めて~」
  北里大学医学部 消化器内科講師 日高 央 先生
 2.第21回 平成26年10月18日(土)新横浜プリンスホテル
  担当 第1地区 岡正直 先生 (共催:ブリストルマイヤーズ)
  「新しい時代を迎えたC型慢性肝炎治療」
  京都府立医科大学 消化器内科学教授 伊藤 義人 先生
(3)ウイルス肝炎患者掘り起こし事業
 1.横浜内科学会肝疾患管理病診連携ガイドの検討
  非肝臓病専門医のもとで、気づかれないまま放置されている肝疾患患者の掘り起こしをはかった。
 2.「肝炎ウイルス検査」啓発用ポスター・チラシ作成の協力
  「一生に一度は肝炎ウイルス検査を受けましょう!」
  共催:神奈川県内科医学会、神奈川県消化器病医学会
  後援:肝臓病を考える病診連携の会、制作協力:ブリストルマイヤーズ
(4)小冊子「これだけは知っておきたいC型肝炎・B型肝炎の知識」
 平成25年改訂版を「肝臓病を考える病診連携の会」など当委員会主催の研究会で配布した。

3-3 認知症対策委員会(委員長:渡部廣行)
1.「第18回認知症を考える神奈川の会」
 平成26年9月18日(木)ベイシェラトンホテルにおいて、開催した。今回は、神奈川県の認知症に対する取り組みとして、「よりそいノート」の現況と若年性認知症への対応策についての2講演と、神経変性疾患(認知症を含めて)と嗅覚障害についての講演を企画しております。会員の先生方には多数のご参加をお願い申し上げます。
2.認知症クリニカル・カンファレンスの準備と開催
 事例を提示し、実際の臨床に即したカンファレンスを行えるように準備しております。目的は、認知症をどのように診察し、その後の対応をどのようにしたらよいか考え、認知症診療を安心して実践していけるようにするためです。実施時期は未定ですが、今年度内に県内5地区を各一回ずつ実施したいと考えております。各地区の医師会と連携して実施したいと思っておりますので、ご協力のほどお願い申し上げます。
3.臨床研究中止のお詫び
 「認知症と生活習慣病の関連性」について、依頼先のNPO法人から、臨床研究の倫理規定の改定等の問題があり、一旦この研究を白紙にしていただけないかとの連絡がありました。現在、他の研究もストップしているそうです。研究に参加希望なさっていただいた先生はじめ、会員の方々にご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。
 委員会としては、臨床研究を他の方法で検討しております。今後とも認知症対策委員会に尚一層のご協力をお願い申し上げます。

3-4 高血圧・腎疾患対策委員会(委員長:佐藤和義)
①神奈川県高血圧臨床実態断面調査
第4回の神奈川県高血圧臨床実態断面調査(2014)を平成26年10月1日?平成26年11月30日の調査期間で実施した。
今回は従来の郵便及びFaxによる調査票の回収以外にWeb画面での登録も導入し実施した。この事によりより多くの会員の先生方に参加し易くなると同時に集計の簡素化をはかれるものと考え導入させてい頂きました。
第3回の高血圧臨床実態断面調査(2011年)の成績は平成25年の第二回臨床高血圧フォーラムで発表しましたが御参加頂いた会員の先生方全員にに伝わるようにそれぞれの先生に投稿して頂きペーパーにました。
    Report on Experiments and Clinical Cases
          Nobuo Hatori et al
      神奈川における降圧治療の経時的変遷
     Changes in Blood-pressure Control among Patients with
          Hypertension from 2008 through 2011:Surveys of Actual
          Clinical Practice
          J Nippon Med Sch Vol.81 No.4 (2014)
    臨床研究
     窪島真吾ほか          
           降圧目標達成への要因
           ?神奈川県高血圧臨床実態断面調査2011年?
      血圧 vol 21 no.1 2014
    柁原先生 降圧目標への患者の要因・医師の要因については現在掲載
             準備中。
②非糖尿病患者におけるCKDの実態調査(K-CKDI調査)
第37回日本高血圧学会総会(2014年10月横浜)に演題が採択され発表した。
宮川先生
?かかりつけ医に高血圧で通院中の非糖尿病におけるCKDの実態?K-CKDI調査?Current Status of CKD in Non-Diabetic Patients with Hypertension Attending to Primary Care Doctors-K-CKDI Study-
聖マリアンナ医科大学の安田先生
?かかりつけ医に通院中の糖尿病を除いた高齢患者におけるCKDの実態?K-CKDI調査?Current Status of CKD in Elderly Patients with Non-Diabetic Chronic Disease Attending Periodically to Primary Care Doctor
原著
 神奈川県慢性腎臓病(CKD)対策連絡協議会 安田 隆ほか
?かかりつけ医に糖尿病以外の慢性疾患で通院中の症例では4割が
  慢性腎臓病(CKD)を有している?
    日医雑誌 第143巻・第11号/平成27(2015)年
③2型糖尿病患者に対するシタグリプチンの有効性と安全性に関する
   調査研究
第37回日本高血圧学会総会(2014年10月横浜)に演題が採択され発表した。
湯浅先生
?実地医家が診療する2型糖尿病患者を対象にしたシタグリプチンの有効性・安全性の調査研究(ATTEST-K研究)?シタグリプチン投与前後における外来血圧の変化量の比較検討?A Primary Care-Based Study of the Safety and Efficacy of Sitagliptin in the Treatment of Type 2 Diabetes
④高血圧治療ガイドライン2014に対するアンケート調査
小林先生がパイロットで行った相模原の調査成績を第37回日本高血圧学会総会(2014年10月横浜)採択され発表した。
高血圧治療ガイドライン2014に対する実地医家でのアンケート調査
A Questionnaire Survey for JSH2014 in Sagamihara Physicians Association
神奈川県全体でのアンケート調査を実施した。

3-5 呼吸器対策委員会(委員長:西川正憲)
 平成26年度は、(1)気管支喘息・COPDの治療管理に焦点をあてた活動と(2)災害時の在宅酸素療法、在宅人工呼吸器使用患者への対応などについて、より質の高い医療を提供・共有できるように活動することを目的に、計4回(平成27年3月3日開催を含めて)の委員会を開催しました。
気管支喘息・COPDの治療管理では、治療薬の基本となっている吸入薬の効果を最大限に引き上げるために「吸入療法ステップアップセミナー」をNPO法人「吸入指導のステップアップを目指す会」と共催し、第1回を平成26年10月4日(土)に横浜市神奈川区で開催しました。その後、平成27年1月27日(火)と2月24日(火)に藤沢市、3月14日(土)に川崎市、3月24日(火)に鎌倉市、3月28日(土)に小田原市、4月25日(土)に相模原市で順次開催しています。
平成27年2月7日(土)には、ノバルティスファーマとの共催で「COPD」をテーマに「神奈川県呼吸器疾患フォーラム2015」を開催しました。中佳一会長のopening remarksに始まり、草加内科呼吸ケアクリニック院長新謙一先生と和歌山県立医科大学准教授松永和人先生の特別講演2題、小野容明副委員長のclosing remarksで締めくくり、会員諸兄の診療にとても役立つ情報を共有しました。     
災害時の在宅酸素療法、在宅人工呼吸器使用患者への対応では、平成27年秋に第25回神奈川在宅呼吸管理研究会と合同開催で、講演会「実地経験に基づく大災害時の対応」を企画しています。

4 社会・公益部会(部会長:羽鳥 裕)
社会・公益部会では、従来の禁煙・分煙推進、ジェネリック医薬品評価検討、在宅医療、シニアの4つの委員会に加え、26年度より心臓血管病対策委員会を新設し、5つの委員会でそれぞれ活動を行った。

4-1 禁煙・分煙推進委員会(委員長:長谷 章)
A. 禁煙指導マニュアル「今日からできるミニマム禁煙医療~禁煙外来を開設しよう!~」の編集・執筆・発刊(平成26年4月13日開催の第31回日本臨床内科医会総会で配布)
B. 神奈川卒煙塾への講師の派遣・協力
C. 「禁煙、分煙活動を推進する神奈川会議」との協力による公共の場の禁煙化の推進、神奈川県へ受動喫煙防止条例の内容強化へのアドバイス、日本政府へ受動喫煙防止法の制定へ向けたアドバイス

4-2 ジェネリック医薬品評価検討委員会(委員長:湯浅章平)
①平成26年度委員会構成員
会長 中佳一(厚木市)
担当副会長 羽鳥裕(川崎市)
委員長 湯浅章平(鎌倉市)
副委員長 井野元勤(横浜市)
委員 荏原太(横浜市)、武岡裕文(横浜市)、中山脩郎(横浜市)、山田峰彦(藤沢市)、山本晴章(相模原市)、柳川忠二(東邦大学薬学部)
なお、平成27年4月から塚本光嘉先生(横須賀市)が、新メンバーとして加入いたします。
②委員会開催(計7回)
第1回平成26年4月16日
第2回平成26年5月21日
第3回平成26年6月18日
第4回平成26年8月26日
第5回平成26年10月28日
第6回平成26年12月15日
第7回平成27年2月16日
③ジェネリック医薬品に関するアンケート調査
平成26年、6月から8月にかけて、神奈川県内科医学会会員にジェネリック医薬品に関するアンケート調査を実施し、200名の先生がたから回答をいただきました。で、結果の一部を、横須賀市で開催された第16回集談会で発表しました。アンケート調査にご協力いただいた先生がたに深謝いたします。
④委員向けのレクチャー開催
東邦大学薬学部の柳川忠二先生、北里大学薬学部の近藤留美子先生から委員向けにレクチャーをしていただきました。またレクチャー後、各委員の先生方がお持ちの、ジェネリック医薬品に対する疑問等について意見交換を行いました。

4-3 在宅医療委員会(委員長:久保田 毅)
①平成26年度 『神奈川県内科医学会在宅医療研究会』
今年度は藤沢地区における在宅医療従事者が現状の課題を共有して問題解決の方法を模索し、関係者同士の連携を強化するきっかけとなることをめざして藤沢で開催した。それぞれの職種の立場からの現状における問題提起があり、活発な意見交換が行われた。教育講演においては、順天堂大学から本井ゆみ子先生をお招きし、認知症の最新の知見を学ぶことができた。
日時: 平成26年10月11日(土) 14時?16時50分
場所: 藤沢商工会館(ミナミパーク)502会議室 藤沢市藤沢607?1 TEL 0466-27-8888 
スケジュール 
14:00?14:05 
開会の辞 神奈川県内科医学会 副会長 梶原 光令 先生 
14:05?15:45 第一部 在宅医療に関する発表
座長 山口クリニック 院長 山口 邦彦先生
1:訪問診療における現状と問題点 
のぐち内科江ノ島クリニック 野口 正徳先生
2:訪問歯科診療の現状と問題点 
さくら歯科医院 渡邊 真人先生 
3:「薬剤師の在宅医療」-藤沢市薬剤師会の取り組みを中心に 
藤沢薬剤師会薬局 薬局長 小林 フミ子先生
4:訪問看護の現状と問題点 
藤沢訪問看護ステーション 金子 晶子先生
5:ケアマネージャーの現状と問題点 
藤沢市在宅介護事業所連絡協議会みどりの園 松川 竜也
6:認知症患者の在宅医療 
大木医院 大木 敦久先生
15:45?16:45 
第二部 教育講演
              座長 神奈川県内科医学会在宅医療委員会 委員長 久保田 毅先生
『認知症の最新診療-生活習慣病を踏まえて』
順天堂大学大学院 認知症予防診断治療学講座 先任准教授 本井 ゆみ子先生 
16:45?16:50 閉会の辞 藤沢市内科医会 会長 宮本 京先生
②神医ニュース「連載シリーズ」論文寄稿
神医ニュース72号「連載シリーズ 在宅医療」
2014(H26)5.2 在宅医療委員会委員長  久保田 毅
『地域包括ケアシステムって何のこと?』
『地域包括ケアシステム』、今年の春からさかんに見かける用語です。国が推進する政策ですが、あまりに概念が優先する用語であり、意味がよくわかりません。まずは、厚生労働省のホームページをみてみまししょう。ホームページには、(1)の説明が掲載されています。
(1)地域包括ケアシステムの実現へ向けて
 日本は、諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行しています。65歳以上の人口は、現在3,000万人を超えており(国民の約4人に1人)、2042年の約3,900万人でピークを迎え、その後も、75歳以上の人口割合は増加し続けることが予想されています。このような状況の中、団塊の世代(約800万人)が75歳以上となる2025年(平成37年)以降は、国民の医療や介護の需要が、さらに増加することが見込まれています。このため、厚生労働省においては、2025年(平成37年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。
(2)誰が地域包括ケアシステムを構築するのか
 厚生労働省保険局医療課長の宇都宮啓氏は2013年10月4日、第57回社会保険指導者講習会(日本医師会と厚労省の共催)で講演し、「国は『地域包括ケアシステム』の2025年までの確立を国策としています。様々な制度改正はその確立をサポートすべく行われており、診療報酬改定も同様で、2012年度改定を確立に向けた第1歩とすると2014年度改定は第2歩となる」と医療政策の方向性を明らかにしました。地域包括ケアシステムとは、高齢者に対する「医療」「介護」「介護予防」「生活支援」「住まい」の5つのサービスを、日常生活域で必要に応じて一体的に提供する体制を言います。超高齢社会を迎え、高齢者が人生の最後まで住み慣れた地域で生活を継続できるよう、厚労省の「地域包括ケア研究会」が2010年に提唱したものが基礎になっています。医療や介護の専門家だけでなく、住民主体のサービス、ボランティア活動もケアのリソースとして盛り込んでいるのが特徴の一つです。
(3)医療のあり方は今までと同じで良いのか?
 宇都宮氏が再三強調したのは、「高齢者のさらなる増大により、医療は変わっていかなければならない」ということです。65歳以上の高齢者は2025年には人口の3割、2060年には4割に達すると推定されています。そうした時代には、治らない慢性疾患を幾つも抱えた高齢患者が医療機関で圧倒的多数を占めます。すると、治すための医療「Cure」よりも、支える、場合によっては看取るための医療「Care」が求められます。
(4)医学教育の方向性はどうすればいいのか?
 このような少子高齢化の現実を直視せず、「今の医学部教育や医療現場は治すことばかり教えているのではないか」と宇都宮氏は問題提起しました。医療ニーズの変化に対応するには、医療者が地域包括ケアシステムに目を向け、介護や生活支援サービスと連携しながら医療を提供することが重要だと同氏は続けました。(2,3,4は日経メディカルで報道されました。)
(5)現在の医療施設にできること、やるべきこと
 地域包括ケアシステムの達成された状況とはどういう状況をいうのでしょうか?今現在も、地域包括ケアシステムが機能している局面はあります。それは、住み慣れた自宅で家族とともに患者さんのお看取りが達成できた状況です。自宅お看取りができた事例というのは、(2)で示した、高齢者に対する「医療」「介護」「介護予防」「生活支援」「住まい」の5つのサービスを、日常生活域で必要に応じて一体的に提供する体制ができたことの証しであるからです。ですから、『地域包括ケアシステム』というのは、行き当たりばったりに救急医療へつけまわすことなく、自宅あるいは自宅近くの介護施設で、穏やかに高齢者をお看取りできること。と言い換えれば、具体的なことが理解できると思います。要するに、「在宅での穏やかな看取りを推進してくれ。」ということなのでしょう。2005(H16)4月に、「在宅療養支援診療所」という概念が導入され、とことんやる診療所しか在宅医療をやれないのか?という気持ちが開業医の間に広がってしまった、と私はみています。でもそんなことはありません。今までも、そして現在も普通の診療所でも多くの看取りが実践されているのですが、もっと普通の診療所でも看取りを進めて欲しいというのでしょう。厚労省のメッセージが、今回の診療報酬体系からも読み取れます。どうでしょう、皆様が経営している普通の診療所でも、10年以上通院していて長く診療してくれた医師に、自宅で看取ってもらいたいと願っている患者さんはかなりいるでしょう?在宅療養支援診療所を標榜する必要はないのです。普通の診療所で年間1人でも2人でもいいから在宅看取りをしてみませんか?それが、「開業医にしかできない地域包括ケアシステムの実践」なのですから。



神医ニュース73号「連載シリーズ 在宅医療」
2014(H26)11.10 在宅医療委員会委員長  久保田 毅
『介護施設における医療の質』
 いろいろな場所で、以下のような御指摘を時々頂きます。
A病院長: 「週末になると、市内の介護施設から急病でもない、急な外傷でもない、徐々に衰弱した高齢者が救急車で搬送されてくる。その結果救急病棟が満床になってしまって、本来の救急患者を受けられない。介護施設で徐々に衰弱していく高齢者は、施設の協力医師やら配置医師やらが対応するはずでしょ?久保田先生は平塚市医師会の救急医療対策担当理事なのだから、医師会でもしっかり対応してもらわないとね。」
久保田: 「院長先生申し訳ありません。御指摘のような事例は、平塚だけでなく全国で問題視されているのですが、介護施設の配置医師やら協力医やらは、どこから誰がきているのか医師会は知らないのです。医師会には何の連絡もないし、医師会員でもありませんので、現時点では対応できないのが実情でございます。」
(1) 介護施設の設立の許認可は市町村です
 介護施設を設立しようとする者は、行政で定められた基準を満たした書類作成して市町村に申請します。そこには当然配置医師やら協力医療機関やらが記載されています。審査の結果用件を満たせば、認可されて開設に至ります。知らないうちに勝手に協力医療機関として書類にのせられてしまい、迷惑している病院があるという事実もお聞きしました。
(2) 医療施設の制御は県の保健福祉事務所(保健所)が行います。
 久保田医院を開設しようすると、保健所で御指導頂いた煩雑な用件を、事細かに全うしないと開業することはできません。常日頃の保険診療の内容については、国保連合会(国保)や支払基金(社保)の点検を経て、最終的には医療費を支払う保険者に納得してもらわなくては診療報酬を振り込んでもらえません。また、診療報酬算定にあっては、逐一関東信越厚生局へ書類を整えて提出し、その許認可を得なければ何もできませんし、毎年関東信越厚生局へ実績報告を文書で提出しなければならないものもあります。これだけがんじがらめに行政の管理をうけて、はじめて医業が営めるのです。無責任な診療はできないようになっているのです。
(3) 介護施設の医療は誰が管理するのか?
 そういうことです。介護施設の許認可は市町村が行う。医療施設の管理指導は、県の保健福祉事務所が行う。介護施設内の医療の質を管理する責任が宙に浮いているのです。そういう構造の下で、患者斡旋ビジネスで抱え込まれた、担当介護施設から遠く離れたところで生活している医師が、定時の訪問診療のみを行い、入居している高齢者の具合が悪くなっても呼び出しに応じない。「救急車で近くの病院へ運べばいいだろ。」こういう状態になっているわけです。このやり方を主導しているのは、医療処置を要する患者を抱えたくない介護施設側の都合なのか、担当医師側なのかは知りません。
(4) どこを制御すればよいのか?
 先にあげた介護施設において責任を全うしない医療施設を制御するため、厚生労働省は、平成26年4月に介護施設などの集合住宅における在宅医療の診療報酬を従来の1/4程度に減額しました。この方法は、まともに診療を重ねている医療施設まで巻き込む「除草剤散布」と言っていいでしょう。医療は保健所管理、介護は市町村管理という構造を市町村管理に一元化し、医療と介護の有機的な活用を行政が模索していることは報道されています。病床数を減らして介護施設へ患者を誘導しようとしてきた段階にあっては、「介護施設内の医療の質」を厳しく制御すると介護施設の普及が進まないから、問題があってもお上は見て見ぬ振りをしてきたのだろう、というのが私の推測ですが、そろそろ本質的に制御しないと、介護施設内の無責任な医療が救急医療現場を崩壊させてしまうでしょう。

4-4 シニア委員会(委員長:中山脩郎)
 平成25年3月に行った、会員の診療、地域医療、日常生活等々の生活実態アンケート調査を行い、その分析結果を標題‐第3の人生‐として出版・配布をした。
 委員会(アンケート分析会議)開催日
  第1回 平成26年6月6日
  第2回 平成26年9月25日
第3回 平成26年10月3日
第4回 平成26年10月17日
第5回 平成26年10月26日
第6回 平成26年11月3日
第7回 平成26年12月5日
第8回 平成27年1月28日

4-5 心臓血管病対策委員会(委員長:國島友之)
神奈川県内科医会会長 中 佳一先生、副会長 沼田裕一先生・羽鳥 裕先生の御尽力にて、平成26年6月9日心臓血管病対策委員会が新たに設立されました。
 循環器疾病治療は、主に循環器専門施設が当たる急性期治療と実地医家を含めた慢性期治療に分けられます。慢性期治療は血圧、脂質・血糖管理、睡眠管理、感染予防などリスク管理を主体とした全身管理となり、理想とされる多職種介入による疾病管理プログラムを全ての症例に行うことは難しいのが実情であり、実地医家も活用すべきであると考えます。一方で、他の領域同様に循環器領域おける診断方法・治療法は日進月歩で進歩しており、積極的に最新の知見を吸収し実践することは難しく、本委員会の目的は実地医家の臨床レベルを向上・維持し、専門的な機器に乏しい実地医家の診断向上・治療方針決定の一助になれるよう、平成26年度は以下の事業を行いました。
1. 循環器疾患の啓発
2014年11月26日横浜ベイシェラトンホテル&タワーズにて第1回心臓血管病学術集会を開催しました。一般講演として「心房細動 病身連携について:三谷和彦先生(副委員長)」「心房細動抗凝固療法の現状:堺浩之先生(副委員長)」に続き、特別講演として:「レジストリーから学ぶ急性心不全update」を日本医科大学武蔵小杉病院 佐藤直樹教授(委員会顧問)にお話いただきました。いずれも現在の委員会の研究テーマならびに今後のテーマであり、参加された先生方は熱心に聞き入っており、会場はほぼ満席であり盛会のうちに終了しました。
2. 心臓血管病における病診連携
(1)病院・クリニック間で困っている症例が異なる病診連携(逆紹介)について
    今年度Afについて実地医家に対してアンケート調査を行った。結果、予想以上に循環器専門医と非専 門医で意識が大きく異なっており、今後解析結果を公表して行くことになりました。
(2)神奈川県循環器救急レジストリーについて
(昭和大学藤が丘病院 鈴木 洋教授(委員会顧問))
神奈川県おいて地区毎に治療も含めて差がある循環器救急疾患について、大学病院を含む救急受け入れ可能な病院と医師会さらに行政を含めた、東京都CCUネットワークのような全体の把握が出来るシステム作りが提案され、神奈川県内科医学会のサポートを依頼された。
3. 循環器疾患における実態調査
委員会独自の研究として、平成25年度日本循環器学会の後援を得て川崎市内科医会を中心に抗凝固療法の実態調査ASSAF-Kを行い、初年度約3000例の解析有効症例を得る事が出来ました。平成26年9月日本心臓病学会(仙台)にて一部解析結果を発表。平成26年度全県レベルに拡大させ、新たに東海大学・北里大学においても症例登録が開始され、第3・4・5地区にても説明会を予定しています。登録時点において既に従来と異なる知見が得られ平成27年4月26日日本循環器学会総会(大阪)にて発表予定です。現在登録1年目のフォローを開始しており、その結果が楽しみです。

5 情報・広報部会(部会長:宮島真之)
1)平成26年度委員会構成員
会長:中 佳一(厚木)
担当副会長:沼田裕一(横須賀)
部 長:宮島真之(川崎)
副部長:高橋 功(茅ヶ崎)
部 員:岡正直(横浜)、宇藤 浩(川崎)、木村耕三(鎌倉)、鈴木研欽(相模原)、大利昌久(足柄上)、三浦薄太郎(横須賀)、中川潤一(相模原)、今岡千栄美(厚木)
2)部会開催について
第1回:平成26年6月4日
第2回:平成26年9月10日
第3回:平成27年3月13日
3)神内医ニュースについて
   平成26年7月1日第72号、平成27年1月1日第73号を刊行した。第72号の巻頭言は高木敦司副会長、第73号は沼田裕一副会長にご依頼した。第69号からは新連載シリーズとして、鎌倉内科診療所 正山 堯先生の「歴史」、おおり医院 大利昌久先生の「感染症」、在宅医療委員会委員長 久保田毅先生の「在宅医療」が開始されているのはご存じの通りである。その他の内容は、学会の動き、日常診療に役立つ大学から見た情報、会員の声、日臨内の動向、窓、この一冊、事業委員会報告、祝辞、表彰受賞者の声、会議報告、お知らせ、編集後記である。
4)神奈川県内科医学会会報について
   平成26年10月第37号を刊行した。内容としては、中 佳一会長の巻頭言に続いて学術講演会(平成26年新年学術講演会、第77回集談会、平成26年度定時総会時学術講演会、第38回臨床医学研修講座の内容)、四大学紹介(東海大学医学部)、地区医会だより、日臨内だより、平成25年度事業報告・収支決算書、平成26年度事業計画・収支予算案、お知らせ、編集後記を記載した。
5)日本臨床内科医会の広報への協力
   平成26年4月13日第31回日本臨床内科医会総会が、東京商工会議所で開催された。会頭には神奈川県内科医学会 中 佳一会長が就任され、総会時の講演会の概要、 神奈川県内科医学会幹事の先生方の協力の状況などをレポートし、会員の皆様にお知らせした。
 6)Web会議施行への取り組み
A.  Web会議試行について
(株)MYTHOS(ミュートス)の双方向コミュニケーションシステム「EAKS」を使用して、Web会議サービスを運用開始することを目的に平成27年1月26日、2月16日に打ち合わせ会を開催した。
検討した項目については以下の通り
①機材の取り扱いとシステムの試行
②実際の運用上の問題点の整理、必要機材の確保
③運用上で緊急時対応エキスパートの確保
④Web会議の拡大運用時の問題点の整理と対応
B.  Web会議システムのアンケート調査について
平成27年2月19日の幹事会にて、Web会議を開催する際の必要機材等の準備状況について、出席者へ質問形式での調査を行った。
C.  Web会議の今後の行程について
次回の情報・広報部会(平成27年3月13日金)で、実際の運用開始を前提に、再度説明を受け、機材の再確認や準備を行う予定。
次々回の情報・広報部会で運用開始予定。
7)ホームページの維持管理
8)メーリングリストの維持管理
9)各種文章のPDF化

6 保険・制度部会(部会長:小林明文)
 1)保険・制度部会を5回開催した
2)医療保険Q&A発行について会員より種々の意見、要望等につきアンケート調査を行った
3)平成26年度診療報酬改定について会員にアンケート調査を行った
4)医療保険Q&A発行(平成27年3月予定)に向けて、その内容等につき検討した

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