平成27年新春学術講演会が平成27年1月15日(木)19:30~21:15に、横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ「日輪」にて開催されました。今回は糖尿病対策委員会の松葉育郎委員長の企画により、「新規糖尿病治療薬への期待と課題」のテーマのもと、2つの講演が行われました。
中佳一会長の挨拶に続いて、高井内科クリニック院長高井昌彦先生が座長をされた基調講演「神奈川県内科医学会糖尿病対策委員会におけるSGLT2阻害剤の有効性と安全性の検討」を朝日内科クリニック院長 飯塚 孝先生にご講演いただきました。ご講演の内容を簡単に紹介いたします。
神奈川県内科医学会糖尿病対策委員会では、日常診療において2型糖尿病に対する新規糖尿病薬であるSGLT2阻害剤イプラグリフロジン投与の有効性と安全性を検討するため、臨床研究を開始した。
イプラグリフロジン25あるいは50mgを用いて、20歳以上で12週以上治療しても糖尿コントロール不良(HbA1c6.0以上)者を対象とし、イプラグリフロジンを一日50ないしは100㎎を52週間投与し、坐位血圧、CBC、生化学、血中インスリンまたはCPR、尿一般、体組成測定(T-SCAN PLUS使用)、空腹時ケトン体測定などを行った。有効性は治療開始時より52週間のHbA1c変化量で評価するものとし、4,12,24,36,52週における血糖、HbA1c、脂質、体組織、体重、ウエスト径などをチェックする。安全性についてはケトン体の変化や、有害事象・副作用にも留意する。また食事行動問診票の記入、生活習慣アンケートも毎回おこなっていく。
第1報としての1ヶ月めの中間報告では、HbA1c8.1から7.7、血糖195から164、BMI29から28.8、体重77.8から76.7kg、体水分38.4から37.6kg、細胞外水分15.4から15.1kg、ウエスト101から99cmと改善がみられた。また食事行動問診票で「たくさん食べた後悔」が減っていた。副作用については検討中である。4週間の時点ですでにHbA1c改善、食後高血糖改善がみられた。さらに症例を集め、食事行動の変化や生活習慣への影響についても検討したい。
朝日内科クリニックにおいて、3か月間、26例について同様の検討を行ったので紹介する。対象の平均は52.5歳、身長162.4㎝、3か月後には体重83.3から78.7㎏、BMI31.4から30.2、ウエスト103.5から101㎝、血圧125.8/79.2から122.7/75、血糖242から167、HbA1c9.25から8.4、他にALT、γGTの改善もみられた。体脂肪・内臓脂肪は低下傾向あるが筋肉量は減っていなかった。HbA1cの高い(8.4以上)症例ほどHbA1cの低下量は大きく、HbA1c低下-0.7以上の著効例では投与前HbA1cが有意に高値であった。[終]
そして松葉医院院長 松葉育郎先生が座長をされた特別講演「糖尿病治療の近未来~新しい治療薬への期待~」を草津総合病院理事長 柏木厚典先生にご講演いただきました。ご講演の内容を簡単に紹介いたします。
イプラグリフロジンの開発と臨床試験に最初からかかわってきたので、現状と問題点を中心に話したい。
人口の高齢化と肥満者の増加のため肥満2型糖尿病が増加している。糖尿病患者の40-50%は肥満であり、平均年齢65歳となっている。糖尿病管理は最近10年間で改善傾向みられるが、一方肥満者は年齢が若くコントロール不良で、高血圧、脂質異常症、血管合併症、がんや認知症を合併する傾向もみられ、BMIが25以上の人は年間医療費も高額となる。
SGLT2阻害剤は近位尿細管での糖の再吸収をブロックすることにより血糖降下作用を発揮する。イプラグリフロジンの国内第3相試験において、著明なHbA1c低下、空腹時血糖低下、体重・腹囲減少、単独使用では低血糖おこさないこと、他の経口薬との併用でも同程度のHbA1c低下効果みられ、一日一回投与ですみ血糖コントロール不良者で大きな効果みられる。また肝機能改善、中性脂肪低下、HDLコレステロール増加、尿酸減少、インスリン抵抗性改善、アディポネクチン増加、レプチン減少もみられた。
浸透圧利尿に伴う脱水によりHtは2%増加する。ケトン体上昇は投与初期にみられる。腎機能低下(eGFR60未満)者ではあまり効果が期待できない。eGFRは投与初期少し低下するが、長期的には変化見られない。ただし腎機能低下例においては腎障害に注意すること。
副作用・留意点について述べる。尿路・性器感染(女性に多い。既往のある例では注意)、頻尿・多尿(高齢、利尿薬、下痢・嘔吐、シックデイに注意)、脱水(口渇を訴えないまま脱水になっていることあり。Ht上昇は2%までに抑えること)、低血糖(インスリン、SU剤、グリニド併用に多い)、皮疹(湿疹・紅斑・掻痒などは投与2週間以内の早期に出現しやすい)、またケトアシドーシスは肝障害者、インスリン欠乏状態、低糖質食で起こりやすい。
適応例としては肥満者(CPI(空腹時CPR÷血糖値(mg/dl)×100)1.2以上)、インスリ抵抗性症例(HOMA-IR2.5以上)、インスリンがよく分泌されている者(CPR1.0ng/ml以上)、メタボリックシンドローム合併例、腎機能が良い者(eGFR45から60以上)、若年から壮年者、NAFLDあるいはNASH合併例、心血管イベントのない者、体重減少を期待する者などがよい適応である。
最後にいくつかの症例提示を行い講演を締めくくった。[終]
最後に宮川政昭副会長の挨拶のあと、別室にて情報交換会が行われ、盛会のうちに終了いたしました。
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