「高齢者の認知症とうつ病の正しい理解と適切なケア~転倒を起こさない不眠症治療への対応も含めて~」
香川大学医学部精神神経医学講座教授 中村 祐 先生
高齢者のうつ病の診断が難しいのは、一般的なうつの特徴が、加齢や疾病による活動の低下や高齢者特有の生活パターンと重なることが多いためである。高齢者にうつが多い原因として、経済力の低下や再婚率が低い(独居が多い)といった社会的な問題も見逃せない点である。高齢者うつと間違え易いのは、老化現象、不定愁訴、身体疾患(がん、心不全、COPD)、薬物、認知症、脳梗塞、脳腫瘍などである。症状としては不安焦燥、身体症状、不眠、食欲不振、体重減少が表れやすい。高齢者うつと認知症または無関心(apathy)との鑑別も重要である。認知症患者は不安が強いため、少量の抗うつ剤の併用も効果的である。
高齢者の睡眠は浅く、リズムが乱れやすいため熟眠感が乏しい。原因として昼間の不活発、昼寝、夜間頻尿、身体疾患や内服薬による影響などが考えられる。ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系を問わず、超短時間型の睡眠薬はむしろ転倒を起こしやすい。薬によってふらつくため転倒するのではなく、夜間の中途覚醒が転倒の原因と思われる。最近登場したオレキシン受容体拮抗薬スポレキサントは、夜間の中途覚醒を減らすことにより転倒リスクを回避できる可能性がある。
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